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Simply Dead

映画の感想文。

お知らせなど(映画秘宝・爆音映画祭 etc.)

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 明日5/21発売の「映画秘宝 2010年7月号」で、またまた少しだけ原稿を書かせてもらいました。もうすぐ公開される『鉄男 THE BULLET MAN』関連の記事で、講談社から発売中のDVDブック「完全鉄男」に収録されたシリーズ第1作『鉄男/TETSUO』の幻の初号バージョン『鉄男 The First Cut』についての解説と、第2作『鉄男II BODY HAMMER』の短い紹介文を書いています。『鉄男 The First Cut』は第1作の熱烈なファンであればあるほど「うわーあれも違う! これも違う!」と驚愕しまくること必至の内容となっているので、塚本フリークは要チェック。よければご一読ください!



 さて、ここ最近いちばんの楽しみといえば、もちろん湯浅政明監督の最新作『四畳半神話大系』を観ること。あの超絶的な面白さを毎週ぶつけてくるのは本当に凄い! 特に先日オンエアされた第4話は『カイバ』でも活躍した演出家・横山彰利さんの鬼才ぶりが全開で、思わず「最終回か!?」「劇場版か!?」と錯覚するほど圧倒的な仕上がりでした(ちなみに大学時代の同級生が原画スタッフに入っていたのも嬉しかったです)。もうすぐ放映の第5話も楽しみ。こんなに面白くてカッコいいものを地上波で普通にやってるのに、まだ観てない人の気が知れません。8/20には、DVDBlu-rayの第1巻【初回限定生産版】が早くも発売(以降、全4巻を順次リリース)。仕事でこんなんもやってます。

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 そして来週5/28からは、いよいよ「第三回爆音映画祭」が吉祥寺バウスシアターで開催されます。昨年のカナザワ映画祭でも好評だった『宇宙戦争』『AKIRA』のほか、『イングロリアス・バスターズ』『爆裂都市』『ラスト・ワルツ』『暴走パニック 大激突』『ミッシェル・ガン・エレファント "THEE MOVIE" LAST HEAVEN 031011』『ポーラX』『バグダッド・カフェ』などなど、爆音上映によってどんな凶暴性を発揮してくれるのか興味津々かつ豪華絢爛なラインナップ。中でも注目は、大林宣彦監督の傑作ファンタジーホラー『HOUSE ハウス』! これはなんと、おなじみトラッシュカルチャーマガジン「TRASH-UP!!」の推薦作品として上映されます(そういえば昔、酒の席だかで屑山さんたちが「SMAP主演で『HOUSE ハウス』リメイクすればいいのに」とか言ってたっけ)。あのキッチュでポップな極彩色の幻想世界を爆音&大スクリーンで! ムチャクチャ楽しそう! と同時に、発狂するんじゃないかという心配も……。たいへんスリリングな上映になることは間違いないので、ぜひ劇場へ!
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『プレシャス』(2009)

『プレシャス』
原題:Precious : Based on the Novel 'PUSH' by Saphire(2009)

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 傑作。ここ最近、劇場で観た映画がことごとく良作ばかりで、ちょっと嬉しい。『クロッシング/祈りの大地』『月に囚われた男』『ウルフマン』そして本作『プレシャス』と、いい映画ばかり当たっている。加えて『ジョニー・マッド・ドッグ』や『息もできない』なんていう傑作も上映されてるんだから、インターネットなんて眺めている場合ではない。まあ『シャッター・アイランド』はちょっとアレだったけど、もう忘れた。

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 新人ガボレイ・シディベが唯一無二の存在感で演じる16才の少女プレシャスは、並外れて巨大な肥満体の持ち主であり、学校には通っているが読み書きができない。実の父親にレイプされて2人目の子どもを妊娠中で、家では母親から毎日凄まじい悪罵を浴びせかけられながら生活している……という、これ以上ないくらいの不幸を一身に背負った少女である。だから、観る前のイメージではなんとなく「Extraordinary」な物語を想像してしまう。が、実際の内容は正反対だった。ここで扱われている主題、主人公プレシャスが抱える苦しみは、誰の身にも覚えのあるものではないだろうか。

 この世界に自分なんかが生きていてはダメなんじゃないか、と考えながら生きることの苦痛。今の自分の存在が、自分自身を含む誰にとっても無用で邪魔な存在であると思い込んで生きていくことの悲劇。家族にも愛されず、友人もいないプレシャスの孤立感といったら、ほとんどの人には計り知れないものがあるだろう。だが、彼女がその大きな体の内側に溜め込んでいる“鈍痛”の本質は、きわめて普遍的なマイナスの感情である。

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 この映画では、その苦しみが初めて、ほんの少しだけ解かれる瞬間を、この上なく美しい映像で捉えている。ぼくはそこで涙をぼろぼろこぼして泣いてしまった。少人数制のフリースクール「EOTO」のクラスで、プレシャスが自己紹介するシーンだ。まったく大袈裟な演出などなく、ただガボレイ・シディベのナチュラルな表情と訥々とした台詞があるだけなのに、画面を見つめながら涙が溢れて止まらなかった。最初に泣きそうになったときは、心のなかで「こんなところで泣くなんて俺もあざとい人間だな!」とか思ったが、そんな虚勢も数秒で引き剥がされた。普通はそこから“泣かせ”の演出に移行しそうなものなのに、本当に何もしないのである。衝撃の1カットというものがあるとしたら、まさにあの場面がそうだったと言える。

 いつも映画はノーガードで観ている。泣くときは泣くし、笑うときは笑う。どちらも生理現象みたいなものだから、いくら泣けるからっていい映画だとは思わないし、ちょっと笑えたからといって評価に直結するものではない。問題はどう泣かされたか、どう笑わせられたかだ。そういう意味で『プレシャス』の泣かせ方はちょっと衝撃的だった。観てるあんたたちに任せるから、というスタンスを徹底的に貫いているのだ。だから、きっと特定の場面に限らず、観客それぞれのパーソナリティによって感情を揺さぶられるポイントが異なる映画なのだと思う。

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 リー・ダニエルズ監督のきわめてアメリカ映画ばなれした映像センスも興味深い。どこか煤けたノイズや汚しをフィルム全体にあしらいながら、味気ない灰色のリアリティを再現することが第一目的ではなく、そのなかで美しい幻想的イメージを現出させたり、熱に浮かされたときの視界のような濃厚な色彩と陰影を丁寧に作り出してみせる。その手法は、どちらかというとヨーロッパ的な感性に近いと思った。地獄のような日常と、その現実から逃避するためのきらびやかな妄想世界を行き来する少女プレシャスの心象風景を表すものとして、そのエキセントリックな映像スタイルは効果的に機能していると思う。熱病時の酩酊感を思わせるムードは、感情的にも倫理的にも混乱した彼女の心理状況そのものであり、少しぐらい分かりづらいのもむべなるかな、とも思える。(単に字幕が未整理なところも気になったが)

 そんなエキセントリックな映像演出に対して、前述のようにドラマとしての語り口は決して声高でなく、実に淡々としたものだ。作り手がエモーションを過度に押しつけることなく、間違ってもベタベタなお涙頂戴話にはおちいらない。常に感情の解釈を観客に委ねる自由さがある。そして、時には、その冷静なカメラの視線そのものが凄みを発する場面もある。終盤でプレシャスの母親が心情を吐露するシーンなどは最たるものだろう。あるいは映画の後半、自分の身に起こった最も残酷な事実を聞かされたプレシャスが空想の世界にすっ飛んでしまう場面のユーモアは、ありきたりな悲劇性を鮮やかに裏切ってみせる秀逸な演出で、ハッとさせられた。淡々とした演出を貫いているからこそ、そういったアクセントが際立つのだ。

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 ドラマの感情面と同様に、1987年のニューヨーク・ハーレムという時代背景や社会性もまた、ことさらに強調されることはない。いつの世の物語であってもおかしくない普遍性を、本作の画面はキープし続ける。それでも、税制改革による黒人低所得者層の貧困、破綻しつつある教育現場、急速に広がりつつあったエイズ禍といった要素は、きわめて自然にストーリーのなかに組み込まれている。それらの時代を象徴する社会問題を扱う手つきのさりげなさも、また巧みだ。

 同じく、さりげなくも重要なポイントとして織り込まれているのが、ジェンダーについての意識変化である。尊敬するレイン先生がレズビアンだと知ること、そして魅力的な男性看護士との出会いなどを通して、プレシャスは世界の多様性を学んでいくきっかけを得る。原作者のサファイア、監督のリー・ダニエルズは共にゲイであり、これらの描写にもまた独特のデリケートさ、自然な距離感と優しさがある。さまざまな面で、あまり類を見ないバランスで作られた映画だと思った。

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 主人公プレシャスを演じたガボレイ・シディベの魅力、迫力、説得力は言わずもがな。悲惨な抑圧と虐待のはてに、感情を表現する術も見失いつつある少女の鬱屈を、新人らしい生硬さすら逆に活かして、見事に演じきっている。最小限の演技と自然な佇まいを貫き、型どおりのキャラクター芝居をしていないのも好感が持てた。

 悪魔のような母親役を熱演したモニークは確かに圧倒的で、オスカー獲得も納得の凄みを見せつけてくれるが、この映画でいちばん素晴らしいのは、誰がどう見てもレイン先生役のポーラ・パットンではないか。トニー・スコットの『デジャヴ』(2006)ではその美貌とブロックバスター向きでない繊細な芝居で印象に残ってはいたが、本作の彼女はまさしくオスカー級の名演を見せてくれる。主人公を導くメンターとしての説得力、真に強い女性の優しさと慈愛を、ここまで抑えた演技で表現しきったのは本当に凄い。これこそ“優れた演技”と呼ぶべきものではないだろうか。また、EOTOでプレシャスのクラスメイトになる女の子たちも、みんな素晴らしかった。

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 救いを得たとはいえ、プレシャスの人生は前途多難であり、映画の結末も決してハッピーエンドとは言い難い。が、ラストシーンには誰もがいくばくかの希望を感じずにはいられないはずだ。それは主人公プレシャスの未来に対してではなく、人は誰しも己の生きる力を信じていいのだという、普遍的な希望である。自分自身を認める力を得た人間は強い。生きていける。そのことを教えてくれる『プレシャス』は、だから万人が観て然るべき秀作だと思う。

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原作本『プレシャス』 サファイア(河出文庫)

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『容赦はしない』(2009)

『容赦はしない』
原題:용서는 없다(2009)

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 相変わらずスリラーブームさめやらぬ韓国映画界だが、これは今年の正月に公開されたばかりの1本。監督・脚本はこれがデビュー作となるキム・ヒョンジュンで、娘を誘拐された検視官と殺人犯の息詰まる戦いがサスペンスフルに描かれる。主演は初共演となるソル・ギョングとリュ・スンボム、そして製作を『公共の敵』シリーズのカン・ウソクが担当。キャストも魅力的だし、これは期待できるかも……と思って観てみたのだが、観終わったあとの印象は「悪趣味ここに極まれり」のひと言。結局、ジャンル自体の行き詰まり感を再認識させられるだけの映画だった。また、ゲンナリさせてくれるといえば、ヒロインの新米刑事に扮するハン・ヘジンのテレビ芝居も、相当な破壊力だ。

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 物語は、頭部と四肢を切断された女性の遺体が川岸で発見されるところから始まる。ほどなくして、環境運動家のリュ・スンボムが容疑者として逮捕されるが、彼はさらに巧妙な計画を用意していた。事件を担当する検視官のソル・ギョングの愛娘をすでに誘拐していたのだ。娘の命を救うため、証拠隠滅に奔走する羽目になった検視官は、その過程で意外な真実を知ることになる……。

 もう発端部からしてすでに「なんで犯人は事件の担当検視官が誰になるか分かっていたのか?」という矛盾がある上、容疑者が逮捕されるまでの推理部分もズサンすぎる。新米女性刑事が環境保護を訴える著書のなかから犯行手口とリンクする一文を見つけるのだが、書いたヤツをそのまんま疑うあたりが微妙にバカっぽい。そこは読んでるヤツも疑うとかさあ。というか、あまりにも都合よく逮捕されすぎだ(それが犯人の目的なのは分かるが、逆に捕まらなかったらどうするつもりだったのか?)。実際、主人公に「簡単すぎると思わないか」なんて台詞を言わせているほどだが、それらは作品全体のなかでも些末な問題でしかない。なぜなら、この犯人逮捕のくだりは本筋と全く関係なくなってしまうからだ。

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 そこからさらに、主人公と犯人(たち)の意外な関係性が明らかになり、事件は初めから仕組まれた罠であることが分かってくるのだが……初っ端から無理のある展開でスタートしているので、意外な新事実をどんどん披露されても、観客としては素直に楽しめない。どうせ最後にどんでん返しがあるんでしょ、これからはあとだしジャンケンの連続でやっていくわけでしょ、と鼻白みながらの観戦となる。中盤を過ぎてようやく意味のないミステリー仕立てから脱し、ストーリーが一直線に動き出すと、だんだん集中できるようにはなってくる。が、いかんせんそれまでがあまりに長い。

 この映画は前半と後半でそれぞれ別種の問題を抱えている。前半はスリラーとして説得力に欠ける導入部の弱さ、そしてこの手の作品によくある「小説的ミステリー」と「映画的サスペンス」の無自覚な混同。後半の問題点は、エクストリームな衝撃的展開を求める近年の韓国スリラーブームが行き着くところまで行き着いたはての、あまりにもアンマリな悪趣味だ。父親の娘に対する愛情が完膚なきまでに引き裂かれる、まさしく鬼のようなどんでん返しには、『オールド・ボーイ』(2003)の結末を思い出す人もいるだろう。ただ、あの映画のラストに訪れる悲劇がどこか現実味のある危うさを孕んでいたのに対し、こちらの場合は「そんなことありえねえよ」と断言できる回りくどさのほうが印象に残る。

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 映画が始まって10分ほどで、おそろしくリアルな遺体解剖シーンが始まるところでは、思わず胸ときめいてしまったことは否定できない。しかし、無邪気なスプラッター趣味だと思っていたものが後半で実は……という「重要なストーリー上の材料」にされてしまったとき、なんとも悔しいというか、残念な気分にさせられた。でも、解剖シーン自体は実に素晴らしい出来栄えである。素人目に見て「へえ、解剖ってこうするんだ!」と感動してしまうほど律儀に、しっかりと手順を見せてくれる。「おへそは避けて切開するんだなー」とか「肋骨と胸の肉を切り離す時はそんなふうに削いでいくのかー」とか「内蔵の組織片を切り取るときは刺身包丁を使うんだー」とか、たいへんタメになる映像が目白押し(血や臓物が苦手な人への配慮はゼロ)。ソル・ギョングの鮮やかなメスさばきに、思わずうっとりしてしまうこと請け合いである。

 ラストの衝撃度に全てをかけている映画であり、確かにそのパワーは認めざるをえない。正月公開の娯楽作であるにもかかわらず、それをやり遂げてしまった根性と情熱にも感心する。しかし、基本的には凡庸で平均的な韓国スリラー映画のイメージから逸脱するクオリティではなかった。日本公開されるかどうかは、正直微妙な気がする。

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 やはり『チェイサー』級の傑作というのは、そう簡単に現れないものか。『イテウォン殺人事件』は心底つまんなかったし、『極楽島殺人事件』は意欲作だけど空回り感も強いし、『携帯電話』も評判悪いし、『シークレット』は監督が『セブンデイズ』の脚本家だから全然信用できないし……あとは『影の殺人』と『白夜行』に望みをつなぐか。はあ……。
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