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Simply Dead

映画の感想文。

『かいじゅうたちのいるところ』 (2009)

『かいじゅうたちのいるところ』
原題:Where The Wild Things Are(2009)

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 傑作。スパイク・ジョーンズ、そら離婚もされるわ……と思いながら観ていた。だってこれ、本当に子どもの心をそのまま持ち続けている人間にしか撮れない映画だもの。そんな人が円満な家庭生活など成立させられるわけがない(いや、よく知りませんけど)。これまでスパイク・ジョーンズの映画に対して心底感動したことは別にないけれども、これに関してはさすがに凄いと言わざるを得ない。というか「ようやった!」と誉めてあげたい。なんか一部で評判が悪いと聞けばなおさらだ。子どもなんだから、そんなこと言ったら泣いてしまうじゃないか。

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 何より凄いのは「子どもの感性」と「夢の論理」に忠実に沿って、1本の映画を作りきってしまった蛮勇である。覚悟と言ってもいいだろう。そうやって作ると決めた以上、よくできたフィクションや娯楽映画としてスジを通したり、辻褄を合わせたりすることを、頑なに拒否することになるからだ。だから、ストーリーの繋がりがよく分からないとか、キャラクターの行動原理が単純で行き当たりばったりで暴力的すぎるとか、そういったことを本作の欠点としてあげつらうのは意味がない。子どもの思考とはそういうものだし、夢とはそういうものだ、と感覚的に思い出せる人なら十分に腑に落ちる内容であるはずだ。

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 ここで描かれる夢の中の世界は、主人公であるマックス少年の奔放なイマジネーション、ヤマもオチもイミもない破天荒な空想に支配されながら、同時に現実世界のメタファーでいっぱいだ。かいじゅうたちの繊細で脆弱な関係性は、大人以上に人間関係の複雑さ、回りくどさを辛辣に見抜いている。子どもはなんでも知っているのだ。とはいえ、夢はあくまで夢であり、茫洋として何もかも無秩序に混濁した世界の中では、ありきたりで分かりやすい図式化はされない。その曖昧さが、観客に深読みや想像の余地を与え、より味わい深いものにしている。

 甘い甘い「子ども向けの世界」はあくまで大人が作り上げるものだが、「子どもの世界」は違う。もっとやるせなく、思い通りにいかないもどかしさに満ちた、長い長いあがきの道程だ。スパイク・ジョーンズにとって、それはおそろしいほどリアルな世界である。でっかいかいじゅうたちと暴れまわる夢の中の大冒険でさえも、苛烈なリアリズムに満ちている。

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 全編を通して漂うメランコリーと心細さは、幼年期特有の不安定な感情そのもの。大人とはまた違ったネガティヴな感情に包まれていたあの頃の気分を、この映画はびっくりするほど克明に思い出させてくれる。それは、子どもの「悲しみ」を理解する者にしかできない至難の業だ。

 悲しみ。子どもであることの悲しみ。寂しいことの悲しみ。寂しい子どもであることの悲しみ。寂しい子どもの悲しみが痛いほど分かる大人であることの悲しみ……。この映画を作るために、スパイク・ジョーンズが己の全身全霊を懸けて振り絞ったものが、完成したフィルムには見事に焼き付けられていると思う。文字どおり魂をすり減らして臨んだ作品であることは、想像に難くない。

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 とはいえ、この映画は本当に楽しい。マジで、心底、ムッチャクチャ楽しい。着ぐるみとCGを組み合わせたクリーチャーの素晴らしい「名演」は、本作最大の見どころだ。老人のような子どものような、ナイーヴさとペーソスに満ちたかいじゅうたちの表情は、異様であり不気味であり、だけど見ているうちにどんどん愛おしくなってくる。ドシンドシンと森の中を歩き回り、ダイナミックに飛び跳ね、乱暴に着地し、あらゆるものをボガーン! とぶっ壊す。そんな彼らの姿を眺めるうち、思わずワクワクしてきてしまったら、もうこの映画の虜だ。内なる子ども心が目覚めてしまった証拠である。いかにも「自然にさりげなく撮ってます」風な撮り方にイラッとくる部分もあるが、それは作家性なので目をつぶろう。

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 かいじゅうたちはマックスにとっての「大人」や「家族」といった他者、時には「自分自身」のメタファーでもある。だから、声優陣もいわゆるモンスター風に作りこんだ演技はせず、全員がきわめてナチュラルな芝居を貫く。白眉はやはり、マックスの自己投影的キャラクターでもある癇癪持ちの寂しがり屋キャロルを演じた、ジェームズ・ギャンドルフィーニだ。クレジットを見て内心「ええっ!?」と叫んだ人は少なくないだろう。あの『ザ・ソプラノズ』の親父が!? うまい役者だとは思っていたけど、ここまでデキる人だとは……。

 KW役のローレン・アンブローズもいい。自然な声のトーン、優しさに溢れた芝居が胸に沁みる。KWには母親のイメージも重ねられており、つまり彼女の慈愛に満ちたキャラクターは、マックスが母親に対してこんなにも優しく愛情深いイメージを持っているということも表しているわけだ。それだけで泣けてくるし、それを見事に演じきったアンブローズの妙演にも感嘆してしまう。最初は、母親役のキャサリン・キーナーが演じているのかと思った(そう言われても全く違和感がない)。本作ではプロデューサーも兼ねるキーナー姐さんは、もう言うまでもなく最高。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1994)でもお馴染み、名女優キャサリン・オハラの参加も嬉しかった。キャロルの親友ダグラスを演じたクリス・クーパーの渋い声も光っている。

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 そして、本作最大の発見と言ってもいい、マックス・レコーズ少年の素晴らしさに触れないわけにはいくまい。夢の世界で超ハイテンションにはしゃぎまくり、ふかふかのかいじゅうたちと幸せいっぱいに戯れる主人公マックス役に、はたして彼以上の逸材がいるだろうか!? というくらい完璧なキャスティング。この子を見つけた時点で、スパイク・ジョーンズは映画の成功を確信したのではないだろうか。

 サントラの趣味の良さも、憎たらしいほど素晴らしい。カーター・バーウェル&カレン・Oによる音楽は、時に底抜けに楽しく、時に愛すべき物悲しさを湛えていて絶品だ。たまたま最近、カレン・Oがヴォーカルをつとめるバンド“Yeah Yeah Yeahs”の「Heads Will Roll」「Zero」があまりにカッコよくて聴き倒していたので、何も知らずに映画を観てびっくりしてしまった(曲のリンク先は youtube)。カレン・Oと子ども合唱団をフィーチャーした歌モノ中心のサントラCDは日本でも発売されているが、カーター・バーウェルのスコア盤がダウンロード配信オンリーなのは勿体ないかぎり。

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 いまだにちょっと癇癪持ちで、そのために自ら人間関係に亀裂を入れてしまうようなところもある人間としては、おれも幸せになれそうもないなあ……と落ち込んでしまうような映画だが、そういった気づきを与えてくれるという点でも、素晴らしい傑作である。

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Blu-ray&DVDセット『かいじゅうたちのいるところ』
原作本『かいじゅうたちのいるところ』 著:モーリス・センダック
CD『かいじゅうたちのいるところ』 オリジナル・サウンドトラック by カレン・O&ザ・キッズ
CD「イッツ・ブリッツ!」 by Yeah Yeah Yeahs

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MP3 Download『かいじゅうたちのいるところ』オリジナル・サウンドトラック・スコア by カーター・バーウェル

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近日発売「TRASH-UP!! Vol.5」香港ニューウェーヴ特集について

 来月上旬に発売予定の雑誌「TRASH-UP!! Vol.5」、すでにAmazonでは予約受付中です。メイン特集は「ザ・レジデンツ」「ピーター・アイヴァース」「徹底解剖!『絞殺魔』」「最新作『渇き』公開記念/パク・チャヌク監督インタビュー」、そして「香港ニューウェーヴの過激な世界」。本当に2010年の雑誌なんでしょうか……。ぼくが主に担当したのは『渇き』関連の記事と、香港ニューウェーヴ特集。最近まったくブログ更新できなかったのは、まあ言うまでもなく、これをやってたせいでした。すみません。

 香港ニューウェーヴの記事は、去年観たアン・ホイ監督の『シークレット』(1979)『夜と霧』(2009)が面白かったので、思いつきで言い出した企画です。ニューウェーヴというと社会派とかアート系とか繊細な人間ドラマみたいな印象を持つかもしれませんが、香港ニューウェーヴの場合はむしろ真逆。ホラーや時代劇やバイオレンスなどのB級ジャンルから、常軌を逸した過剰さ・斬新さに溢れた傑作・怪作が次々と生まれた夢のようなムーヴメントであり、つまり完全に「TRASH-UP!!」向きのイカレた作品が目白押しなわけです。最初は2見開きくらいで簡単にやりたいなあ、と思っていたら「もっと膨らまさんかい」という屑山編集長からのお達しがあり、焦って詰め込んでいるうちに恐ろしいことになってしまいました。

 主な内容は「香港ニューウェーヴの流れ」「主要作品紹介1976-1986」「香港ホラー・オルタナティヴ/クァイ・チーホン」「伝説のTVシリーズ『獅子山下』の世界」「パトリック・タムのTV時代」「アン・ホイの原点回帰的傑作『夜と霧』」。そんな感じで結局何ページになったのかよく分からない特集になっております。さすがに1人では書ききれないので、真魚八重子さんや餓鬼だらくさんにも参加してもらいました。ありがとうございます!
(追記:クァイ・チーホンの単体記事はなくなったみたいです。やるって聞いてたんだけどなあ……)

 主要作品紹介では、日本未公開・入手困難なものから近年ソフト化されたものまで、いっしょくたに25本ほど取り上げています。ぼくが担当したのは、香港ニューウェーヴの幕開けを告げたと言われるアクション映画『跳灰』を始め、アン・ホイ『シークレット』『撞到正』、ツイ・ハーク『蝶変』、イム・ホー『夜車』、デニス・ユー『山狗』『凶榜』、パトリック・タム『名剣』『愛殺』『レスリー・チャン/嵐の青春』、ジョニー・トー『碧水寒山奪命金』、ムウ・トンフェイ『打蛇』、ロニー・ユー『復讐の挽歌』、アレックス・チェン『邊縁人』、リンゴ・ラム『アラン・タムの怪談・魔界美女物語』、クリフォード・チョイ『香港ラバーズ/男と女』、ジョニー・マック『省港旗兵/九龍の獅子〈クーロンズ・ソルジャー〉』、フィリップ・チャン『サイレントナイト 平安夜?クリスマス殺人事件?』、イー・トンシン『癲佬正傳』の計19本。先述したように、どこか過剰な部分を持った作品を中心に選んでいます(なので、スタンリー・クワンの『地下情』とかは外しました。秀作だとは思うんですけど、ちゃんとしすぎてるんで……)。この中では特に、アン・ホイの『撞到正』の面白さと、パトリック・タムの『愛殺』の斬新さに度肝を抜かれました。

 香港ニューウェーヴの監督たちは、ほとんどがTV業界出身。彼らがTVディレクター時代に残した仕事については、あんまり詳しい日本語の記事を見かけたことがなかったので、そっちについても少し書いてみました。アレン・フォンとアン・ホイが注目されるきっかけとなったTVシリーズ「獅子山下」は、現在DVD化されている数少ない70年代ドラマのひとつ。そして、映画監督デビュー前はTV界の鬼才として名を馳せていたパトリック・タム監督の作品も、インターネットの動画サイトなどで何本か見つけることができたので、それについても簡単な解説を書きました。昔のことばかり話してても仕方ないので、アン・ホイの最新作にして最高傑作『夜と霧』のレビューも追加。本当はパトリック・タムの復帰作『父子』(2006)の傑作ぶりについても書きたかったんですが、それは別の機会に。

 その他の担当記事、雑誌全体の詳しい内容が分かったら、またここでお伝えしようと思います。お楽しみに!