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Simply Dead

映画の感想文。

2009年に面白かったもの

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 今年は2月に「TRASH-UP!!」チームで韓国取材旅行に行って以来、ほぼ1年間、韓国映画探究に明け暮れておりました。今さらながらにそのレベルの高さに打ちのめされ、すっかり日本映画やアメリカ映画に興味を失いかけたかと思えば、やっぱりそれぞれの国で超弩級の傑作が現れたりして、楽しい1年でした。また、雑誌やブログでの活動を通じて、本当にいろんな方と知り合えたことも、個人的にはすごく大きかったです。

 で、2009年はとにかく面白い映画がたくさんありすぎて、なんならベスト50ぐらい一気に紹介したい気分ですが、まずは10本。

『渇き』
『夜と霧』
『ダンプねえちゃんとホルモン大王』
『GOGO70s』
『楽しき人生』
『チェイサー』
『新宿インシデント』
『ジョニー・マッド・ドッグ』
『あなたは遠いところに』
『イングロリアス・バスターズ』

 あんまり煽りすぎるのもよくないとは思いつつ、やっぱり『渇き』を観た時の嬉しさ・楽しさったらありませんでした。信じてきてよかった、パク・チャヌク! 同じく映画祭で観た『夜と霧』と『ジョニー・マッド・ドッグ』も、ぜひ劇場公開してほしい傑作です。そして、今年いちばん映画館で見逃したことを後悔したのは『新宿インシデント』。イー・トンシン、信じてたのに御免! その他、面白かった映画を30本ほど並べるとこんな感じ。

『グラン・トリノ』
『愛のむきだし』
『コララインとボタンの魔女』
『戦場でワルツを』
『息もできない』
『亀、走る』
『3時10分、決断のとき』
『スペル』
『永遠のこどもたち』
『奇談』
『チョコレート・ファイター』
『グッド・バッド・ウィアード』
『キム氏漂流記』
『バンドゥビ』
『ハウエルズ家のちょっとおかしなお葬式』
『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』
『ラジオスター』
『チェンジリング』
『キングコングを持ち上げる』
『レスラー』
『母なる証明』
『カールじいさんの空飛ぶ家』
『劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇』
『くもりときどきミートボール《IMAX 3D版》』
『素晴らしい一日』
『キャシャーンSins』
『星から来た男』
『メアリーとマックス』
『空気人形』
『ポチの告白』

 こっちの上位10本でもベストテンとして全然通用すると思うんですが、それだけ優れた作品ばかりに出会ってしまったということです。韓国映画ショーケースで観た『亀、走る』『キム氏漂流記』なんてもうムッチャクチャ面白くて、もし来年ちゃんと日本公開されるならもういちどランクインさせたいくらい。『戦場でワルツを』と『愛のむきだし』は、ついさっき駆け込みで観ました。

 今年公開の作品はとりあえず150本くらい観てると思うんですが、韓国映画や香港ニューウェーヴの研究にかまけて(仕事もしてましたけど)新作をフォローできない時期もあり、『SR/サイタマノラッパー』『劇場版 空の境界?第七章?殺人考察(後)』『いのちの戦場』『ウェディング・ベルを鳴らせ!』『キューブホスピタル』『精神』などを見逃してしまったのが残念。

 というわけで、映画については非常に充実した1年だったと思います。面白い作品だけでこんなにゴチャマンとあるのに、わざわざヒドそうなブツに当たっていく暇が全然作れず、巷で話題の『アマルフィーズ/卒業』とか『DRAGON BALL/名もなき恋のうた』とか『20世紀少年も守ってくれない外伝』とか、結構ビッグタイトルを見逃してしまいました(そういうのは、観に行った人の話を聞くのがいちばん楽しいので)。

 だからまあ、そこまでつまらない映画を観た記憶というのはないんですが、強いて「文句なし!」と断言できるワーストを挙げるとするなら、青山真治監督の『こおろぎ』、韓国ホラー『ひとりぼっち』、宮藤官九郎監督の『少年メリケンサック』くらいでしょうか。あと、ソダーバーグが周囲のいろんな情熱をフイにした『チェ 28歳の革命』も凄かった! あそこまで盛り上らないと、逆に清々しい! けど、猛然と腹が立ったのは『ディア・ドクター』。とにかく、雑すぎ。「繊細かつ骨太に、テーマを深々と掘り下げる」風の映画に見せて、実はビックリするほど底が浅いという、まさに映画自体がニセモノとしか言いようがない代物でした。瑛太なんて医学生としての役作りなんか全然してないんだもの。

 新作以外で衝撃を受けたのは、まずなんといっても『鳥肌』(2001)。「TRASH-UP!!」の韓国ホラー特集でも取り上げたユン・ジョンチャン監督の傑作モダンホラーで、ぜひ爆音上映で観てみたい1本。そして、キム・ギヨン監督の『殺人蝶を追う女』(1978)と『火女』(1971)、東京国際映画祭で上映された『玄海灘は知っている』(1961)もかなりのインパクトでした。あと、最近観たパトリック・タム監督の『愛殺』(1981)、イー・トンシン監督の『癲老正傳』(1986)などにも度肝を抜かれました。詳しくは2010年2月発売予定の「TRASH-UP!! Vol.5」香港ニューウェーヴ特集をお楽しみに。

 それでは、よいお年を!
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『ダンプねえちゃんとホルモン大王』(2008)

『ダンプねえちゃんとホルモン大王』(2008)

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 大傑作! あらゆる意味で破天荒の極みでありながら「これが映画だ!」と打ち震えずにはいられない瞬間に溢れた、『イングロリアス・バスターズ』(2009)をも凌ぐ奇跡の1本。笑いと涙と戦慄と、エンタテインメントの全ての要素がぶち込まれ、なおかつ前衛的で破壊的。そして、たまらなく愛おしい。自主映画界の鬼才・藤原章監督のあまりにエキセントリックな語り口が全編に炸裂しながら、この『ダンプねえちゃんとホルモン大王』は、観客全員が清々しいカタルシスを得られる文句なしの娯楽作に仕上がっている。これはものすごい離れ業だと思う。

 何しろ全ての登場人物がことごとく魅力的。免許もないのに「ダンプねえちゃん」と呼ばれている珍妙なメイクのヒロインを始め、世界ケンカ大会チャンピオンの看板を背負った男の中の男・ホルモン大王、ダンプねえちゃんに憧れる美容師志望のフリーター・ポン子、スラム街で電車ごっこに興じる貧乏兄妹、本業は医者だが武道の達人でもある大先生、山奥に住む謎のゴリラ人間などなど……。突拍子もないキャラクター造形にも、深みのある人間観と愛情を感じずにはいられない。

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 そんなポンコツガール&トンチキボーイが、灰色の港町で織り成す小さな恋のメロディー、あるいは森崎東も顔負けの人情喜劇。それがいつしか猟奇的なサイコホラーとなり、血湧き肉踊るリベンジムービーへと変貌する。観客の予想を常に裏切り続ける真にオリジナルな発想力で、物語の約束事を容赦なく破壊しつつ、さらに凄みに満ちた展開をたたみかけて映画のボルテージを数段にも引き上げてしまう。それはまさに、鬼才の仕事というほかない。

 あとやっぱり、ものすごく笑えるところが素晴らしい。特に後半のゴリラ人間が登場するくだりは、自分の中の笑いのツボを鉄パイプでガンガンぶっ叩かれてるかのような、今年最高の笑撃シーンであった。あそこでクスリともこない人は、ちょっと病院で看てもらった方がいいと思う。

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 役者陣の演技も本当に素晴らしく、全員がとてつもない実在感を漂わせている。主人公・ダンプねえちゃんに扮した藤原作品のミューズこと宮川ひろみの熱演は、本作最大の魅力のひとつだ。気っぷの良さとオッチョコチョイな性格でみんなに好かれながら、数字にまつわるあまりにバカな悲しみを抱えたヒロインを、健気に爽やかに、体当たりで演じきっている。

 その他にも多彩な脇役陣が目白押しだが、中でも圧巻の存在感を放っているのが、ヒロインに格闘技の特訓を施す大先生を演じる切通理作。その本業を知らなくとも、この映画を観て彼の名前を覚えていかない人はいないだろう。また、ヒロインを姉御と慕うポン子役・徳元直子の好演、ニートのお兄ちゃん役・酒徳ごうわくのハマリっぷり、ラーメン屋の大将・高橋洋が漂わせる風格、店の常連客・篠崎誠のえも言われぬ説得力、気のいい労務者・渋谷拓生が滲ませる安心感、ヒロインを苦しめる柔術家・花くまゆうさくが放つ凄みなど、いちいち秀逸なキャスティングで楽しませてくれる。

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 だが、やはりこの映画は、ホルモン大王=デモ田中の存在なしには成立しえなかっただろう。まるで劇画から抜け出てきたような豪放磊落な風来坊であり、同時に底知れぬ狂気を秘めたホルモン大王というキャラクターを、ここまでパワフルに説得力十分に演じられる俳優がいるだろうか。その恐るべき正体が明かされる驚愕必至のクライマックスで、彼が劇中それまで見せていた表情とは全く違った佇まいを放つ瞬間も、鮮烈なコントラストを生み出していて絶品だ(撮影当日、二日酔いでものすごく体調が悪かったらしい)。

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 ほかの藤原作品と同様、本作もオールアフレコ方式で作られている。これは編集の際に撮影時の台詞とは全く内容が変わってしまうためらしく、ポスプロ中にもどんどん映画が進化していくという自由奔放な製作スタイルを貫いているからだ。そのリップシンクなどお構いなしの映像と音声のミスマッチ感が、往年のクンフー映画クラシックスを想起させ、暴力とロマンに満ちた映画的記憶に訴えかける独特の効果を生んでいる。

 そのアヴァンギャルドとさえ言える編集スタイルは、藤原作品の大きな特徴だ。過去作品のフッテージや、現実のアクシデントさえも取り込みながら、その作品宇宙になくてはならない強烈なワンシーンとして成立させてしまう。劇場へ観に行った時に行われたトークショーで、クライマックスのある描写がその場で偶然に起きた「事故」だったという話を聞き、驚愕した(ていうか、あれ本物の●●だったのか……)。まさにムービーマジック。

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 今回の映画は、これまでの作品と違って比較的ストレートな娯楽映画を目指して作ったというだけあり、お世辞でなく本当に(いつもよりは)幅広い観客層に受け入れられる、魅力的な快作に仕上がっていると思う。それでも藤原作品らしい一筋縄ではいかないツイストに満ちた、アナーキーな野性味溢れる異色作であり、自主映画ならではの奔放さと荒々しさが全編に迸っている。何か今まで感じたことのない強烈な映画体験を味わいたいという方には、ぜひ観ていただきたい未曾有の傑作だ。『ダンプねえちゃんとホルモン大王』を観ずして、2009年のベストは決められない!

・Amazon.co.jp
DVD『ダンプねえちゃんとホルモン大王』

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『碧水寒山奪命金』(1980)

『碧水寒山奪命金』(1980)
英語題:The Enigmatic Case

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 70年代には香港の放送局TVBで働いていたジョニー・トーが、25歳の時に映画監督デビューを飾った時代劇の佳作。無実の罪で追われる身となったアウトローと、復讐心を胸に秘めたヒロインの交流を軸に、追手との激しい戦い、そして盗まれた金塊の行方をめぐる謎解きが描かれる。

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〈おはなし〉
 輸送中の金塊を強奪した上、盗賊仲間も皆殺しにしたという罪で投獄された流れ者のルー(ダミアン・ラウ)。彼は牢獄内で起きた暴動に乗じて脱獄し、我が身の潔白を証明しようと、強奪事件のあった村へと向かう。道中、彼はひとりの美しい娘ペイペイ(チェリー・チョン)と出会う。彼女の父親は、金塊輸送中に盗賊たちに襲われ、命を落とした役人であった……。

 容赦ない追跡の手をかわしながら、ペイペイの無念を晴らすためにも、事件の真相を探っていくルー。はたして盗まれた金塊の行方は? 本当の犯人は誰なのか? 全てが明らかになった時、そこには哀しい結末が待ち受けていた。

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 同時期の香港ニューウェーヴ時代劇、例えばツイ・ハーク監督の『蝶変』(1979)や、パトリック・タム監督の『名剣』(1980)などに比べると、『碧水寒山奪命金』はやや地味な作りの小品ではある。しかし、雄大な自然を背景にした美しい映像、ストイシズムとロマンが薫る悠然とした語り口には、すでに確固たるオリジナリティが感じられ、非常に魅力的だ。特にロケーションには相当こだわったのだろう。風景を眺めているだけでも飽きずに観ていられる。撮影は『シークレット』(1979)やツイ・ハーク作品の常連スタッフとして知られるデイヴィッド・チャンと、香港ニューウェーヴを代表する作家アレン・フォンの『父子情』(1981)も手がけたチョン・ユン。

 映像的には、どこか日本のTV時代劇からの影響も感じられる。イメージショット的なモンタージュで構成されたオープニングタイトルは、ほとんど『木枯し紋次郎』や『子連れ狼』の世界。見せ場となるアクションシーンは、狭い路地での立ち回りや、大勢の敵を相手にした窮地脱出のサスペンスなど、それぞれにひと工夫あって面白い。激流下りのスペクタクルといった見せ場もきちんと用意され、ツボを押さえた娯楽演出には好感が持てる。

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 一方で、他のニューウェーヴ監督に対抗するかのような斬新な演出もしっかり盛り込まれている。特に、終盤の洞窟内でのバトルが素晴らしい。暗闇のなかで、ヒロインが火打石を擦るたびに剣士たちの鍔迫り合いが一瞬だけ浮かび上がる演出が鮮烈だ。さらにその直後、コマ落としのスロー映像で延々と描かれる殺陣も、異様なスリルに満ちている。単なる一対一のバトルなら単調で間延びした感じになるところを、観客がハラハラしながら見守るしかないドラマティックな工夫がされていて、なかなかの発明だと思った。

 クライマックスでは、主人公たちの感情が昂りすぎて、ほとんど笑ってしまうほどハイテンションな激闘が繰り広げられる。それにしても、寡黙でストイックな主人公が完全に怒りと憎しみだけで敵に向かっていくというのは、なかなか時代劇としては珍しい展開ではないだろうか。ネタバレになるので、あんまり詳しくは書けないけれども、ジョニー・トーって昔から女性キャラに冷たいんだなあ……(もう言ってるようなもんか)。

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 寡黙な剣士を演じるのは、TV俳優として活躍していたダミアン・ラウ。アン・ホイ監督らの参加したドラマシリーズ『ICAC』『北斗星』や、ジョン・ウー監督が初めて手がけた武侠片『豪侠』(1978)など、この時代に活躍していた若手監督の作品にはよく登場する俳優だ。本作では自らプロデュースも手がけており、のちに監督作『天魔の剣』(1986)を発表したり、チン・シウトン監督の傑作『ザ・SFX時代劇 妖刀斬首剣』(1983)にも出演していたりする、たいへん分かっている御仁である。また、可憐なヒロインを演じたチェリー・チョンは、これが映画デビュー作。やや演技が硬いところはあるが、感情を爆発させるシーンもひたむきに熱演し、初々しい魅力を放っている。のちに彼女は80年代の香港映画ブームを代表する大人気女優となった。

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 本作が興行的に振るわなかったせいか、ジョニー・トーは再びTV業界に戻って番組制作に従事し、5年後に映画界へ復帰。『マギー・チャンのドッカン爆弾娘』(85)の助監督などを務め、『ハッピー・ゴースト ?サイキック歌姫転生の巻?』(1986)で監督として返り咲く。以降の活躍はご存知のとおり。釜山映画祭で行われたジョニー・トー監督特集では、この『碧水寒山奪命金』も上映されたというから、日本でもやってくれないものだろうか。とてもスクリーン映えする作品だと思う。

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『凶榜』(1981)

『凶榜』(1981)
英語題:The Imp

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 日本では『デビル・キャット/凶猫』(1986)『エミリー・チュウの吸血奇伝』(1987)などで知られる、香港のデニス・ユー監督による未公開オカルトホラー。派手さはない佳作だが、なかなか面白かった。

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〈おはなし〉
 主人公キョン(チャーリー・チン)は28歳の働き盛りだが、現在は失業中。再就職はままならず、妻のシウラン(ドロシー・ユー)は出産を間近に控えていた。彼は新聞の求人広告を頼りに、とある近代的ビルの警備員として働き始める。ところが、その日から次々と不気味な現象が続発。同僚たちも相次いで怪死を遂げる。キョンはこのビルの建つ場所が、かつて誘拐犯のアジトであり、多くの子どもが殺されていたという事実を知り震え上がる。そんな時、葬式でたまたま出会った風水師(ユエ・ホア)が、彼につきまとう邪霊を取り払ってあげようと申し出てきた……。

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 これが長編3作目となるデニス・ユーは、海外留学を経験し、TV業界での活動を経て映画界に乗り込んできた「香港ニューウェーヴ」派のひとり。プロデューサーとしても『狼の流儀』(1982)や『レスリー・チャン/嵐の青春』(1983)などの重要作を手がけている。本作『凶榜』では、妊娠というデリケートなモチーフを扱い、古典的なゴーストストーリーに男女間のネガティヴな心理ドラマの要素を加味。主人公が精神の均衡を崩していく神経症的スリラーとしても観ることができるあたりは、ロマン・ポランスキーの影響が強いとも言われている。映像的には、前年に香港で大ヒットした『ザ・フォッグ』(1979)のテイストも入っていると思われる。

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 個々のホラー描写はそれほど派手ではなく、幽霊自体も画面にはあまり登場しない。しかし、照明・カメラワーク・音響効果のコントロールによって不穏なムードを巧みに醸成し、全編に恐怖と緊張感を行き渡らせている。また、中盤からは主人公を助ける風水師が登場し、陰陽術で悪霊を退散させようとする展開にシフトするあたりが、非常に香港映画らしい(そのせいで、夫婦間の心理スリラーとしての構造は若干揺らいでしまうのだが)。中国古来の幽霊譚を、都市型モダンホラーとして再構築しようと試みた作品としては、その後の香港ホラーの先駆けとも言えるだろう。往年のアクション俳優ユエ・ホア演じる風水師も昔ながらの衣装ではなく、ごく普通のスーツ姿で現れるところが新しい。

 終盤になると、除霊シーンのスペクタクル、ビルの真下に巨大な地下空間が現出するクライマックス、ゾンビ映画風の展開など盛りだくさん。ピート・ウォーカーの映画も思わせるダークな結末も、なんともいえない余韻を残す。

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 俳優陣の好演も印象的。甲斐性のなさに悩み、夫婦生活にも迷いを感じているナイーヴな主人公を演じたのは、70年代から二枚目スターとして絶大な人気を得ていたチャーリー・チン(チェン・シャンリン)。『五福星』シリーズのハンサム役でも日本の映画ファンには馴染み深いだろう。ちょっと気の強い奥さん役、ドロシー・ユーの魅力的な表情も本作の見どころ。同僚の警備員ファッティ役を演じる名脇役ケント・チェンも、いい味を出していた。

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・YESASIA
DVD『凶榜』デジタルリマスター版(香港盤・リージョンオール・英語字幕つき)

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『母なる証明』(2009)

『母なる証明』
原題:마더(2009)
英語題:Mother

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 面白かったし、凄いとは思うんだけど……何か釈然としないものが残る映画だった。もちろん映画好きなら必見の作品だし、ハッキリ言って「今、ポン・ジュノの新作を観に行かないやつはバカだ!」と言い切れるほど、この監督はもはや世界レベルで目が離せない作家であると思う。さらに、これほど賛否両論が分かれる作品もないだろう。その評価は、ぜひ自分の目で観て決めてほしい。ぼくも、観るまでこんな後味を持ち帰る映画だとは思わなかった。

(以下、映画全体の印象に触れているので、未見の方はご遠慮ください)

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DVD-BOX「ユ・ヒョンモク コレクション」発売!

 今年6月に84歳で亡くなった韓国映画の巨匠、ユ・ヒョンモク。その作品群を収めたDVD-BOXが、韓国映像資料院から発売されます。収録タイトルは、『あなたと永遠に』(1958)、『金薬局の娘たち』(1963)、『終電で来た客たち』(1967)、『長雨』(1979)の4本。昨年リリースされた「キム・ギヨン コレクション」と同様、日本語字幕も収録されています。

 ユ・ヒョンモク監督は、戦後の韓国映画に苛烈なリアリズムと実存主義的なテーマを持ち込み、1960年代から世界水準の映画作家として認められていた人物です。代表作『誤発弾』(1960)は国内外で高く評価され、キム・ギヨン、シン・サンオクと共に、韓国映画の黄金期を牽引しました。日本でも映画祭や特集上映などで何度か紹介されてきましたが、一般的な知名度は決して高いとは言えません。ぼくも『誤発弾』、『殉教者』(1965)、『ママと星とイソギンチャク』(1995)を観た事があるくらい。

 今回のリリースを機に、韓国映画の古典はキム・ギヨンだけじゃない! ということが広く伝わればいいと思います。イ・マニ、イ・ドゥヨン、イ・ウォンセといった監督たちの作品も、もっと観られる機会が増えますように。

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ユ・ヒョンモク コレクション
4枚組/韓国語・英語・日本語字幕つき/HDリマスター版(『あなたと永遠に』は除く)
映像特典:ユ・ヒョンモク監督ドキュメンタリー(50分)、イメージギャラリー
封入特典:65P解説小冊子
(韓国での発売は12月10日。YESASIAでは1週間遅れの取り扱い)

《収録作品》
『あなたと永遠に』(1958)
  刑務所から出てきた男が、昔の恋人がギャングのボスに娶られたことを知り、やがて復讐に走る。
  丹念な演出スタイルが光る、監督の4作目にあたる犯罪メロドラマ。(白黒・109分)

『金薬局の娘たち』(1963)
  李氏朝鮮の時代から、朝鮮が日帝支配下に置かれる1930年代までの激動期を、
  ある四人姉妹のドラマを通して綴った年代記。国内の映画賞を総なめにした名作。(白黒・108分)

『終電で来た客たち』(1967)
  虚無的なムードの中で描かれる、人生に迷った男たちと女たちの群像劇。
  夜間外出禁止令があった当時の韓国では、終電という言葉に特別な意味があった。(カラー・104分)

『長雨』(1979)
  朝鮮戦争のさなか、田舎の農村にある少年の家に、親戚一家が疎開してきた。二家族が同居する中で
  起こる祖母たちの対立を通して、南北分断の悲劇と不条理を寓話的に描く秀作。(カラー・124分)

「PLUS MADHOUSE 04 りんたろう」発売迫る!/新文芸坐オールナイト

 前にも少しだけお伝えしましたが、12月中旬にキネマ旬報社から「PLUS MADHOUSE 04 りんたろう」という本が発売されます。『銀河鉄道999』や『幻魔大戦』、または『迷宮物語』や『METROPOLIS』といった傑作・話題作で知られるアニメーション界の巨匠、りんたろう監督の特集本です。その半世紀以上に及ぶキャリア自体が、日本アニメ史・映像文化史をそのまま重なるという、りん監督の膨大なフィルモグラフィー、そして多くの人々を惹きつけて止まない作品的・人間的魅力に迫った一冊です。ぼくも編集に参加しております。

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「PLUS MADHOUSE 04 りんたろう」
 2009年12月中旬発売
 定価/税込2310円(本体2200円)

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発行/キネマ旬報社
構成編集/スタジオ雄
協力/マッドハウス
体裁/A5版書籍、全208ページ(カラー&モノクロ)

【内容】
◆りんたろう監督作品カラーグラビア
  『幻魔大戦』『X』『METROPOLIS』『よなよなペンギン』など、
  代表作の名場面をカラーで掲載

◆りんたろう監督ロングインタビュー
  映画に魅せられた少年時代から、最新作『よなよなペンギン』まで……
  りんたろう監督自身がそのキャリアを語り明かす、
  100ページを超えるボリュームの超ロングインタビュー

◆関係者コメント集
  りんたろう監督とゆかりの深い方々へのインタビュー
  田宮武(プロデューサー:『宇宙海賊キャプテンハーロック』『X』ほか)
  高見義雄(プロデューサー:『銀河鉄道999』『がんばれ元気』ほか)
  角川春樹(プロデューサー:『幻魔大戦』『カムイの剣』ほか)
  平田敏夫(演出、設定協力:『METROPOLIS』『よなよなペンギン』ほか)
  川尻善昭(アニメーター、監督:『ムーミン』『迷宮物語』ほか)
  兼森義則(作画監督、監督:『X電車で行こう』『アレクサンダー戦記』ほか)
  杉井ギサブロー(監督:東映動画・虫プロ時代からの親友)
  池田昌子(声優:『銀河鉄道999』『火の鳥』ほか)

◆描き下ろしイラスト
  結城信輝、CLAMP、野田卓雄

◆エッセイ
  小山茉美「りんたろう監督への手紙」
  細田守「僕にとって初めての革命映画」

◆資料集──絵コンテ傑作選
  常にスタッフを驚嘆させる、りん監督の緻密な絵コンテの世界を
  『幻魔大戦』など3作品から抜粋して掲載

◆主要作品解題
  『銀河鉄道999』から『よなよなペンギン』まで、
  多彩かつ膨大な作品群の中から18タイトルをセレクトして紹介

◆りんたろうマニアックス
  漫画家、絵本作家、雑誌のモデル……
  りん監督の知られざる活動や、幻のプロジェクトに迫る

◆りんたろうフィルモグラフィー
  東映動画入社時から現在まで、
  りん監督がこれまで携わった作品の完全データ

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 目玉はなんといっても、100ページ以上にわたる、りんたろう監督へのロングインタビュー。汲めども尽きない貴重なエピソードが満載です。アニメにそれほど興味がないという映画ファンでも、『佐武と市捕物控』の演出が三隅研次に賞賛されたり、『ムーミン』の脚本家として沖島勲を起用したり、『幻魔大戦』制作中にとある小説の実写映画化を任されそうになったり……といった逸話の数々は必読でしょう。りん監督はスタイリッシュで鮮烈な映像表現をアニメに持ち込んだ第一人者でもあり、非常に興味深い映像テクニックの秘密についても、本書では余すところなく明かされています。

 その他、角川春樹さんや杉井ギサブローさんなど、りん監督とは縁の深い方々のコメントやエッセイ、詳細な作品データなどを盛り込み、全208ページに凝縮。もちろん代表作のカラーグラビアも掲載。この内容で2310円という値段は、正直ちょっとどうかと思うくらいお買い得です。

 ちなみに、ぼくは「関係者コメント」のまとめと「主要作品解題」を主に担当しました。取材に同行して、いろんな方たちのお話を聞くだけで、ムッチャクチャ面白かったです。作品解説を書くために初めて観た作品もあり、一生愛せる作品が何本も増えました。特に『吾輩は猫である』の素晴らしさはぜひ知ってほしいし、『悪魔の花嫁 蘭の組曲』や『X電車で行こう』などのOVA時代の快作群も再評価されるべきだと思います。『METROPOLIS』と『カムイの剣』は好きすぎて書くのが難しかった……。

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 そして、これも以前お知らせしましたが、今週末12月5日に、池袋・新文芸坐で「マッドハウス・マニアックス」と題されたオールナイトイベントが開催されます。上映作品は、平田敏夫監督の『ボビーに首ったけ』『グリム童話 金の鳥』、りんたろう監督の『X』『カムイの剣』。どれも面白い上に、スクリーンでお目にかかる機会の少ない作品ばかりです。未見の人も、すでに観ている人も、これが最後のチャンスだと思ってぜひ劇場へ! 当日は、りん監督と平田監督のトークショーもあります。

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新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 4
マッドハウス・マニアックス
12月5日(土)22時30分開演(翌5時15分終了予定)
前売・友の会割引2300円、当日一般2500円

【プログラム】
トークショー:平田敏夫監督、りんたろう監督、小黒祐一郎(アニメ雑誌編集者)

『ボビーに首ったけ』(1985)監督:平田敏夫
  バイクに夢中な高校生ボビーと、文通相手の少女の対話を軸に綴られる、瑞々しい青春映画。
  片岡義男の原作を『銀河鉄道999』の石森史郎が脚色。作画スタッフも豪華。

『グリム童話 金の鳥』(1987)監督:平田敏夫
  三人兄弟の末っ子である心優しい王子が、兄たちの妨害をはねのけ、冒険の末にお姫様と結ばれる。
  とてつもなく愛らしく、同時にパワフルかつダイナミック。アニメの愉悦に満ちた傑作。

『X』(1996)監督:りんたろう
  CLAMPの大人気コミックの映画化。上映時間98分のなかで都市も肉体も可能なかぎりデストロイ!
  音楽はサックス奏者としても知られる清水靖晃。不穏なムードを煽るスコアが超ドープ。

『カムイの剣』(1985)監督:りんたろう
  数奇な運命を背負った「抜け忍」の若者・次郎の冒険を壮大なスケールで描いた伝奇ロマン大作。
  無常観漂う大河ドラマ的ストーリーを、斬新なアクション活劇として見せきる傑作。音楽も最高!

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 チケットは当日一般2500円、前売・友の会割引2300円。お誘い合わせの上、ぜひどうぞ。