Simply Dead

映画の感想文。

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『夜と霧』(2009)

『夜と霧』
原題:天水圍的夜與霧(2009)
英語題:Night and Fog

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 凄まじい傑作。香港で実際に起きた一家無理心中事件を題材に、ある平凡な家族が破滅へと至るまでの物語を、克明かつドラマティックに描ききった力作。理解しがたい現実の惨劇を、真正面からエモーショナルな人間ドラマとして解体しようと試みる骨太さに、アン・ホイ監督の底力を見る思いがした。劇場デビュー作『シークレット』(1979)にも通じる鮮烈な恐怖を誘う描写も多々あり、随所に冴え渡るシャープな演出技巧にも目を見張らされた。

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〈おはなし〉
 舞台は低所得者層が多く暮らす香港郊外の住宅地・天水圜。中国四川省の田舎に生まれ、出稼ぎ先の深圳で出会った香港人の夫と結婚したヒウリン(チャン・ジンチュー)は、双子の娘たちと一家4人で天水圜の高層団地に暮らしている。彼女が飲食店のウェイトレスとして目まぐるしく働く一方、失業中の夫・サム(サイモン・ヤム)は生活保護をあてにして働こうとしない。近所の川で釣りをしたり、前妻との間にできた息子に金を無心したりする毎日だ。

 ヒウリンは家庭を持ったことで男に依存していた過去から脱皮し、自立心に目覚め、日々疲労困憊しながらも逞しく家庭を支えている。そんな彼女を前に、すっかり落ちぶれた夫はプライドを傷つけられ、やがて精神の均衡を崩していく。度重なる家庭内暴力の末、ついにヒウリンは娘たちを連れてDV被害者の施設に駆け込む。つかの間の安息を覚える彼女だったが、それで悪夢が終わったわけではなかった……。

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 『夜と霧』は一家心中事件を伝える生々しいニュース映像から始まり、警察署で行なわれる関係者たちの証言とともに、在りし日の一家の姿が綴られていく。穏やかで幸福な日々もあったのに、なぜ彼らは悲惨な最期を迎えることになったのか。誰かが救うこともできたはずなのに、なぜ妻と娘たちは夫に惨殺されなければならなかったのか。その過程を見つめるアン・ホイの演出は、冷徹なようで、温かなヒューマニズムが静かに脈打っている。彼らの命を救えなかった司法や行政への怒り・批判をこめながら、つとめて主人公たちと同じ地平に立ち、寄り添うように事件を見直していく。その語り口は諦観と不安を湛えながら、同時にとても優しい。登場人物もそれぞれが血の通ったキャラクターとして描かれ、脇役に至るまで非常に魅力的だ。傷ついた者同士が絆を紡いでいく中盤以降のドラマはとても感動的で、それゆえに、冒頭で示された非情な結末が観客の心に重くのしかかる。

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 近年流行のセミドキュメンタリータッチなどで、いくらでも突き放した目線で描くこともできた題材を、アン・ホイはセンチメンタルな情感と、鬼気迫る戦慄に満ちた素晴らしい劇映画として完成させた。その映画人としての肝の据わり方には、胸を打たれずにいられない。

 少しずつ遡っていく時間のなかで、男女の社会的立場が変化していくさまも巧みに映しだされる。激動する中国/香港の様相と並行するように。そこにはまた、失業、貧困、そして大陸出身者への差別問題など、さまざまな社会の病巣が透けて見える。社会派監督の面目躍如たる見事な筆致だ。それでいて、あくまでヒロインを中心とした家族のドラマ、男と女の悲劇的な愛憎のクロニクルとしての骨格は崩さない。そのバランス感覚が、本作を成功に導いた大きな要因ではないだろうか。

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 殺伐としたテーマながら、アン・ホイは人間的な温もりを感じさせる描写を随所に配し、決して冷淡で重苦しいだけの作品にはしていない。普段はろくでなしの父親が娘たちと無邪気にじゃれ合う姿など、ユーモラスで微笑ましい場面もたくさんある(約束された悲劇に向けて、同時に感じる痛みもだんだんと増していくのだが)。また、ヒロインがDV被害者の施設で、同じ問題を抱えた女性たちと交流を持つシークェンスもいい。腕っぷしの強そうな姐御肌の女性や、狂人扱いされているてんかん持ちの女性など、ひとりひとりのキャラクターの見せ方がすこぶる巧いのだ。

 そして、映画の後半でじっくりと描かれる、ヒロインの実家でのエピソードも、物語に深みと広がりを与えている。結婚したばかりのヒロインと夫を囲むささやかな祝宴のシーンには、アン・ホイ監督がこだわり続ける「家族」と「世代」と「現代中国史」に対する強い思い入れが窺える。

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 もうひとつ特筆すべきなのが、随所に張り巡らされた恐怖と戦慄。例えば、前半でヒロインが同じ団地の住人と絡むシーンでは、ほとんど相手の顔が映されない。つまり団地内における彼女の周囲の人間関係がいかに希薄だったか、というようなことを示唆する描写なのだが、その撮り方自体が異様な不安を誘うのだ。これはまさに、デビュー当時のアン・ホイの特徴だった演出スタイルである。先述の『シークレット』、あるいは本作とともに東京国際映画祭で上映されたTVディレクター時代の作品群にも、同じように「得も言われぬ不安」を表現する描写に、突出した才気が見られた。『夜と霧』では、他にもサイモン・ヤム演じる夫の狂気に満ちた表情や、袋に入れられた犬など、忘れがたい不穏なイメージが多く登場する。

 また、同様にダークなユーモアも強烈なインパクトを残す。特に凄いのは、夫の暴力に耐えかねて実家に電話したヒロインに、母親が放つ言葉と、それを横で聞いている親父の反応。こんな鬼のような場面を、まったく平静なトーンを保ったままギャグとして差し挟める監督は、アン・ホイぐらいではないだろうか。やはり、肝の据わり方が違う。

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 その健気さゆえに悲運の最期を迎える薄幸のヒロイン役、チャン・ジンチューの熱演が素晴らしい。清楚で儚げな美しさと、生活に疲れた兼業主婦のリアルな表情が、ちゃんと両立できている。これは得難い才能だと思う。まあ、地獄のような日々を送っているDV被害者という設定にしては、あまりにも「映画的」に美人すぎるという声もあるだろう。しかし、この陰惨で生々しい物語を、映画というファンタジーとして受け入れられるのは、彼女の透明感のある美しさと愛らしい表情あってこそのもの。実際、この映画を観た誰もが、彼女のことを好きになってしまうのではないだろうか。

▼アン・ホイ監督(左)とサイモン・ヤム
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 狂気にとり憑かれていく夫を演じるサイモン・ヤムの怪演も圧巻だ。昔からキレた暴力男を演じさせると絶品だが、本作は紛れもなく彼のベストアクトだろう。この恐ろしいキャラクターを「共感」をもって描こうとするアン・ホイの視線にも驚かされる。貧すれば鈍する、いわゆる「激安人間」の最悪のパターンとして登場しながらも、彼を単に説明不能な“怪物”としては描かず、むしろ狂気に陥っていく彼の不幸と人間的な弱さに迫っていくのだ。もちろん、暴力的なマッチョイズムや古くさい女性観に鋭い諷刺の目も向けながら、男として去勢されていく者の焦燥、崩壊する香港男性のアイデンティティをも、等しく理解しうるものとして見つめていく。それは、負のサイクルに絡めとられた者たちへの慈しみとでもいうべきか。山岸涼子が津山三十人殺し事件を題材に描いた傑作漫画『負の暗示』のスタンスにも近いものを感じた。

 他にも、施設で友人となるシウレイ役のジャクリーン・ロウ、隣室の住人役のエイミー・チュムなど、脇を固めるキャストの演技も印象深い。双子の娘を演じた姉妹も、素晴らしい演技を見せている。

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 この『夜と霧』の前に、アン・ホイ監督は同じく天水圜を舞台にしたヒューマンドラマの小品『生きていく日々(天水圍的日與夜)』(2008)を撮っている。元々、企画としては『夜と霧』の方が先に進行していたが、題材が題材だけに資金集めが難航。最終的にバリー・ウォンがプロデューサーとして援助してくれることになったが、「いきなり重い話じゃアレだから、先に軽いやつも撮ってよ」みたいな話になり、数年前に教え子の学生が持ち込んだシナリオを元に『生きていく日々』を低予算で製作。それが興行的にも批評的にも大成功を収めたので、満を持して『夜と霧』に取り掛かったという経緯があるらしい。アン・ホイにとってはまさに入魂の一作であり、実際、『夜と霧』は彼女の最高傑作と言ってもいいフィルムに仕上がっている。ぜひ日本でも正式に劇場公開してほしい。


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「TRASH-UP!! vol.4」発売直前・関連イベント2連発!

 トラッシュカルチャーマガジン「TRASH-UP!!」主催のイベント「吉祥寺 SHOCK FESTIVAL ?TRASH-UP!! vol.4 Release Party?」は明日10月17日、吉祥寺CLUB SEATAにて開催。伝説のロックバンド“割礼”、活動暦20年を誇るダブバンド“のうしんとう”、圧倒的なライブパフォーマンスで知られる“6EYES”など、名古屋・関西・高円寺方面のアーティストが大集合。出来たてホヤホヤの「TRASH-UP!! vol.4」の先行販売、そして当日限定の小冊子も配布します(ぼくもレンタルビデオ店の思い出について書きました)。ホラー漫画喫茶や、中古ビデオ屋などの出店もあり。

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TRASH-UP!! vol.4リリース記念
アートロックパーティー!
吉祥寺SHOCK FESTIVAL


《出演バンド》
のうしんとう
6EYES
SIKASIKA
DODDODO
Taliking Dead Goats ''45
THE SHOP
de!nial
owllights
割礼

《VJ》
餓鬼だらく from 富山

SHOP:バサラブックス(BOOK)、 VEGEしょくどう(FOOD)、蛇狩る堂(中古ビデオ&レコード)、ホラー漫画喫茶
餓鬼だらく責任編集「TRASH-UP!! 別冊ZINE #2」を限定配布!
「TRASH-UP!! vol.4」先行販売! その他、関連グッズ販売予定!

2009.10.17[Sat] KICHIJOJI CLUB SEATA
open 15:00/ start 15:30(22:00終了予定)
adv \2,300+1drink / door \2,800+1drink
チケット取扱店舗: COCONUTS DISK 吉祥寺店Sun Rain RecordsCLUB SEATA
チケット予約・問合せ: hello@trash-up.com

協力 : TOWER RECORDS 吉祥寺店、古本 よみた屋、VILLAGE VANGUARD ON THE CORNER、トムズボックス、吉祥寺 バウスシアター、boid

SPECIAL THANKS : SCHOP、 THIS IS (NOT) MAGAZINE、KONNYACHIWA新聞、MIDI RECORDS、Bridge INC.
主催: TRASH-UP!!

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 翌日18日には、DRIVE TO 2010の1プログラムとして、新宿LOFT Bar Stageにて、TRASH-UP!!企画のライブイベント「オルタナゴヤ―名古屋ロック最前線―」を開催。本誌特集と連動した名古屋バンドのライブと、ホラー映画ファンなら誰もが知る名台詞を冠した気合十分の劇団「お前は宇宙で死ぬ」による怪奇音楽劇も上演! 福居ショウジン監督の短編映画も上映されます。ぼくも行きたかったんですが、多分その頃はすぐ近くの新宿ミラノ2で『GOGO 70s』観て号泣してると思います。

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オルタナゴヤ―名古屋ロック最前線―

《LIVE》
DzzZoo(DEBASERzzzooO)
トゥラリカ
ミラーボールズ

《怪奇音楽劇》
お前は宇宙で死ぬ(from 公園)

会場:新宿LOFT Bar Stage
OPEN 17:00 / START 18:00
ADV ¥3000・通券 ¥30000 / DOOR ¥3500

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 そして、中原さんの白目芸が表紙に炸裂する「TRASH-UP!! vol.4」の一般発売は10月19日から。取扱店はお馴染みタコシェビデオマーケットなど。Amazon.co.jpタワーレコードHMVほかのオンラインショップでも予約受付中。今回は音楽記事がメインになるので、バランスとろうと思って自主的に映画の記事を増やしたら、編集長から「書きすぎだ!」と怒られました。まあ、自分でもちょっと目算が狂った感がありますが……(4万字ってことはないよな)。ともかく、よろしくお願いします!

『シークレット』(1979)

『シークレット』
原題:瘋劫(1979)
英語題:The Secret

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 今月から始まる第22回東京国際映画祭「アジアの風」部門で特集が組まれる、香港を代表する女性監督アン・ホイ(許鞍華)の劇場映画デビュー作。ひと組の男女が山中で惨殺死体となって発見され、そこから家族の知らなかった秘密や意外な人間関係が明らかになっていくという、ミステリー仕立てのスリラー映画。70年代に実際に起きた殺人事件をもとにしていて、のちのJホラーにも繋がるような恐怖描写が随所にあり、おそろしく不吉なムードが全編に張りつめる傑作である。脚本のジョイス・チャンは、のちにパトリック・タム監督の傑作にして怪作『レスリー・チャン/嵐の青春』(1982)のシナリオも手がけている。

 物語の主人公は、殺された女性ユエンの妹ミン(シルヴィア・チャン)。残された家族が悲しみに暮れる中、家の周辺に「赤い服の女」の影がちらつき始める。もしや、姉の幽霊? ミンは姉と一緒に殺された恋人アチョウとの関係について調べ始め、忘れかけていた自身の記憶も手繰り寄せながら、やがて驚愕の真実に辿り着く。それと並行して、姉ユエンが慕っていた盲目の祖母、容疑者として逮捕された精神薄弱の男など、さまざまな視点が錯綜し、事件の奇怪な全容が明らかになっていく。

 まず目を引くのが、編集の面白さ。主軸となる家族の物語に、全然違う主観の描写や、時制の異なるシーンなどが不意に挟み込まれ、巧みに観客の不安感を煽っていく。しかもカッティングが非常にシャープでリズミカルなので、説明を排した語り口に翻弄されつつも、観客はどんどんミステリアスな面白さに引き込まれていくのだ。

 構図もいちいち見事。印象的なカットが多くあり、人物のアップを多用したワイドスクリーンの大胆な使い方に監督の才気を感じる(TV出身ということもあるだろう)。エドワード・ヤンが『恐怖分子』(1986)で台北を捉えたように、香港の裏町の景観をリアルに捉えたロケーションも効果的だ。撮影はのちに『客途愁恨』(1990)などでもアン・ホイと組み、監督業にも進出したデイヴィッド・チャン(鐘志文)。

 物語としては情痴殺人を扱ったミステリーでありながら、その演出は完全にホラー映画のトーン。何がそこまで不安を昂らせるのか(時代性なのか、監督のパーソナルな心情なのか)、とにかく鬼気迫る不穏なムードが全カットに漲っている。女の弱さ、そして怖さを浮き彫りにしていくストーリーテリングに、アン・ホイの冷徹かつ繊細なタッチが冴える。静かな語り口の中に、損壊した死体や解剖シーンなどのグロテスクな描写もしれっと織り交ぜるあたりは、さすが香港映画人。幽霊譚のような展開を見せていく中盤のあるシーンでは、完全に黒沢清作品に影響を与えたと思しき、しかもずっとシンプルでさりげなく効果的な「赤い服」の見せ方があり、度肝を抜かれた。

 作品全体に漂う絶望的で神経症的な雰囲気は、同じく女流監督のイ・スヨンが撮った『4人の食卓』(2003)に似ていなくもない。また、子供の撮り方が本当に気持ち悪いのも特徴。「ただそこにいるだけ」の画であっても、まるで別の生き物を見るような違和感で捉えられていて、強烈な恐怖を誘う。その理由は映画の後半で明らかになるのだが、しかし子供をこういう目線で確信的に撮れること自体が凄い。これもまた女性ならではの感覚だと思った。

 この緊迫したテンションが終盤に至っても落ちないのが、この映画の凄さ。幽霊ホラーかと思ったら実は……という筋立てだと、観客の気持ちが冷めてしまいそうな気もするが、本作の場合は全然そんなことはなく、その緊張感も異様なドラマ性も持続したまま凄絶なクライマックスへと雪崩れ込むのである。特に、ラストシーンの衝撃たるや、軽くトラウマになるほど凄まじい。同時期にデビューしたツイ・ハーク監督の『カニバル・カンフー 燃えよ!食人拳』(1980)のラストに匹敵するインパクトだ。

 等身大のヒロインを自然体で演じるシルヴィア・チャンの可憐さ、薄幸の美しさと死に憑かれた者の凄みを湛える姉役のテレサ・チウら、俳優陣の存在感も印象に残る。盲目の祖母のキャラクターも秀逸だ。不気味なムードを煽るラム・マンイーの音楽も貢献度大である。

 香港ニューウェーヴを代表する1本として知られながら、現在は諸事情によって観る機会がほとんどないのが残念(福岡市総合図書館のライブラリーには日本語字幕つきのプリントがあるとか)。ぼくが観たのは、あまりよからぬ手段で入手したキズだらけのビデオ素材。これはぜひ、いつかスクリーンで観てみたいと思った。

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「TRASH-UP!! vol.4」いよいよ発売!

 日本でいちばんあやふやでタガの外れた雑誌を目指す(?)トラッシュカルチャーマガジン「TRASH-UP!! vol.4」の発売日が、10月19日に決定しました。今回のメイン特集は「オルタナゴヤ 名古屋ロック最前線」。他にも映画・音楽・コミックなど、相変わらず様々なジャンルのディープな記事が満載。何しろ表紙がキョーレツです!

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TRASH-UP!! vol.4
10月19日発売
定価1575円(税込)
224ページ

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《MAIN TOPICS》
対談 クール・キースvs中原昌也
総力特集 オルタナゴヤ 名古屋ロック最前線
   ○ロングインタビュー:のうしんとう/6eyes
   ○総論「オルタナゴヤ。?まだ暮れない黄昏とまだ明けきらない夜の間で?」
   ○小説「つっぱりHIGH SCHOOLはヨークシャテリア」(土屋主税 from 6eyes)
   ○ホラー戯曲「マイナス」by お前は宇宙で死ぬ
   ○漫画「光走族について」by 大橋裕之
○幻の番組「ミッドナイトギグ」を追う!
○割礼/ミラーボールズ/名古屋の天皇“ガイさん”/キャラバン・・・&MORE

新連載! 「ソレイユ ディシプリン vol.1」 根本敬×河村康輔
フランス流、エクストリーム・ゴア・フィルム!?「マーターズ」と仲間たち by 山崎圭司
祝 再来日! ロックの至宝オンリーワンズ  by 諸頭淳子 Junko Moroto
実話怪談当たり年! 2009年の実話怪談本20本レビュー by 尾崎未央
ジョンとマイケル 傑作ミュージックビデオ『スリラー』を生んだふたり? by 岡本敦史

《MOVIE》
祝DVD化!『下女』/『ウルフクリーク 猟奇殺人谷』
アニメの極限に到達した傑作『Coraline』
最新韓国ホラー『不信地獄』 by キム・ヨンウン
追悼 ルー・ペリーマン/デビット・キャラダイン
最も奇妙なスパニッシュ・ホラー『El asesino de munecas』 by 伊東美和
いけすかない90?00年代のホラー映画たち by 真魚八重子
音楽青春映画の傑作『GOGO 70s』?伝説のバンド《デビルス》の軌跡 by 岡本敦史
セルに刻まれた血の“痛み”『エンゼル・コップ』  by 餓鬼だらく
イ・ジュニク監督の音楽映画三部作 by 岡本敦史
スプラッタやくざ大戦争『修羅のみち』シリーズ by 餓鬼だらく
『グッド・バッド・ウィアード』と満州ウエスタンの世界 by 岡本敦史
『オールナイトロング』シリーズ徹底解剖 松村克弥監督インタビュー by 五所光太郎
ロイド・カウフマン物語 その4

《MUSIC》
麓健一
昆虫キッズ
PLASTICS
エクストリームPC音楽道場 「Germlin」 by MARUOSA
WORDS AND TAPES #2「Ju Sei」インタビュー
怪優ビル・モーズリィの秘蔵音源、奇跡のリリース! by ルチオ・コルチ
関西アンダーグラウンドシーンの恐怖分子 似非浪漫

《ART》
HIROAKI TOKIWA
Laura Lamoratta(from Itary)
フジタ ユウコ
アニュウリズム
坂下康

《コラム》
神谷一義(オフノート)
A.K.I.(倫理B-BOY RECORDS / A.K.I.PRODUCTIONS)
古澤健
バサラブックス
バウス日記#4

《詩》
「小さな、無脊椎動物の、微笑のような軟らかい顔」作:小笠原鳥類
「虚ろ首」作:岩佐なを

《COMIC》
「ゾンビDJ」 作:キング・ジョー 画:須田信太郎
「ないとおぶざりびんぐでっど」 作画:うぐいす祥子
「犬がほしい」 作:蟲田腐乱子 絵:キクチヒロノリ
山田緑
榊原悠太
baby arm × zaide

COVER ARTIST:クール・キース&中原昌也
PHOTO:梅川良満

【MIXDVD】
6eyes/のうしんとう/ミラーボールズ/Building/湯浅湾/owllights/昆虫キッズ(with 豊田道倫)/麓健一/mmm/oono yuuki/似非浪漫/GULOSA(MARUOSA+GULPEPSH)

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 ぼくは前号に引き続き韓国映画関連の記事と、あまりに傑作すぎて観ながら軽く凹んだ『Coraline』のレビュー、さらにマイケル・ジャクソン追悼記事というおこがましいにも程があるコラムを担当しました(でも中身は結局、ジョン・ランディスへのオマージュに……)。全部で4万字くらい書いてます。前号でインタビューさせていただいた韓国の映画評論家キム・ヨンウンさんの新作レビューや、餓鬼さん・山崎さん・伊東さん・八重子さんなど、お馴染みの執筆陣によるコラムも楽しみ。名古屋ロックシーンの全貌、中原さんとクール・キースの対談も興味津々です。

 取扱店はお馴染みタコシェビデオマーケットなど。一般発売は19日ですが、10月17日に吉祥寺CLUB SEATAで行われるライブイベント「吉祥寺 SHOCK FESTIVAL ?TRASH-UP!! vol.4 Release Party?」で、一足先に先行販売される予定です(当日限定ZINEの配布もあり)。なお、Amazon.co.jpタワーレコードHMVほかのオンラインショップでも予約受付中。今回も常軌を逸した中身の濃さになってると思いますので、よろしくお願いします!

『AKIRA』爆音上映@カナザワ映画祭2009

『AKIRA』(1988)
爆音上映@カナザワ映画祭2009

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 最高。涙が出た。先日開催された「カナザワ映画祭2009 新世界秩序サバイバルガイド」で、実はいちばん素直に楽しみにしていたのが『AKIRA』の爆音上映だった。この映画のファンならば、必ず一度は「耳がバカになるくらい最高にキレた音で観てみたい!」と思ったことがあるだろう。とにかく、これだけは観ておかなければ東京に帰れないと思っていた。

 しかもプリント上映、ということは《劇場公開版》だ! ビデオリリース以降、オフィシャル・バージョンとなった《国際版》ではなく、幾つかの技術的ミスを残したまま公開された最初のバージョンである。ここ最近はデジタル素材で上映される機会が多く、公開時のバージョンはこのまま封印されてしまうのではないかという危惧もあったので、カナザワ映画祭ではちゃんとプリントで上映すると知った時には心底嬉しかった。もちろん作者としては悔いの残るバージョンだと思うけど、『ブレードランナー』ファンにとってのワークプリントみたいなもので、これはこれで愛着があるのだ。

 冒頭、静寂を打ち破って響きわたる「ドォォォォォン・・」という重厚なパーカッションの音。『AKIRA』という映画の場合、この音の聴こえ方で、これからの2時間が楽しめるか楽しめないか決まってしまうと言っても過言ではない。吉祥寺バウスシアター「爆音映画祭」スタッフに協力を仰ぎ、コンサート用の巨大なスピーカーをスクリーン前にデーンと設置したカナザワ映画祭謹製“フィルマゲドン・サウンド”の威力はどうだったか? ……最高だった。立ち上がって「合格!」と叫びたいくらい素晴らしい瞬間だった。続く暴走族のチェイスシーン、鉄雄の悪夢、地下施設の下水道でのバトルといった見せ場の数々も、まるで爆音によって映画本来の獰猛なパワーを取り戻したかのようで、ムチャクチャ興奮した。個人的に大好きな、アキラを閉じ込めた巨大カプセル浮上から金田と鉄雄のタイマン勝負、SOLによる攻撃のくだりも大満足。今まで何度も観ているが、間違いなく最高に楽しい上映だった。

 重ねて言うが、ここで上映されたのは《劇場公開版》である。その後、1億円の追加予算を投じて修正を施し、音響もグレードアップさせた《国際版》でも、5.1chドルビーTrueHD仕様になったBlu-ray版でもない。音響マニア的なクオリティ判断からすると決して最高水準とは言えない、あくまで88年当時に国内の劇場で再生可能だったドルビーステレオ版である。だからこそ、今回の4.1ch対応の爆音上映サウンドシステムにはピッタリだった。最新のスピーカーシステムに合わせて綺麗にディスクリートされた高品質デジタル音響とはまた違う、プリミティヴな荒々しさと色褪せない斬新さがないまぜになったアナログ時代の暴力的な音のカオスは、『AKIRA』というフィルムが元来持つ魅力と直結しているように感じた。そして改めて、そのサウンドデザインが《劇場公開版》の時点ですでに、設計理念・クオリティの両面で他の日本映画とは一線を画すものだったことも思い知らせてくれた。最初からフィルム自体が「Play this LOUD!」と叫んでいる作品だったのだ。

 映像面でも、今回の爆音上映に関しては《劇場公開版》であることが、いい効果を生んでいたのではないか。色パカやセルズレなどの失敗もそこかしこにありながら、それゆえに勢いとパワーに溢れた作品という印象の強い旧バージョンだからこそ、公開当時の熱狂を最良のかたちで追体験できたような気がする。ファンとしては当然、Blu-rayの高画質・高音質でも一度は観てみたいと思うけれども、それとこれとはまた別の話だ。

 爆音上映とは、決して「高音質」という意味ではない。というか、基本的には「映画を破壊する」ような、野蛮な行為だと思ってもいい。いわゆる最適環境からは逸脱したボリュームで上映するので、無理や破綻が生じることなどザラにある。音は割れるし、ダビングの穴も目立つし、SE同士のディテールが相殺されてしまうこともあるし、ほとんどの場合「完璧な上映」とは程遠い。重低音のエフェクトが延々と続くようなシーンでは、観客の耳にかなりの負担をかけるので、人によっては体調を崩すことだってあるだろう。

 だが、ある瞬間、爆音でしか得られない快感が波のように襲ってくる。通常の劇場映写や、ホームシアターでの観賞では到達し得ない何かが、何倍にも増幅されて押し寄せてくるのだ。爆音上映に参加することは、観客各々がそのエクスタシーを発見する作業なのである。

 ゆえに、ただ音の迫力が凄い映画だからって、爆音向きとは限らない。爆音で上映したらさぞかし素晴らしいだろうと思って観てみたら「失敗した……」という例だってある。が、中には『サスペリア』(1977)や『マルホランド・ドライブ』(2001)、『デス・プルーフ』(2007)、そして本作『AKIRA』のように、最初から最後まで「爆音の神様」に愛されてしまったような奇跡的なフィルムも存在する。そういう映画に出会った時の嬉しさったらない。全ては発見であり、それこそが醍醐味なのだ。

 カナザワ映画祭というイベントにも、同じようなことが言えると思う。映画を観るという行為を楽しみつつ、同時にフィルムと戦うような姿勢でスクリーンと対峙し、貪欲に発見を求める前のめりな観客たちが集う映画祭というのは、実は他にあまり類を見ないのではないか。心身共に大いに消耗させられつつ、そのカタルシスが癖になり、参加している時はシンドくても、終わってしまうと「次もまた来よう!」と思ってしまうのだ。だから来年もぜひ開催してほしいし、今度はどんな方向から観客を挑発してくるのか、楽しみにしている。

・Amazon.co.jp
Blu-ray『AKIRA』

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