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Simply Dead

映画の感想文。

『グッド・バッド・ウィアード』(2008)

『グッド・バッド・ウィアード』
原題:좋은 놈, 나쁜 놈, 이상한 놈(2008)
英語題: The Good, The Bad, The Weird

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 四の五の言わずに今すぐ劇場に走れ! と言いたくなる無国籍アクション活劇の大傑作。近年これほどスクリーン映えする映画は他になかったのではないだろうか(強いて言うなら『ダークナイト』ぐらいか)。その画面が持つ奥行きと広がりは比類なく、はっきり言ってテレビやパソコンの画面で観ても「そんなの観たことにならねえよ」と断言できる痛快作である。いまや劇場館数や上映回数もグッと減りつつあるらしいが、このチャンスを逃してしまうほど勿体無いことはない。とにかくできるだけスクリーンサイズが大きく、なるべく音響設備のいい劇場で、絶対に前の方に座って観てほしい。以上!

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 とまあ、そのくらいのことしか本当は言いたくないのだけど、それでもまだ腰が重い人のためにもう少しだけ書く。本作の原題の直訳は「いい奴、悪い奴、変な奴」。これはもちろん、セルジオ・レオーネ監督の傑作マカロニウエスタン『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(1966)の原題「Il Buono, Il Brutto, Il Cattivo(いい奴、悪い奴、醜い奴)」をもじったものだ。そして『グッド・バッド・ウィアード』は韓国ジャンル映画史の忘れられた1ページ「満州ウエスタン」をかつてない大スケールで復活させようという大胆な試みでもある。映画的快感にこだわりぬいたアクション演出、日本映画では到底実現できない規模の画面作り、ひたすら単純明快かつ荒唐無稽なB級エンタテインメント精神に貫かれたストーリーテリングによって。本作はまさに世界中のジャンル映画ファンのために作られたような映画なのだ。それならぼくらも劇場のシートで出迎えるのが礼儀というものだろう。

 「宝の地図」という今時ありえないくらい単純なマクガフィンをめぐり、丁々発止の駆け引きと凄絶なバトルを繰り広げる3人の無法者を演じるのは、現在の韓国映画界を代表するスター男優たち。チョン・ウソン=良い奴、イ・ビョンホン=悪い奴、ソン・ガンホ=変な奴という、これ以上になくピッタリの配役だ。

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 3人の中で特に強烈なインパクトをもたらすのが、悪党一味の親玉パク・チャンイ役を演じたイ・ビョンホン。ギラギラした狂気とカリスマ性を全身から放ち、ほとんどマンガのようにデフォルメされた「悪い奴」ぶりは、もはや滑稽なまでにカッコいい。前々からインタビュー映像などで素の姿を見かけるたびに「ホントはちょっと変な人なんじゃないか……?」と思っていたが、本作ではそんな彼のオフビートな個性が初めて(いい意味で)全面開花した感がある。もちろん、鍛えあげられた肉体を駆使したアクションのキレも素晴らしい。過去に出演したどの作品よりも、『グッド・バッド・ウィアード』のイ・ビョンホンはタガが外れていて魅力的だ。

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 小悪党ユン・テグ役の名優ソン・ガンホも、抜け目ないのか間抜けなのか、それとも恐るべき男なのか掴みどころのない「変な奴」をすっとぼけた味で瓢々と演じ、十八番的な役柄を心底楽しんでいる様子。本作では円熟の域に達した映画スターとしての風格と、アナーキーな魅力を同時に発散していて快い。クライマックスで見せる「凄み」も説得力十分だ。

 そして、『続・夕陽のガンマン』ではクリント・イーストウッドが演じた「いい奴」役という、プレッシャーを背負わざるを得ない大役を任された賞金稼ぎパク・トウォン役のチョン・ウソンは、個性的なふたりに囲まれて少々分が悪いと思われたが、なかなかどうして鮮烈な印象を刻みつける。3人の中では最も長身でスリムなモデル体型なので、ひとつひとつの立ち姿やアクションが異常なまでにキマるのだ。疾駆する馬に乗りながらライフルを回転撃ちする姿、セルジオ・レオーネ監督の『ウエスタン』(1969)そのまんまの格好でラストの決闘に臨む姿は、鼻血が出るほどクール。抑えた芝居も堂々たるもので、「いい奴」の座にふさわしい存在感を示してくれる。

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 役者の面構えだけでも十二分に楽しめる『グッド・バッド・ウィアード』だが、真の見どころはなんといってもアクションに次ぐアクション。西部劇では定番の列車襲撃に始まり、巨大な市場での銃撃戦、大平原を舞台にギャングと馬賊と日本軍が入り乱れる追跡劇、そしてクライマックスの決闘と、強烈な映画的快感を誘発する場面がてんこ盛りだ。キム・ジウン監督は前作『甘い人生』(2005)で実はアクション演出の才能にも秀でていることを示したが、本作ではよりダイナミックかつ意欲的な見せ場作りを成功させている。大がかりなセットや本物の蒸気機関車などを使った「実物大の迫力」と、デジタル合成やCGを駆使した「最新鋭のトリック撮影」を非常にうまく組み合わせ、豪快かつスタイリッシュな超絶アクションを展開させる。それを追いかけるトリッキーなカメラワークの躍動感も特筆ものだ。撮影を手がけたのは『箪笥』(2005)でキム・ジウンと組んだイ・モゲ。

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 中でも白眉は映画の中盤、主人公3人が初めて一堂に会する雨の市場での大銃撃戦。無国籍ムードたっぷりのセットで繰り広げられる、破天荒なアイディアに満ちたアクションの数々が素晴らしい。ワイヤーを使ったアクロバティックなスタントは、ツイ・ハーク監督の傑作『ドリフト』(2000)にも通じる興奮と快感を覚える。メイキング映像を見ると、カメラオペレーターもワイヤーを装着して空中を飛び回ったりしていて、度肝を抜かれた。

 なお、この映画で武術監督を務めたチ・ジュンヒョンは、中国での撮影中に不慮の交通事故で亡くなり、現場は同僚のチョン・ドゥホンらによって引き継がれた。その出来事はドキュメンタリー映画『俺たちはアクション俳優だ』(2008)にも描かれている。『グッド・バッド・ウィアード』が大韓民国映画大賞の視覚効果賞を受賞した時、チョン・ドゥホンは壇上で「苦労や怪我を重ねながら陰で映画を支え続ける韓国のスタント俳優は、私が敬愛する最も誇らしい人たちだ」と賛辞を捧げた。本作にはそんなスタント野郎たちの熱い心意気が隅々まで息づいている。

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 もうひとつ素晴らしいのが、音楽。ロックバンド「シナウィ」のメンバーでもあるダルパランが手がけたサウンドトラックは、ドメスティックな洗練ともいうべきレベルに到達している逸品だ。韓国的なイナタい垢抜けなさを感じさせるユーモラスな音色を全編に鳴り響かせ、時にクラブミュージックのビートで観客の耳を快くキックしながら、男だらけのB級活劇らしいバワフルな泥臭さと放埓さを失わない。単なる西部劇のオマージュや、見当違いなイマ風アクションスコアとは一線を画した、本作の性格付けに大いに貢献している名スコアだと思う。

 とはいえ、欠点がないわけではない。映像とアクションと役者の演技は最高だが、ストーリーはあってなきがごとし。監督自身も認めているが、とにかく見せ場作りを優先させて話はあとから付け足したような作り方をしたらしいので、観賞態度としてはただひたすらその場その場の楽しさに身を委ねるのが正しい。何せアクションが始まると常に三つ巴、四つ巴の大乱戦が展開していくのだから、マトモに物語を構築していく方が狂気の沙汰だとも言える(さすがに『甘い人生』みたいに夢オチで終わったりはしないのでご安心を)。

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 ちなみに日本公開版は129分。オリジナルの韓国公開版より10分ほど短いインターナショナル・バージョンをもとにしている。オム・ジウォン扮する独立軍の女性闘士は韓国公開版にしか登場せず、密使役のオ・ダルスは日本公開版では出ていることにも気付かないだろう(分かった人はえらい)。エピローグも韓国公開版の方がたっぷりしていて、現在日本の公式サイトで特別公開されている別エンディングよりもさらに長い。ただし、監督自身は「韓国公開版のエンディングは、あくまで韓国の観客向けに用意したもの。個人的な好みとしてはカンヌで上映したバージョン(インターナショナル版)の方が気に入っている」と語っている。また、映画の後半でソン・ガンホがダイナマイトを使って日本軍の追跡を振り切るシーンは、韓国公開版にはなくインターナショナル版にしか存在しなかったりするので、ちょっとややこしい。それと原版でちょっとイントネーションが怪しかった日本語の台詞を、日本公開版ではちゃんと吹き替えし直しているところは、気が利いているなと思った。

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 なお、この映画が『続・夕陽のガンマン』と共にオマージュをささげ、作り手も多くの面で影響を受けたと公言している「満州ウエスタン」の代表作『鉄鎖を断て』(1971)との関連については、10月中旬発売の「TRASH-UP!! vol.4」に書かせてもらった。同じく60?70年代の韓国娯楽活劇をポストモダン的に再解釈したパロディアクション『タチマワ・リー/悪人よ、地獄行き急行列車に乗れ!』(2008)とも絡めて書いたので、興味の湧いた方は、ぜひ。

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TRASH-UP!!主催イベントのお知らせ(+近況報告)

 10月中旬に待望の第4号が発売予定のトラッシュカルチャーマガジン「TRASH-UP!!」。現在、Amazon.co.jpでも予約受付中です。その関連ライブイベントが、来る10月17日、吉祥寺CLUB SEATAにて開催されます。運がよければ最速で第4号が買えるかも? 忍者映画マスターこと餓鬼だらくさんもVJとしてブースに降臨!

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TRASH-UP!! vol.4リリース記念
アートロックパーティー!
吉祥寺SHOCK FESTIVAL


出演バンド:
のうしんとう / 6eyes / owllights / SIKASIKA / THE SHOP / de! nial / Talking Dead Goats"45 / DODDODO / 割礼
VJ:餓鬼だらく from 富山
SHOP:バサラブックス(BOOK)、 VEGEしょくどう(FOOD)、蛇狩る堂(中古ビデオ&レコード)
餓鬼だらく責任編集 ”TRASH-UP!!”別冊ZINE #2を限定配布!
“TRASH-UP!!”関連グッズ販売予定!
他にもいろいろ計画中!

2009.10.17[Sat] KICHIJOJI CLUB SEATA
open 15:00/ start 15:30(22:00終了予定)
adv \2,300+1drink / door \2,800+1drink
チケット取扱店舗: COCONUTS DISK 吉祥寺店Sun Rain RecordsCLUB SEATA
チケット予約・問合せ: hello@trash-up.com

協力 : TOWER RECORDS 吉祥寺店、古本 よみた屋、VILLAGE VANGUARD ON THE CORNER、トムズボックス、吉祥寺 バウスシアター、boid

SPECIAL THANKS : SCHOP、 THIS IS (NOT) MAGAZINE、KONNYACHIWA新聞、MIDI RECORDS、Bridge INC.
主催: TRASH-UP!!

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 というわけで、ここ最近ずっと更新が滞っておりましたが、全て「TRASH-UP!! vol.4」の原稿作成に追われていたせいでした。すみません。とりあえず、どうにかこうにか一段落したので、ぼちぼち映画の感想文も再開したいと思います。

 その前にパーッと遊びたい! オレの夏を返せ!! ということで、毎年恒例行事となったカナザワ映画祭2009「新世界秩序サバイバルガイド」に参加してきました。相変わらず主催者の小野寺さん(a.k.a.金沢のフィツカラルド)のムチャぶりに翻弄されまくるハードな祭りでしたが、終わってみれば今回も実に「ありえない時間」を堪能できて楽しかったです。次回もぜひ参戦したいな、と。

 上映作品では特に『宇宙戦争』『AKIRA』の爆音上映が白眉。そして、集客が大いに見込める中日にわざわざぶつけてくる宗教・イデオロギー映画特集も、拷問級の凄まじさ。そのあとのライムスター宇多丸さん×高橋ヨシキさんのトークショーは「こういうタチの悪い映画をどう観ればいいのか」「映画観てるとメシも食えない映画祭ってどうなのか」という非常に充実した内容で、ここに来てやっと地獄のトライアスロンを完走しきったような一体感が会場全体を包み、とても感動的でした。

 打ち上げに紛れ込んだ際、宇多丸さんにご挨拶させてもらったら、「ブログ読んでます! ファンです!」という想像を絶するお言葉をいただき、ムチャクチャ舞い上がってしまいました……。尊敬する方にそんなことを言っていただいて、もう卒倒するくらい本っっっ当に嬉しかったです。こんなヨタの集積でも続けてきてよかった、と心底思いました。この場を借りて、改めて御礼を……ありがとうございます!

 ちなみに「TRASH-UP!! vol.4」のために書いた原稿は、以下のような内容になってます。

●『グッド・バッド・ウィアード』と満州ウエスタンの世界

●音楽青春映画の傑作『GOGO 70s』

●イ・ジュニク監督の《音楽映画三部作》

●キム・ギヨン『下女』DVDレビュー

●ジョンとマイケル/傑作ミュージックビデオ『スリラー』を作ったふたり

●ヘンリー・セリックの傑作アニメ『コラライン』

 どれかひとつでも興味が湧いたら、お手にとってみてください。詳細はまた今度!

『影』(1968)

『影』(1968)
英語題:Yeong

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 韓国映像資料院の映画データベース・サイト「kmdb」では、一部所蔵作品のネット配信も行っている。基本的には有料だが、月替わりで「ホラー」「特撮」「満州ウエスタン」など様々な特集を組み、無料で韓国映画の旧作を視聴することができる(要登録・無字幕・Mac非対応)。8月の特集は「格闘アクション映画」で、韓国映画人が参加したり、韓国ロケを敢行した香港映画を始め、8本の作品が配信された。そのうち日本では後にも先にも観る機会のなさそうな作品を3本ほど観てみたが、いちばん面白かったのがイム・ウォンシク監督の『影』だった。

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 満州を舞台にした『影』は、トッコ・ソン演じるニヒルな流れ者の剣客“影”が、馬賊の暴虐に苦しむ朝鮮移民の村人たちを救うという、時代劇+西部劇風の筋立て。ビジュアル的にはまるっきり時代劇だが、音楽は『続・荒野の用心棒』(1966)の完全なイタダキだったりするので、これも『グッド・バッド・ウィアード』(2008)の元ネタとなった“満州ウエスタン”の1本といえるかもしれない。

 主人公が居合い抜きでバッタバッタと敵を斬りまくる殺陣は、三隅研次?キン・フーの系譜に連なる荒唐無稽アクションスタイル。ありえない動作でいちどに何人も叩き斬るダイナミックな剣戟が痛快。とはいえ、香港や日本ほどジャンルムービーが発展していた時代ではないので、なんとなく段取りが悪かったり、グダグダになったりしている部分も少なくない。「遠くから飛んできたナイフが敵の体に刺さる」という場面で、フレームの外からナイフを投げるスタッフの手が映り込んでたり、普通ならNGになるカットも平気で使ってたりする。しかし、イム・ウォンシクの演出が活劇の呼吸というものを心得ているからか、さほど欠点は気にならない。スピーディーに場面転換をたたみかけるアクション・シークェンスの見せ方はなかなかのものだ。

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 むしろ、アウトロー時代劇/西部劇のフォーマットに忠実な、見事な換骨奪胎ぶりに感心してしまう。瀕死の重傷から復活した主人公が馬賊の集団に単身リベンジを挑むクライマックスは『用心棒』(1961)、最後のダメ押し的に描かれる剣客同士の一騎討ちは『椿三十郎』(1962)、そしてラストシーンはまるっきり『シェーン』(1953)だ。よく研究している。ただし、時代的なお約束として、主人公は村の少年に別れを告げる際、民族独立と融和を象徴する太極旗を託すわけだが。

 監督のイム・ウォンシクは、戦争映画にホラーにメロドラマに武侠アクションと、あらゆるジャンルの作品を手がけた韓国の典型的職人監督。後年は『母』(1976)で大鐘賞最優秀作品賞を獲得した。本作『影』ではテンポのいい語り口と歯切れのいいカッティング、そして魅力的なキャラクター描写で、心地好く全編を見せきる。叙情的なシーンの演出もいい。まさに職人技だ。雄大な自然を捉えたロケ撮影も効果的で、特に空と雲の映し方が美しく、鮮やかな印象を残す。

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 主演のトッコ・ソンは、元々は悪役を得意とした俳優だそうだが、本作での寡黙でストイックなアウトロー役も結構ハマっている。馬賊の首領に扮するのは、当時の韓国アクション映画の顔と言われたホ・ジャンガン。本作では月代(いわゆる侍ハゲ)にナマズ髭、キンキラキンの殿様風衣装という唖然とするようなビジュアルで、悪役を憎々しく怪演。大変な人気を誇る映画スターでありながら、珍妙な役も平気で引き受けてしまうのが韓国映画界の面白いところだ。ちなみにホ・ジャンガンは『グッド・バッド・ウィアード』の原典的作品『鉄鎖を断て』(1971)にも悪役で出演している。

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 その手下に、拳銃使いの美女やら、ナイフ投げの名手やら、弓矢の達人やら、鎖つきの鉄球を振り回す剛力やら、バラエティに富んだキャラクターが勢揃いしているのもマカロニ的で楽しい。また、悪役専門俳優としてならしたイ・イェチュンの堂々たる宿敵ぶりも見どころ。個人的に新鮮だったのは、首領の丁稚として働く小汚い少年のキャラクター。やたら狡猾で手癖も悪く、雑草のように最後までしぶとく生き残る役として、ブラックユーモアをまじえて描かれている。ポジション的には、『用心棒』でイキがってヤクザに入るが最後には逃げ出してしまう貧農の倅の役柄を踏襲しているのだが、人物造形は全然違う。ある種のネガティブな韓国人気質を揶揄した存在なのか。少なくとも、主人公と交流を持つ村の少年なんかよりは遥かに面白いキャラクターだ。

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 いまだに韓国語のヒアリング力はまるで上達していないが、字幕なしでも十分に楽しめたし、かつての韓国映画界におけるジャンルムービー研究の熱心さが如実に伝わってくる快作だった(著作権問題を潔くフライングした音楽の使い方も含めて)。

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 ついでに、同じアクション映画特集で観た他の作品についても、メモ程度に。コ・ヨンナム監督の『毒蛇』(1975)は、韓国のチャールズ・ブロンソンと言われたボビー・キムが主演のクンフー映画。強くてモテモテの主人公が、インターポールの依頼で悪の組織と対決する現代アクション。すでに韓国でも格闘アクションブームが全盛の頃に作られた映画だが、流行の火付け役となったイ・ドゥヨン監督のシャープで力強いアクション演出とは違い、コ・ヨンナム監督の演出はいかにもアクションの見せ方に興味がなく、あまりに大雑把。後年は『バイオレンス・コネクション/処刑警察』(1990)という佳作も撮るのだが、この作品では惰性でやってる感じ。とはいえ、中盤の列車内でのバトルはなかなか見応えがある(やたら長いし)。脚本は、のちに『クレイジーボーイ』(1985)などのイ・ドゥヨン作品や『?処刑警察』などを手がけるユン・サミュク。ホ・ジャンガンがインターポールの警視役でチラリと出演し、これが遺作となった。

 もう1本は、巨匠イム・グォンテクが職人時代に撮った武侠アクション『雷剣』(1969)。なんと日本語字幕つきのプリントで、おそらく79年に行われた韓国文化院のイベント「韓国の名画を楽しむ会」で上映された素材ではないだろうか。内容は、新羅・高句麗の両国対立の陰に暗躍した、剣士(というか忍者)たちの熾烈な戦いと駆け引きを描いたもの。キャラクターの神出鬼没ぶりを表すトリッキーな撮影技法の数々が楽しく、創意に富んだアクションも相当な見応え。ではあるが、登場人物全員が嘘をついているか裏切り者であるかのどちらかしかないので、観ているうちに「どーでもええわ、もう」と思ってしまうところが難点。朝方に観ていたせいもあるが、途中で5?6回くらい落ちてグーグー寝た(字幕ついてるのに)。多分、イム・グォンテクも内容に少しも魅力を見い出せず、結果的にひたすら映像テクニックにばかり力を注ぎ、ストーリーをどう見せるかには興味が湧かなかったのだろう。元々は映画好きでもなんでもなく、ただ生活のために撮影所に潜り込み、監督デビュー11年目の『雑草』(1973)で初めて映画作家として目覚めるという人だから、まあ仕方がない。

 なお、kmdbでは9月現在、先日亡くなった名匠ユ・ヒョンモク監督の作品を無料配信中。ほとんど無字幕だが、『殉教者』(1965)という作品は英語字幕つきで観られる。

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