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Simply Dead

映画の感想文。

『チョコレート・ファイター』追記

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 前回書いたように、とにかく『チョコレート・ファイター』があまりにも傑作だったので、当然のごとく劇場へまた観に行き、タイ盤DVDも買ってしまった(カネも時間もないんじゃなかったのか)。戦えば戦うほど鬼迫に満ちた美しさを放ち、同時に切なさも漂わせるヒロインの姿は、やっぱりとてつもなく魅力的で、映画を見返すたびにどんどん彼女のことが好きになっていってしまう。「なんかに似てるな、この感じ……」と思ったら、中3だか高1の時に『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』(1995)を劇場で4回ぐらい立て続けに観たときと同じ感覚だった。ゼンと吹雪丸、わりと近いような気が……業's on な感じとか……(妄想連鎖中)。

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 確かに初見では、なんともしれん違和感のつきまとう作品だなーという印象はあった。その感覚は、映画を観ているうちに──仏教思想的な因果応報の概念をベースにした、ドラマ性の色濃い作品であることに気づいてからは、だんだんと払拭されていった。いずれにしても、同じプラッチャヤー・ピンゲーオ監督の出世作『マッハ!』(2003)などとはまた異なる、不思議な肌触りをもつ映画であることは間違いない。ある種の生硬さというか、いびつさがあることも否定できない。それは脚本や演出のせいばかりではなく、ひょっとして海外向けに編集されたバージョンだからではないか? という疑問が湧いたこともあり、現地公開版も観てみようと思った次第である。

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 で、実際に観てみたら、タイ公開版と日本公開版はほとんど同じだった。オープニングとエンディングに入るナレーションが、阿部寛演じるマサシのモノローグではなく、別人の(多少イントネーションの危なっかしい)日本語の語りであること以外、大きな違いはない。ご存知の方も多いと思うが、阿部寛によるモノローグは日本公開用に新録されたものである。あとはもう、ほとんど変わらない。冒頭のラブシーンがちょっぴり長いような気がしたくらい。

 劇場で観た時に「これ、カットされてるんじゃないの?」と思ったところまで全く同じだったのは、ちょっと意外だった。例えば、製氷工場で床にぶっ倒されたゼンが、フラッシュバックを経て起き上がるまでの、体勢の繋がりがおかしいところ。さすがにそれは最初から不自然なカット割りにしようと意図したわけではないと思うけど、最終的にはこの編集に落ち着いたのだということは分かった。

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 タイ盤DVDを観て分かったのは、現地公開版ですら相当カットされていたということだ。特典映像として収録された削除シーンの多さには、ちょっと驚かされる。スチルではよく見るが、本編からはごっそり削除されている豪奢な大邸宅でのアクション・シークェンスも、ここに含まれていた。(以下は、映画をご覧になった方だけどうぞ)

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『チョコレート・ファイター』(2008)

『チョコレート・ファイター』
英語題:Chocolate(2008)

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 傑作。泣いた。なかなか劇場へ観に行く時間も金も作れず、「あーもうDVD待ちでいいかなー」などと半分あきらめかけていたが、先週ポッドキャストでライムスター宇多丸さんのあまりに熱い絶賛評を聞いたらもう矢も盾もたまらず、仕事明けに池袋から川崎まで行って観てきた。メッチャクチャ感動した(ありがとう宇多丸さん)。

 巷では「お話が暗い」とか「爽快感がない」とかいった部分で一般受けしないのではないか、という評価もあるようだけど、個人的には全然気にならなかった。むしろ、その暗さが本作独自の妙味であり、美点なのではないかとさえ思った。他にもシナリオや編集の粗さなど、欠点はいくつかあったかもしれないが、あいにく何ひとつ覚えていない。とにかく観終わった直後は「面白かった……!!」という感動の痺れが全身を支配し、細かい弱点を振り返る余裕など与えてくれなかったのだ。何をもってこの傑作にマイナス評価を与えるのか、現時点では全く理解できない状態にある。

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 本作は、類い稀なる格闘アクションの才能と、アイドル的な魅力を兼ね備えた美少女“ジージャー”ことヤーニン・ウィサミタナンを、新たな映画スターとして売り出すべく4年の準備期間を費やして作られた入魂の作品である。そこで監督のプラッチャヤー・ピンゲーオは、ジージャー演じる主人公ジンに、脳の発達障害というハンディキャップを負わせた。それはなぜか? 彼女のキュートな容姿からは想像もできない超人的アクションを、より効果的に、かつ説得力をもって見せようとした時、「障害を持つ人々のなかにはある突出した能力や特技を発現させるケースもある」という事例に思い至ったからだという。頭カラッポにして楽しめるアクション映画を観に来た観客たちにとっては若干ヘヴィーな設定かもしれないが、ピンゲーオ監督はさらに濃密なドラマ性をそこに加味してヒロイン像を補強した。それはまさにアジア的と言える発想であった。

 主人公の不運な生い立ち自体に説得力を持たせるため、映画の序盤では彼女の両親のなれそめと別れが丹念に描かれる。父は日本から来たヤクザ、そして母は犯罪組織を取り仕切るボスの右腕。欲望と暴力にまみれて生きてきた女ジンが、過去の荒んだ生活を捨てて産んだ娘ゼンは、つまりカルマ(業)の子である。親の因果が子に報い……というやつだ。だからこそ、成長したゼンが天性のファイターとして目覚める時、そこには社会的弱者が世界の秩序をひっくり返すカタルシスと共に、親の悪行による業が彼女を否応なく血塗られた道へ引き込んでいくという残酷な運命性をも感じさせるのだ。この強固な仏教思想にもとづいたディープでノワールなドラマ性に、まずは打ちのめされてしまった。

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 だが、彼女はそのカルマを生きる力に変える。たとえ血まみれアザだらけになってもひたすら戦い続けることで、日陰に咲いた己の人生を初めて光り輝かせていく。陰から陽へ、自らカルマを反転させていく少女の生命力が、観る者に深い感動をもたらすのである。無論、敬虔な仏教徒の倫理に貫かれたピンゲーオ作品において、運命は容易く変えられるものではない。ゼンの背負ったカルマは、凄絶な戦いを終えた映画のラストシーンにおいても、依然として重くのしかかっているように見える。これは、ひとりの女性が自らの業と向き合いながら生きていく、長い旅の始まりを描いた通過儀礼の物語なのだ。ピンゲーオ監督が本作に盛り込んだドラマ性は、こちらの想像以上にデリケートで重厚だった。

 そう思うと『チョコレート・ファイター』という邦題は、やっぱりちょっと無邪気すぎる気がしないでもない(もちろん商業的には正解だと思うけど)。普段は本当に小さな世界の中で、誰かの庇護のもとで暮らしていかざるを得ないヒロインにとって、人生で本当に大切なものはごくわずかしかない。母親、親友、クンフー映画のビデオ、TVゲーム、そして大好物のチョコレート。それで十分だった。しかし、残酷な運命は彼女からいちばん大切なものを奪ってしまう……。そんなヒロインの通過儀礼の物語に、作り手たちは彼女の生を象徴するものとして『チョコレート』というシンプルな題名を付けた。その意図に思いを馳せると、また泣けてくる。そこには主人公に対する無条件の思いやりと、優しさがある。

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 映画のオープニングに出てくる「才能ある子供たちとの出会いが、私たちにこの映画を作らせた」という言葉は、オーディションでその才能を見出されたヒロイン=ジージャーのことを想起させつつ、実際は別の意味を持っていると監督自身がインタビューで語っている。それは障害を持って生きる子供たちへの真摯なエールだ。その力強い愛情に溢れる視線は、映画の中でもしっかり貫かれている。確かにヒロインの扱い方は乱暴だし、鬼神のごとく暴れ回る姿を描いたりもするが、作り手は決して彼女を人殺しにはしないよう気を遣っている(それ殺してるって! と思わせる箇所も少なくないけど)。

 浮浪児の増加や外国人相手の児童売春など、様々な社会問題を抱えているイメージの強いタイだが、一方では「大人はみんな子供好き」という国民性もあると聞いたことがある。一見すると殺伐とした本作だが、ヒロインへの愛情溢れる眼差しからは、タイ国民の温かな一面を感じ取れるのではないだろうか。

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 もちろん、超絶アクションの数々を見せる娯楽映画としても、『チョコレート』は強烈に魅力的だ。そもそも本作は、新星ジージャーの卓抜したアクション俳優としてのポテンシャルを世界に示すための企画であり、実際に完成した作品を見ても、その命題は見事に達成されている。古今東西の名作や、アクション映画界の偉大な先達にオマージュを捧げるような見せ場の数々は、ジージャーのオールマイティな技のレパートリーを観客にプレゼンする目的と共に、一種の“みそぎ”の意味もあったのではないだろうか。役柄同様、ジージャー自身にとっても本作の撮影は重要な通過儀礼のプロセスとなったはずだ。

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 ファーストステージは『ドラゴン危機一発』(1971)を思わせる製氷工場。鼻をこすったり、怪鳥音をあげたり、過剰にドラゴナイズされたしぐさが微笑ましい。セカンドステージは倉庫を舞台に、小道具や障害物を巧みに使ったジャッキー・チェン主演作でおなじみのアクロバティックな立ち回りが展開する。続くサードステージ、精肉市場でのバトルも香港映画ライクな残虐性とコミカルさを併せ持った、イメージの再生産だ。そしてフォースステージは、今や格闘アクション映画のクラシックとなった感のある『キル・ビル Vol.1』(2003)を連想させる日本料理屋での対集団戦。しかも敵の全員が黒っぽい服で、終いにはみんなで日本刀を手に襲いかかってくるという律儀さである(タイ映画なのに)。そこからさらに、全ての観客が度肝を抜かれるファイナルステージへと雪崩れ込んでいく。2Dゲーム的な発想で、空間的スリルと映像的スペクタクル、肉体アクションの醍醐味を最大限に描ききった『チョコレート』のクライマックスは、本当にすごい。これが今の自分達が見せられる最前線のアクションだ、と言わんばかりの達成度だ。

 過去の映画的記憶の再構築に始まり、やがて作り手の熱い映画魂がポストモダン的発想を突き抜け、最終的には破天荒の極みのような前人未到のオリジナル・アクションを実現させる。この流れは、かの傑作『デス・プルーフ』(2007)そっくりではないか。個人差はあるだろうが、僕にとって『チョコレート』終盤で展開するアクションは『デス・プルーフ』のカーチェイス級の感動をもたらすものだった。

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 ジージャーが見せるアクションは、トニー・ジャーとはまた違うカリスマ性と、誰もが見惚れる魅力を備えている。まず目を見張るのは、その脚技の美しさ。映画の序盤、橋の下でチンピラ相手に行われるデモンストレーション的な軽い擬斗は、彼女のアクションの持ち味が初めて露わになる場面であり、実は製氷工場での立ち回りや倉庫でのバトル以上に魅力的である。健やかにスラリと伸びた脚が突如ハイキックを繰り出し、また地面に着地してポージングするまでの一連の流れは、シンプルかつ最小限のアクションで、まさに様式美と呼びたいほど華麗だ。11歳から習っていたテコンドーの賜物であるというが、そう思うと『Fight Night』(2008)は主演女優に元テコンドー大会チャンピオンを起用しながら、1カットも脚技を見せなかった点で大失敗だったと言わざるを得ない。

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 「恐れを知らない」という役柄の性格上、危険なスタントにも迷いなく挑む躍動のダイナミズムも圧巻だ。特にやはりクライマックス、高所+狭い足場という動きが制限されざるを得ないシチュエーションで、あそこまでのアクションを展開できるというのは本当にすごい。その命知らずな行動にどこか物悲しさや切なさを感じさせるあたりが、本作のヒロイン造形の奥深さである。

 また、格闘シーンのなかで白眉と言えるのは、劇中では数少ない一対一の勝負である敵側お抱えのハンディキャップ少年とのバトルだ。田舎のジャージ中坊みたいなこの少年、キティタット・コワハグル(Kittitat Kowahagul)こそ、ジージャーと並んで本作のスターと言える若手アクション俳優である。ストリートダンス的な動きと“痙攣”をミックスし、まったく先の読めないトリッキーなアクションを作り出している。今まで映画やゲームでも見たことのない未知の敵に対して、ヒロインはどう戦っていくのか? このシークェンスには本当に涙が出るほど感動、興奮させてもらった。彼の登場は再び映画のオープニングに出てきた言葉を思い起こさせ、非常に感動的なのだ。もっともっと長く見ていたいと思わせる、映画史に残るベストバウトだと思う。

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 アクションもさることながら、精神薄弱児という難易度の高いキャラクターも見事に演じていると思う。普段の無邪気さやナイーヴさはまったく子供のそれであり、とても演じている本人が22歳の成人女性であるとは思えない。気取りのない懸命な演技が、独特の愛らしさを釀し出していて魅力的だ。例えば、大好物のチョコを食べるときの機敏なしぐさが、あどけなさと共にちょっぴりオフビートなユーモアも湛えていて、とてもチャーミングだったり。一戦交えて自宅に帰ってきた後、傷や汚れもそっちのけで煎餅布団にズベーッと横になってしまったり。萌えポイントがいちいち硬派かつ乱暴で、そのあたりも好みだった。

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 他にも、ヒロインの母親を演じる“ソム”アマラー・シリポンのノワール美女っぷりとか、阿部寛の剣戟アクションの思いがけないカッコよさとか、劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズを思わせるオカマの殺し屋軍団が最高だとか、いろいろトピックはあるのだが、全部語り始めるとキリがないのでこの辺にしておく。『チョコレート』は間違いなく、観た後で何かを語りたくなるアクション映画である。「後味スッキリ・雑味ゼロ」だけが、良いアクション映画の価値基準ではない。これがアジアのエンタテインメントだ。

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DVD『チョコレート・ファイター』

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『ロック・ミー・ハムレット!』(2008)

『ロック・ミー・ハムレット!』
原題:Hamlet 2(2008)

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 傑作。文豪ウィリアム・シェイクスピアの名作『ハムレット』の続編を謳うという、おそらくコメディ映画史上最も不遜なタイトルを冠した作品である。『ホット・ロッド めざせ!不死身のスタントマン』(2007)に続き、パム・ブレイディの脚本作にハズレなしという事実をさらに証明してみせた快作だ。監督・共同脚本は『キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!』(1999)のアンドリュー・フレミング。

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 スティーヴ・クーガン演じる主人公ダナは、売れない役者業に見切りをつけ、夢果つる地・アリゾナ州ツーソンの高校で演劇クラスの講師をしている。しかし、彼は俳優としての才能をカケラも持ち合わせておらず、講師としての力量もゼロに近いホームラン級のダメ人間だった。そんなある日、教育予算カットで文科系クラスが軒並み潰された煽りで、演劇クラスの受講者がいきなり増加。やる気のない生徒たちに対していいところを見せようと、彼は初めてオリジナル台本による芝居の上演を思いつく。題して『ハムレット2』! これを成功させれば自分も世間から脚光を浴び、ショービズ界に返り咲くことができるかもしれない。そんな下心むきだしで書き上げた入魂のシナリオの内容は、シェイクスピアとキリスト教への過激な冒涜に満ち溢れた、陳腐でお粗末で悪趣味きわまる代物だった。しかし、生徒たちはだんだんと演劇に興味を持ち始め、ダナと共に稽古や舞台作りに熱中していく。彼らにとって、それは田舎町の退屈な日常をぶち壊す恰好のチャンスだったのだ。が、そんな芝居の上演を周囲の大人たちが許すはずもなく……。

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 まず、主演のスティーヴ・クーガンが素晴らしい。見ていて本当にイタい主人公ダナのキャラクターを絶妙に演じている。自意識過剰で無神経、センスもなければアタマも悪い。それでいて憎めない可愛げや哀愁もしっかり醸し出しているあたり、実にうまい。生徒たちの前で赤裸々な感情をさらけ出すシーンは死ぬほどおかしく、同時に涙が出るほど愛らしい。台本のアイディアが何も出ずにパソコンの前で凝固する姿や、ヤケ酒かっくらってローラースケートで暴走する場面にも爆笑した。ちなみにナレーターも担当している(しかも全編ジェレミー・アイアンズの物真似で)。数回にわたって下半身ヌードを披露するサービスシーン(?)もあるので、女性ファンは必見である。

 それ以上にすごいのが、主人公の妻を演じるキャスリーン・キーナー。とにかく感動した。人生をブン投げてしまった女の諦観と自暴自棄、ゾッとするほどの切れ味を備えた自嘲と皮肉を、ここまで完璧に演じられる役者が他にいるだろうか。本作の彼女の演技はもはや素晴らしいを通り越して凄まじい。彼女が現代アメリカ最高の女優であることを思い知るためにも、必見の1本である。

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 生徒を演じる若手俳優たちの演技も魅力的。『僕らのミライへ逆回転』(2008)でヒロインを演じたメロニー・ディアスを始め、チカーノギャング気取りだが実は演技の才能を秘めた青年ジョゼフ・ジュリアン・ソリア、主役の座を奪われてしまう隠れゲイのスカイラー・アスティン、だんだんチカーノ文化にかぶれていく看板女優フィービー・ストロールらの好演が印象に残る。個性豊かなキャラクターたちの見事な描き分けは、さすが『サウスパーク』の脚本家といった感じ。

 他にも、デイヴィッド・アークェットやエイミー・ポーラー、マーシャル・ベルといった芸達者たちが豪華に脇を固めている。中でもビックリするのが、本人役で登場するエリザベス・シュー(次回作はアレクサンドル・アジャ監督の『ピラニア3D』)。役者稼業にウンザリして田舎町に引っ込んだアカデミー賞女優という妙に生々しい役柄を、妙に生々しいイタさと共に演じており、その役者根性には恐れ入る。

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 この映画は、例えばジェリー・ブラッカイマー製作の『デンジャラス・マインド/卒業の日まで』(1995)などに代表される「熱血教師が落ちこぼれの生徒たちを更生させていく感動のドラマ」というクリシェを、完全に引っくり返した秀逸なパロディになっている。実際、劇中で主人公が『デンジャラス・マインド』だの『陽のあたる教室』だの『いまを生きる』だのといった映画の題名を恥ずかしげもなく引用することからも、それは明らかだ。つまり、自分のことをハリウッド映画に出てくる熱血教師みたいだと思い込んでいる主人公こそ、本当は真っ先に救われるべきダメ野郎なのである。そして、一見落ちこぼれ風の生徒たちが、そんな彼を同情と献身によってサポートしていく。それは『サウスパーク』から連綿と続くパム・ブレイディの諷刺精神の表れである。世間でオトナ面している奴らがいかにどうしようもないバカの集団であるか、それを子供たちが気づいていないとでも思っているのか、という。

 それと同時に、文化的比較対象が存在しないド田舎で育った少年少女たちの愚かしさも、等しく辛辣に描いているところがやはりブレイディらしい。ただし、それに対して良い悪いのジャッジをするなどというおこがましさは、彼女のシナリオにはない。映画のクライマックスでは、むしろ「バカとバカの核融合」が得体の知れないパワーを生み出すのだ。およそ稚拙で気の狂った『ハムレット2』の台本を、学生たちが愚直にパワフルに演じることで、途方もないスペクタクルと感動が立ち上がってくるのである。

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 それまでのドラマ部分があまりにも面白かっただけに、クライマックスの上演シーンでは息切れしてしまうのではないかという懸念もあったが、まったくの杞憂に終わった。『RENT』のセットを意識したような巨大な舞台装置で、いかにも90年代に流行った「斬新な演出」風ギミックを散りばめて展開する劇中劇『ハムレット2』は、まさに愛すべきディザスターと言うべき本作最大のクライマックスだ。内容的にはハチャメチャだが、やがてそれが観客に言いようのない感動をもたらしていく過程には不思議な説得力があり、その感動は映画を観ている我々にも伝播していく。

 ハイライト・ナンバー「Rock Me Sexy Jesus」はあまりにも不謹慎かつバカバカしい内容でありながら、正統派ミュージカルの高揚感がある(どこからどう聴いても『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』のパクリだけど)。終盤のエルトン・ジョン「Someone Saved My Life Tongiht」の合唱シーンに至っては、危うく泣きそうになるほど感動させられてしまった。会場の外で『ブルース・ブラザーズ』的に肥大する抗議運動とのカットバックも見事な効果を上げていて、アンドリュー・フレミングなかなかやるな、と思った。エリザベス・シューの使い方も光っている。

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 スタッフ・キャストはハリウッドメジャー作品でお馴染みの顔ぶれだが、実はインディペンデント映画。サンダンス映画祭では配給権を巡って熾烈な争奪戦が繰り広げられたらしい(興行的には振るわなかったそうだが)。アンドリュー・フレミングとパム・ブレイディは、インディーズ的なクセのある語り口や、突き放したユーモアもふんだんに採り入れ、スタジオ製のコメディ映画とはひと味違った快作に仕上げている。そのあたりも通好みの映画ファンには面白いと思うし、もちろん抱腹絶倒のコメディとして誰が見ても楽しめる作品でもある。これは本当にお薦め。

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DVD『ロック・ミー・ハムレット』

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『武装解除』(1975)

『武装解除』
原題:무장해제(1975)
英語題:Kill The Shogun / disarmament

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 『桑の葉』シリーズや『避幕』(1980)などの作品で知られる韓国の職人監督イ・ドゥヨンが、70年代に数多く手がけたテコンドー映画の1本。多彩かつ膨大なフィルモグラフィーを誇るイ・ドゥヨンは、韓国にテコンドー映画ブームを巻き起こしたパイオニア的存在でもある。1974年には初の本格的テコンドー映画『龍虎対錬』を皮切りに『帰って来たウェダリ』『憤怒の左脚』『続・帰って来たウェダリ』など、1年間で6本もの監督作品を世に送り出した。のちに手がけたミステリー大作『最後の証人』(1980)やアクションコメディ『クレイジー・ボーイ』(1985)などで、格闘シーンの切れ味がやたら鋭かったのは、この頃に培ったアクション演出の賜物なのだ。

 本作『武装解除』は、イ・ドゥヨンが新たに発掘した新人俳優カン・デヒを主演に迎えた反日アクション映画。『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972)や『テコンドーが炸裂する時』(1973)など、この時期にアジア諸国で量産されたアクション映画には抗日運動を背景にした作品が多く、旧日本軍は悪役の定番だった。また、当時の韓国映画界は軍事政権による審査・検閲が厳しく、こうしたプロパガンダ映画的な筋立ての方が企画も通りやすかったのではないだろうか。

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 映画は日本政府による大韓帝国軍の強制解散命令から始まる(英語版の字幕では1904年となっているけど、1907年の間違い?)。屈辱的な仕打ちに耐えかねて自決する者や、反抗を試みて逮捕される者が続出する中、カン・デヒ扮する兵士イニョンは日本軍の包囲網から逃走。かつて武道家の父親をサムライに殺された過去のある(!)彼は、韓民族の誇りにかけて最後まで抵抗を続けることを誓う。そして、同じく逃亡してきた元兵士ジョー・リーと共に、イニョンは抵抗運動を開始。といっても、日本軍の兵士がいると見ればいきなり襲いかかってギッタギタにぶちのめし、身ぐるみカッ剥いでいくというバーバリズム全開の直接行動。どう考えても長生きできない感バリバリだが、そんな清々しいまでに何も考えていないヤケッパチな活躍ぶりが見ていて楽しい。

 反日義兵コンビはついに日本軍司令官の宴席に殴り込み、全員をボコボコにした挙げ句、司令官の勲章を奪い取ってしまう。激怒した司令官は勲章を取り返すために大規模な捜索を開始。逮捕されたジョー・リーは拷問の末に日本軍側に寝返り、単身彼を救い出しに来たイニョンを裏切ってしまう。いろいろあって、ついに敵の手に落ちたイニョンは道場へ連行され、日本軍が誇る強者たちとノンストップで対戦する羽目になる……という話。

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 主演のカン・デヒは、デイヴィッド・チャンとジミー・ウォングとオードリー若林を混ぜたようなハンサム・ガイ。往復ビンタのごとく繰り出される切れ味鋭い足技が素晴らしい。終盤、主人公が道場で次々に敵と対戦していくシークエンスは本作最大の見せ場であり、圧巻のクライマックスだ(最後にはなぜかサムライも登場)。イ・ドゥヨン監督のアクション演出はとにかく1カットの中での段取りが非常に多く、なおかつスピーディ。コマ落としで速く見えるよう処理されているとはいえ、役者にとってはかなり難易度の高い演出だろう。カメラ自体はほとんど動かさず(早撮りするためのテクニックでもあるのだろうが)、引きの1カット内で様々な動作を繰り広げ、キメ技や連続技のアップへと巧みに導いていく。マジカルなカッティングで超人的アクションを成立させる手腕は、香港クンフー映画の巨匠たちの演出ともひと味違う、硬質かつ流麗な職人技と言えよう。

 また、この映画のもうひとつの見どころが、おかしな日本軍人の描写。ぺ・スチュンが怪演する司令官がいきなり金魚を踊り食いするシーンは特にすごい(ホントに意味がない)。試合で主人公に負けた部下たちを次々と銃殺してしまうあたりもやりすぎ(優秀な兵士の数がどんどん減っていくだけじゃないのか……)。そんな異常で残忍な性格を描きつつ、日本人は全員悪役というスタンスでもないところが面白い。間抜けで情けないコミカルな表情や、あるいは義に厚い人間性を感じさせる部分も同時に描いていて、それがまた独特である。

 ラストは『ドラゴン怒りの鉄拳』を思わせる悲劇的な結末だが、ここでもイ・ドゥヨンの巧みな演出が光る。教練場を横切って仲間たちの待つ門へと走る主人公と、彼を殺すか否かで議論する将校たちの姿をカットバックで見せ、サスペンスを盛り上げていく。そして、背後からの一斉射撃に倒れた主人公に駆け寄る恋人が「このろくでなし!」と叫んだところでストップモーションとなり、再び銃声が轟く。このエモーショナルな苦い余韻が韓国映画らしい。

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 この映画は韓国映像資料院にもフィルムが所蔵されていないらしく、韓国国内ではレアな作品と化しているようだが、アメリカでは『Kill The Shogun』のタイトルでDVDが発売されている。B級映画の製作・配給を手がけていたジャック・H・ハリスによって買い付けられ、英語に吹き替えられたバージョンである。しかも、ぼくが買ったDVDはドイツ語だかオランダ語だかの字幕が焼き付けられたビデオのコピーだった(一応、ノーカット版らしいけど)。大韓トラッシュの深奥に迫る道は、まだまだ長く険しい……。

 先日発売された「TRASH-UP!! vol.3」で韓国特集を担当させていただいた際、編集長と一緒にちょっと悩んだのが、イ・ドゥヨンの作品をどこまで紹介できるかということだった。結局『避幕』や『最後の証人』などは紹介できたものの、アクション派としてのイ・ドゥヨンについてまでは触れられず、それはちょっと心残りだった(ちなみに「TRASH-UP!! vol.3」の付録DVDには『クレイジー・ボーイ』の予告編がこっそり収録されている)。次号ではひょっとしたら……?

・HKFLIX
DVD『Kill The Shogun(武装解除)』(リージョンオール・英語版)

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『霜花店』(2008)

『霜花店』
原題:쌍화점(2008)
英語題:A Frozen Flower

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 昨年末に韓国で封切られ、観客動員380万人という大ヒットを記録した大作時代劇。高麗時代の宮廷を舞台に、国王と側近の兵士、王妃の3人が織り成す愛憎ドラマを描く。監督・脚本は『マルチュク青春通り』(2004)のユ・ハ。人気スターたちが見せる激しいセックスシーンが公開前から大きな話題を呼び、韓国国内では成人指定で上映された。

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 元国からの抑圧を受け、後継者が生まれないことには立場が危うい国王。だが、いつまで経っても妃との間には子供ができる気配がない。そこで王は最も信頼を寄せる護衛隊長(夜の相手でもある)に妻を抱かせることにする。最初は嫌々ながら王のため国のためと交わうふたりだったが、何度も床を共にするうちに愛情が芽生えていく。一方、夫婦よりも固い絆に結ばれていたはずの王と護衛隊長の関係はギクシャクし始め、ついには互いに剣を向けあうことに……というお話。特に目新しさはない内容だが、王と護衛隊長の同性愛関係を露骨なセックス描写込みでストレートに描いているところが新味だ。

 チョ・インソンとチュ・ジンモという第一線のスター男優が、全力でゲイセックスシーンを繰り広げる姿は、美しいというよりは思わずのけぞってしまうような激しさに満ちている。時代も変わったなあと思わせつつ、今の目で見ても充分にショッキングな光景だ。男同士の濡れ場は前半に1回あるだけだが、それ以降はソン・ジヒョ扮する王妃とチョ・インソンのベッドシーンが何度も繰り返される。これがまた激しい。

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 ただ、撮り方がちょっとつまらない。全部が全部スポーツセックス調というか、無軌道に体をぶつけ合ってるだけな感じ。構図も照明もフラットなので、ムードもヘッタクレもないというか、押し並べて即物的な印象。曾根中生やアン・リーのように、セックス自体がドラマ性を帯びてくるほどネットリコッテリとは撮ってくれないのだ。そこら辺は非常に韓国映画らしいとは言えるかもしれない(韓国映画に登場するセックスシーンは大概、露骨で激しく刹那的なものが多い)。しかし本作の場合、もう少しセックス描写に対するこだわりや繊細さがあれば、もっと面白い映画になったようにも思う。男同士の濡れ場も、あんな目を背けるほど激しい場面を1回だけ見せるのではなく、バリエーションを増やして様々なかたちで映した方がよかったのではないか。どうもそのあたり、考え抜いて撮ったというより、なんとなく大雑把な手つきでやってる気がしてならないのだ。

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 映画全体の演出にも同じことが言える。一言でいうと、大味。主人公の性的アイデンティティの揺らぎとか、三者の愛憎関係が政治抗争に利用されていくとか、いろいろ掘り下げられる要素はあったろうに、筋肉質な娯楽演出で上っ面だけなぞってる感がある。特にジェンダー問題のテーマに関しては、監督自身はきっちり描いていると言っているらしいけれども、はっきり言って突っ込み不足。単なる三角関係に揺れる話にしかなってない。例えばイ・ジュニク監督の『王の男』(2005)のデリケートな描写の巧みさなどに比べると、映画として明らかに見劣りしてしまうのは事実だ。

 技術的にも雑な感じは否めない。特に、画一的な室内の音響(妙にエコーのきいた台詞)、時代劇らしさの感じられない照明(現代劇のセット撮影みたいな明るさ)が気になった。メロドラマ的な盛り上がりが行きすぎてバカバカしくなる展開も多々あり、後半では主人公がどうなろうが結構どうでもよくなる。いくらセックスに夢中だからって間近に迫る危機にも全然気付かないなんて、普通に護衛隊長失格だろう。

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 護衛隊長役のチョ・インソン(見るたんび入江雅人に似てるなあ、と思うのは僕だけだろうか)は、ユ・ハ監督とは『卑劣な街』(2006)に続くコンビ作だが、今回はちょっと冴えない。熱演なのは分かるけど、このドラマの主人公としてはあまりに線が細すぎる気がした。後半ではかなり肉体的に悲惨な目にも遭うのだけど、激しく衰弱したり苦悶したりする描写はなく、妙にキレイキレイなままなので、ファンはともかく普通の観客の立場からすると非常に白ける。いちばん印象に残るのはやっぱりセックスシーンで見せる肉体美で、要するに濡れ場要員なのかな、と意地悪な感想さえ抱いてしまった。まあ、それだけ他のふたりが素晴らしすぎるのだ。

 悩める王を演じるチュ・ジンモは、男ぶりも貫禄も、繊細な演技力も、チョ・インソンを遥かに凌いでいる。何しろ“声”が素晴らしい。だから彼が家臣たちにせがまれて宴で歌を披露するシーンは、映画的なゴージャスさに満ちている。歳とったら本当にいい役者になるんだろうなあと、しみじみ思った。

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 そして、この映画のなかで最も迫力に満ちた演技を披露しているのが、王妃役のソン・ジヒョだ。こちらもドスのきいた声の貫禄が圧倒的。大胆なベッドシーンを体当たりで演じているのも凄いけど、それ以上に複雑な内面を持つ王妃のキャラクターを鬼迫たっぷりに演じていて、弱点の多いこの映画を一身で支えている。秀作ホラーシリーズ『女高怪談』の第3作『狐階段』(2003)で主演デビューを飾った彼女が、本作ではイケメンスターを圧倒する立派な大女優に成長していて、何やら感慨深かった。ちなみに『女高怪談』シリーズ第4作『ヴォイス』(2005)で主演デビューしたキム・オッピンは、今年公開の話題作『コウモリ』(2009)で「『霜花店』を凌ぐ大胆艶技」を披露しているとのことなので、早く観てみたい。

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 まあ、大ヒット作だけあって退屈はしない。護衛隊の面子が美男子ばかりだとか、やたら血糊が盛大に噴き出すバイオレンス描写が多いとか、いちいちサービス精神旺盛な映画なので、それなりの満足感は与えてくれる。とにかく、チュ・ジンモとソン・ジヒョの演技を見るだけでも、本作を観る価値はある。確かにこの2人に関しては、思わずウットリするほど素晴らしい。

・SCRIPTVIDEO
DVD『霜花店』(韓国盤・リージョン3)

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「TRASH-UP!! vol.3」発売中!

 ビデオマーケットタコシェ、そして現在「爆音映画祭2009」が絶賛開催中の吉祥寺バウスシアターなどで先行販売中のトラッシュ・カルチャー・マガジン「TRASH-UP!! vol.3」。全国発売は6月6日ですが、予約受付中のAmazon.co.jpでもすでに配送が始まっているようです。購入していただいた方からは、概ね好評をいただいているようで嬉しいかぎり。ダメ押しに、前回よりもう少し詳しく雑誌全体の中身について紹介します(ちなみに今回は目次もちゃんと入ってました)。

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「TRASH?UP!! vol.3」

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全224ページ
価格/1575円(税込)
責任編集/屑山屑男

《特集1:ダリオ・アルジェント》
◆全作品解説
  デビュー作『歓びの毒牙』から最新作『サスペリア・テルザ/最後の魔女』までの
  監督作に加え、脚本作・プロデュース作まで網羅!
◆『4匹の蝿』シナリオ翻訳
  国内版未発売の初期ジャーロ『4匹の蝿』のシナリオを完全収録!
◆『サスペリア・テルザ/最後の魔女』プチ座談会
  出席者:山崎圭司、中原昌也、伊東美和、柳下毅一郎
◆少女マンガとアルジェント
◆日本のアルジェント系映画を探せ
◆ゴブリンとダリオ・アルジェント


《特集2:大韓トラッシュの世界》
◆韓国ホラー大全
  韓国映画史におけるホラー
  映画ライター、キム・ヨンウンさんに訊く韓国ホラーの実情
  美少女ホラーの世界『女校怪談』シリーズ/『4人の食卓』
  おすすめ作品レビュー『避幕』『鳥肌』『奇談』etc.
  韓国ホラー最新事情2008
  『リング』と『リング・ウィルス』?韓国トラッシュ映画を探せ
◆キム・ギヨンの世界
  韓国映画界の怪物 キム・ギヨン
  特別座談会「キム・ギヨン映画の衝撃と感動」
   出席者:石坂健治、市山尚三、高橋洋、篠崎誠
  作品レビュー『火女』『殺人蝶を追う女』『火女'82』
  ファン必携! キム・ギヨンDVD?BOX
◆これが大韓ロックだ!!
  大韓ロックの黎明
  大韓ロック ディスクガイド&ジャケット・コレクション
  イ・ボンス(BEATBALL RECORDS代表)インタビュー

《インタビュー》
フランク・ヘネンロッター(『バッド・バイオロジー』『バスケットケース』シリーズ)
三家本礼(漫画家『サタニスター』『ゾンビ屋れい子』)
WORLDS AND TAPES #1: asuna

《緊急座談会》
「俺たちのポール・ナッシー」
  出席者:伊東美和、中原昌也、山崎圭司、前田毅、屑山屑男

《Pick Up!!》
子供を殺す映画『TRAS EL CRISTAL』
毒アニメ『バイオレンス・ジャック―地獄街―』

《コミック》
うぐいす祥子「たけのこ姉妹シリーズ 回転」
山田緑
baby arm

《コラム、グラビアetc.》
格闘アクション俳優列伝 ジャン=クロード・ヴァン・ダム―懺悔と贖罪への道―
よくわかる私的ニンジャ映画の歴史―後編―/ニンジャ映画紳士録
School of "Incredibly Strange"
カラーグラビア「コレがアノ昆虫料理だ!」
カラーグラビア「WORLD KILLERS COLLECTION 殺人鬼フィギュアの世界」
Photo「A Girl in Black forest」
詩「船の模型」小笠原鳥類
ロイド・カウフマン物語 vol.3
バウス日記 vol.3
アガサ森田(小さいテレーズ)
桐島こより
PHOTO "ACID EATER"

《付録DVD》
LIVE(ACID EATER、ASUNA、にせんねんもんだい、のうしんとう、
 葉っぱの裏側シスターズ、GAGAKIRISE、MARUOSA、THEWATTER)
「Captain Berlin vs Hitler」予告編、ポール・ナッシー・ダイジェスト...etc

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 ぼくは先日「爆音映画祭」へ『マルホランド・ドライブ』と『デス・プルーフ』(どっちも最高!)を観に行った時、初めて現物を見ました。サンプルを手に取ってみたら、なんか信じられない重さでビックリ……。自分でも6万7千字くらい書いといてナンですが、「ちょっとおかしいんじゃないの、この雑誌?」とか思ってしまいました。で、中身はもっとすごい。

 とにかくダリオ・アルジェント特集の充実ぶりがハンパじゃないです。おなじみ山崎圭司さんによる全作品解説は必読。企画の成立過程や撮影中の裏話など、興味深いエピソードの魅力もさることながら、読み物としてすごく面白いので、アルジェント・ファンじゃなくても作品が観たくなります。ゲスト執筆陣の真魚八重子さん、尾崎未央さんの文章も魅力的。あと、中原昌也さんや柳下毅一郎さんも参加した『サスペリア・テルザ』プチ座談会がハチャメチャで面白いです。特に座談会が終わったあとの写真がサイコーでした(笑)。必見!

 餓鬼だらくさんのコラム「ジャン=クロード・ヴァン・ダム」「毒アニメ『バイオレンス・ジャック─地獄街─』」「よくわかる私的ニンジャ映画の歴史─後編─」も、読み応えある内容。伊東美和さんによるタブー満載のスパニッシュホラー『TRAS EL CRISTAL』の紹介にも、とんでもなく興味を引かれます。伊東さんと言えば最新著書「ポール・ナッシー/ヨーロッパ悪趣味映画の王者」が発売中ですが、出版記念の緊急座談会「俺たちのポール・ナッシー」では中原昌也さんらと一緒にナッシーの魅力について熱く語り下ろしてます。これも相当ハチャメチャですが(笑)、後半で中原さんがすごくいいことを言っているので、映画ファンは要チェック。自分でまとめながら感動してました。

 ぼくがメインに担当した特集「大韓トラッシュの世界」は、雑誌の後半部分。巻頭のアルジェント特集のボリュームには負けますが、わりと読み応えはあると思います。目玉はなんといってもキム・ギヨン特集。特別座談会「キム・ギヨン映画の衝撃と感動」では、東京国際映画祭「アジアの風」プログラムディレクターの石坂健治さんを筆頭に、「TOKYO FILMeX」の市山尚三さん、『リング』脚本家の高橋洋さん、『殺しのはらわた』の篠崎誠監督が参加して、ムチャクチャ面白いお話が展開しております。今回の特集にあたって『火女』と『殺人蝶を追う女』という幻の二大傑作を観られたことも、個人的には嬉しかったです。

 「韓国映画史におけるホラー」は、屑山編集長と相談してるうちにどんどん膨らんで、結局6ページになってしまいました。もうちょっと勉強する時間が欲しかったな……とも思いますが、できるだけのことはやったつもりです。文章以上に、日本未公開の韓国ホラー映画のポスター等が大量にカラー掲載されているのが大きな見どころ。作品レビューでは、『クワイエット・ファミリー』や『チェイサー』などのほか、『鳥肌』や『奇談』など、日本の映画ファンの目に触れてないのが勿体なさすぎる傑作・秀作について書かせてもらいました(ちょっと文章的には粗いですが)。八重子さん渾身の『4人の食卓』評は必読! 胸打たれます。

 音楽方面には疎いので、大韓ロック特集もタメになりました。次号では韓国音楽映画特集をやろうか、なんて話も出ているので、もっと勉強しようと思ってます。

 他にも虫料理グラビア(タガメそうめん!)や、うぐいす祥子さんのコミック「たけのこ姉妹シリーズ」など、見どころ満載。はっきり言って全部を読み通して付録DVDまで観終えるには、平気で1週間くらいかかるボリュームです。お値段以上の満足感は(否が応でも)必ず与えてくれる1冊だと思いますので、ぜひ! ご意見・ご感想お待ちしております。


《先行販売中のお店》
東京:タコシェビデオマーケットヤマシロヤ吉祥寺バウスシアター、タワーレコード新宿10F
大阪:タイム・ボムフリークシーン
名古屋:タワーレコード2店舗(近鉄パッセ、名古屋パルコ)

《順次取扱予定の通販サイト・お店》
Amazon.co.jp
タワーレコード
HMV
BRIDGE INC.
discunion

『Fight Night』(2008)

『Fight Night』
別題:Rigged(2008)

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 闇ボクシングの世界を題材にしたインディペンデント映画。美貌の女性ボクサーと、彼女を見初めたインチキプロモーターの道行きを描く、小規模なアングラ版『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)といった感じのハードなドラマだ。デジタル撮りの低予算映画で、スタッフもキャストも無名の地味な作品だが、なかなか見どころのある佳作に仕上がっている。主には、ヒロインを演じたレベッカ・ニューエンスワンダーの魅力によるところが大きい。製作・監督・編集は新人のジョナサン・M・ディロン。原題は「仕組まれた」「八百長」という意味の“Rigged”だったが、さすがに地味だしイメージもよくないためか、今のベタなタイトルに変えられた模様。アメリカ本国でも劇場公開はされず、DVDで発売された。

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〈おはなし〉
 マイケル・ダブリン(チャド・オーティス)は賭けボクシングのやり手プロモーター。各地を転々としながら、警察の目を盗んで違法のベアナックル(=素手)・ファイトなどを密かに開催し、荒っぽいレッドネック連中から金を巻き上げている。八百長を仕組むこともザラで、もちろん敵も多い。

 その夜もダブリンはいかがわしい取引に手を出し、路地裏でヤクザ者たちに死ぬほどボコられていた。そこへ一人の女が現れ、鮮やかなボクシング技で全員をぶちのめす。「近所迷惑よ」。彼女の名はキャサリン・バーカー(レベッカ・ニューエンスワンダー)。その強さに惚れ込んだダブリンは、翌日からキャサリンにしつこくつきまとい、一緒に巡業しないかと口説き続ける。あまりの執拗さに呆れ果てつつ、闘争意欲を持て余していたキャサリンは渋々承諾。こうして2人は旅に出た。

 テキサス、カンザス、ケンタッキーと各地をめぐり、順調に勝ち進んでいくキャサリン。喧嘩ばかりの旅を続けながら、やがてお互いの過去に秘めた「傷」を知ったふたりは、パートナーとしての絆を深めていく。だがある時、ついにダブリンは彼女を裏切らなければならない局面を迎えてしまう……。

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 とにかくもう、ヒロインの魅力に尽きる。誰がどう見ても、これはレベッカ・ニューエンスワンダーありきの映画だ。写真を見て分かるとおり、とてつもない美人である上、本物のファイターでもある。実際はボクシングではなくテコンドーをやっていたそうで、2000年度の世界チャンピオン(!)だったとか。何しろパンチが速い。それを何度も畳み掛けるようにボディへ打ち込む。重たいワンパンチで攻めるタイプではないので、映画的な迫力には乏しいかもしれないが、その攻撃スタイルにはリアルな鋭さと怖さがある。リング上での動きも軽快で、ボクサーらしからぬダイナミックな動きも見せたりして面白い。この映画では題材上パンチしか見せないが、ぜひ脚技も見てみたいと思った。

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 強くてかっこいい美人のお姉さんが大好きな諸氏(僕含む)にはたまらない作品だと思うが、その美貌が無傷なのは最初の20分だけ。あとは痛々しい痣が顔面を彩り、後半ではさらに悲惨な姿になる。さすがに『TOKYO FIST』(1995)みたいなスプラッター大会になるわけではないけど、観る人によっては結構キツイかもしれない。個人的には、闇ボクシングという裏稼業の醜い現実、女性がボクシングをするということの過酷さをリアルに描こうとする作り手の生真面目さが表れているようで、演出態度としては好感をもった。何よりも「どんなに悲惨なメイクを施しても美しさは失わない」などという綺麗事を自ら突っぱねるかのような、レベッカ嬢の女優魂にも尊敬の念を覚えた。実際、最終的にはその見た目以上に、彼女のタフな姿勢や態度の美しさが観客を魅了するのだ。

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 これが映画初出演らしいので、台詞回しなどには素人っぽいところもあるけど、ふてぶてしい表情や鬼迫に満ちた存在感は堂々たるものだ。複雑な内面を持ったキャラクターも完璧に自分のものにしている。映画も終盤になると芝居にどんどん味が出てきて、もはや立派な映画女優としか見えない。もっと他の映画にも出てないんだろうか……と思ったら、今は「HALO(Helping Art Liberate Orphans)」という孤児のための慈善団体を運営しているらしく、そっちの活動がメインになっているらしい。残念。とはいえ、本作以上のハマリ役に出会えるかというと、そんなに簡単ではないかも。

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 相手役の、というか実質的な主人公であり語り部であるプロモーターを演じたチャド・オーティスの力演も印象的。口八丁手八丁でアングラ世界を渡り歩いてきた詐欺師まがいのダメ人間を、暑苦しいほどパワフルに演じきっている。悪く言えばあまりに役作りが類型的だが、よく言えばクールなヒロインとは好対照をなす熱のこもった演技で、映画を引っ張っている。見た目はトム・クルーズとジョン・サヴェージを足して3倍希釈したみたいな感じだが(ナルシスティックな芝居もクルーズっぽい)、安っぽいアウトローの悲哀を見事に体現しており、レベッカ嬢と同様にハマり役である。

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 デジタル世代のインディーズ映画らしく、映像はすごくちゃんとしている。それでもやっぱり若手スタッフ中心のローバジェット作品なので、ところどころチープだったり、拙かったり、そのセンスどうなの? と思うような部分も幾つかある。中盤のハードなタッチに比べると、取って付けたような甘ったるいエンディングにも興を削がれる。作家性の強い自主映画とプログラムピクチャーの中間を狙ったような、ハンパな低予算映画にはよくありがちな欠点だ。それこそ『ミリオンダラー・ベイビー』や、アウトローの痛切な生を描いたインディーズ映画の傑作『Night at the Golden Eagle』(2002)の苛烈さなどに比べたら、甘ちゃんもいいところ。……と、こんな苦言から先に口をついて出てしまうのは、それらの弱点にも目をつぶれるくらいの魅力を備えた作品だからだ。ただのDVDスルー作品と切って捨てるにはもったいない美点が、この映画には確かにある。

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 まず何よりも役者の魅力。そして、ストイックに絞り込んだシンプルな物語。ハードボイルド気分満点の台詞。生き抜くこと自体が苛酷なアングラスポーツ界で、突破口を求めるアウトローたちのドラマを真摯に描こうとする作り手のクソマジメな姿勢。やたらアップの多い構図だけ見ていても、きっとこの監督はジョン・カサヴェテスとか大好きなんだろうなあ、というのが分かる。その上でプログラムピクチャーとしても通用する、血湧き肉踊る骨太のBムービーを作ろうと試みている。結果としては端々にアマチュアっぽさが残ってはいるが、狙い通りのものをしっかり作りきった感じがして、好感が持てた。こういう「線の細いものには絶対にしない!」という情熱は、やっぱり大事なのではないだろうか。ことに、今の低予算映画の現場では。

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 技術面で特に頑張ってるなーと思えるのは、ハヌマン・ブラウン=イーグルによる撮影だ。彩度を落とした色調と、光と影のコントラストに富んだ照明で、ハードな気分を強調。ボクシングシーンでは『プライベート・ライアン』方式のストロボ効果撮影で、ベタながらも充分以上の迫力を生み出している。また、闇ボクシング会場のいかがわしい空気感もいちいちリアルで、アメリカ南部(いわゆるバイブルベルト)の閑散とした景色を捉えたカメラもいい。

▼オフィシャルサイト「Rebecca (Neuenswander) Welsh」より
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 とにかく、レベッカ・ニューエンスワンダーという存在に出会えただけでも得をしたと思える作品。目の肥えた映画好きには「どうせ安物でしょー」と一蹴されるかもしれないが、個人的には応援したい気分にさせられる力作だった。

(追記:『ストリート・レジェンド』のタイトルで09年11月11日にDVD発売決定)

・Amazon.co.jp
DVD『ストリート・レジェンド(Fight Night)』

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