Simply Dead

映画の感想文。

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2008年に面白かったもの

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 2008年の映画界はベスト10が軽く3つは作れそうなくらい、傑作に恵まれた気がします。それだけ社会が荒れていて、題材やメッセージに困らなかった、ということかもしれませんが。そんな中からまず個人的にぶっ飛ばされた10本を選ぶと……

『It Is Fine! Everything Is Fine.』
『ダークナイト』
『その日のまえに』
『28週後…』
『劇場版 空の境界 ―矛盾螺旋―』
『カイバ』
『WALL・E/ウォーリー』
『陽もまた昇る』
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
『英国王給仕人に乾杯!』

 特に上位5本は、映画を観ながら完全に取り乱し、冷静な判断も批評眼も消し飛ぶカタルシスを与えてくれた傑作でした。中には完璧とは言えない作品もあるかもしれませんが、些細な欠点を猛然とカバーする過剰さ、演出のパッションが構成の美をぶち壊すほど昂った映画のほうが、ぼくは好きです。そんな言語道断もとい言語を絶する作品がいつになく多かったので、自分の文章力のなさを恨むことも多く……いまだに『その日のまえに』や『カイバ』の素晴らしさについて語る技量を持ち合わせていません(そのうち、ちゃんと書きたいとは思いますが)。『英国王給仕人に乾杯!』は大晦日に観に行って滑り込みランクイン。ちなみに、今年めでたく公開された二大傑作『エグザイル/絆』と『ホット・ファズ ―俺たちスーパーポリスメン!―』は昨年のベストに入ってるので外しました。

 もちろん、他にもベストテン級の作品はゴロゴロしてました。以下、ダラダラッと40本ほど列挙。

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『Futurama』(TV Series and DVD Features)
『イースタン・プロミス』
『ぐるりのこと。』
『フィクサー』
『Enfermes Dehors』
『The Lost』
『宮廷画家ゴヤは見た』
『ザ・クランプス 精神病院ライブ』
『12人の怒れる男』
『火女'82』
『カンフー・パンダ』
『ダージリン急行』
『残酷復讐拳』
『Never Apologize』
『実録・連合赤軍 ―あさま山荘への道程―』
『シークレット・サンシャイン』
『Red』
『文雀』
『おくりびと』
『アイアンマン』
『What Is It?』
『天皇伝説』
『Genius Party Beyond』
『人のセックスを笑うな』
『無ケーカクの命中男/ノックト・アップ』
『ラスト、コーション』
『ミスト』
『眠れる野獣』
『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』
『ランボー 最後の戦場』
『スウィーニー・トッド ―フリート街の悪魔の理髪師―』
『フロンティア』
『デイ・ウォッチ』
『崖の上のポニョ』
『スーパーバッド/童貞ウォーズ』
『ハッピー・ゴー・ラッキー』
『セックス・カウントダウン』
『インファナル・ディパーテッド』
『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』
『ミラクル7号』

 鳴呼、こんだけ並べても『屋敷女』や『グラディーヴァ』や『タクシデルミア』や『寝盗られ男のラブ・バカンス』が入りきらないってどういうことよ……と自分でも唖然としますが、それだけ豊作だったということかと。今年はなにげに仕事が忙しかったせいもあり、『少林少女』とか『20世紀少年』といった消化器系に悪そうな映画はなるべく観ないようにしたので、いいものに当たる率が増えたのかもしれません。

 しかし、それでもカスには当たります。栄えある2008年ワーストは次の5本。

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1位:『ライラの冒険 黄金の羅針盤』
2位:『デトロイト・メタル・シティ(実写版)』
3位:『ブラブラバンバン』
4位:『純喫茶磯辺』
5位:『レディアサシン』

 『ライラ?』や『DMC(実写版)』は感想を読み返すと、あの時の怒りを100パーセントは伝えていなくて、まだまだ力量不足だなあと思います。あと、よく周りから「そんなに怒ることないじゃん……」と引かれるぐらい細かいことを気にするたちなのに、『ダークナイト』や『28週後…』について説得力十分の大チョンボを指摘されても「えー、面白いからいいじゃないっすかあ」と大雑把に考えてしまうバランスの悪さが、自分でもどうかと思います。

 でもまあ少しだけ言わせてもらうと、『純喫茶磯辺』の志の低さときたらないです。こういうジコーケーサツ的なオフビート感とか、スローライフみたいなムードが売れ線なんでしょ? という下卑た商売っ気まるだしのくせに、その土俵の上で面白いものを生み出す意欲がまるでない、体に悪い映画でした。一方、『ブラブラバンバン』は清々しいほど演出力が皆無。ついでに『カメレオン』や『グーグーだって猫である』も、ワーストとは言わないまでも本当につまらなかったです。演出やシナリオが素材(役者・原作)を殺しすぎ。

 ……つまんない映画の話ばっかしてても仕方ないので、素晴らしい仕事をした人たちの話を。まずはなんといっても金沢で奇跡のビッグ・スライドショウ公演を果たし、期待に違わぬ「とてつもないもの」を見せてくれたクリスピン・グローヴァー。そして『It Is Fine! Everything Is Fine.』 の脚本・主演を務めたスティーヴン・C・ステュアート。このふたりの与えたインパクトが何しろ抜きん出ていました。きわめてピースフルなムードの中、狂い果てたプログラムを次々と実現させたカナザワ映画祭は本当に素晴らしい。まさに気違い沙汰でした(褒め言葉)。

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 監督部門で「最も酔わせてくれた(いろんな意味で)3人」を選ぶなら、『その日のまえに』の大林宣彦、『劇場版 空の境界 ―矛盾螺旋―』の平尾隆之、『英国王給仕人に乾杯!』のイジィ・メンツェルの御三方を。役者では『ダークナイト』のヒース・レジャー、『その日のまえに』&『おくりびと』の山田辰夫、『クライマーズ・ハイ』の皆川猿時が素晴らしかったです。撮影では『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』&『フィクサー』のロバート・エルスウィットを筆頭に、『ダークナイト』のウォリー・フィスター、『陽はまた昇る』三人チームの仕事が圧巻でした。音楽では『28週後…』のジョン・マーフィ、『ダークナイト』のハンス・ジマー&ジェームズ・ニュートン・ハワード、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のジョニー・グリーンウッドらによるダークな旋律が忘れられません。それと、ここ最近はあんまりピンとくる作品のなかった久石譲が、『おくりびと』と『陽もまた昇る』では素晴らしいスコアを書き下ろしていたのも印象的でした。

 2009年も楽しみです。それではよいお年を。

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「TRASH-UP!! Vol.2」いよいよ発売!

 映画・音楽・コミックなど様々なシーンで異彩を放つ、パンクでカルトでウィアードな才能を讃えるトラッシュカルチャーマガジン「TRASH-UP!!」。創刊号は残念ながら完売となりましたが、ついに待望の第2号が1月11日に発売されます。ページ数は160ページに大増量、それでも値段は前号と同じく1365円! 中野タコシェ、新宿ビデオマーケット、タワーレコードなどで発売が予定されているほか、今号からは全国流通も開始。Amazon.co.jp@TOWER.JPなどでも取り扱われるようになったので、ショップに行けない人でもネットで簡単に購入できます。

「TRASH?UP!! Vol.2」
価格/1365円
責任編集/屑山屑男

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《主な内容》
●座談会「2008年ホラー映画総括!」(山崎圭司×伊東美和×真魚八重子×岡本敦史)
●レトロスペクティヴ『13日の金曜日』キング・オブ・スラッシャー・フィルムの伝説【1】 by 山崎圭司
●よくわかる私的ニンジャ映画の歴史─前編─ by 餓鬼だらく
●ピックアップ『ベルニー』&『クラークス2』 by 岡本敦史
●曽根中生 得体の知れない静寂 by 真魚八重子
●わいせつ男獣・関良平 by 柳下毅一郎
●異端のSF作家・式貴士の世界 by 五所光太郎
●月刊ヘア・スタイリスティックス途中経過(中原昌也ロングインタビュー) by 前田毅
●ハロプロ禅とヒップホップ禅と禅(TRASH-UP!! EDIT) by A.K.I
●河村康輔 ZAIDE
●蟲スイーツの世界
●「MAGNITUDE3」ストーリー by キング・ジョー
●DVDレヴュー
●MUSICレヴュー
●グラビア:世界の剥製博物館(スイス編)
●Interview:ナタリア・ラフォルカデ/小さいテレーズ/ビル・モーズリィ(『デビルズ・リジェクト』主演俳優)/アレックス・コックス(『レポマン』『サーチャーズ2.0』監督)
●Comic:うぐいす祥子/山田緑/baby arm
●詩:小笠原鳥類

 そのほか、クリスピン・グローヴァーの「ビッグ・スライドショウ」&カナザワ映画祭ルポ、『ゾンビ2009』 『ゾンビ・ストリッパーズ』 レビュー、バウスシアター武川さんの「バウス日記」など、内容盛りだくさん。ぼくは上記の2008ホラー座談会、『ベルニー』&『クラークス2』賛、DVDレビューに加え、ジャック・ケッチャムの映画化作品についても少し書いてます。

 ちなみに特典DVDの内容は以下のとおり。

●小さいテレーズ……高円寺発へなへなサイケデリック・バンドの貴重なライブ映像。
●「大悪魔祭」……DEVILPRESS×TRASH-UP!!×GENOCIDE presentsで開催されたイベント「大悪魔祭」の模様をダイジェストで収録。出演バンドは、DARKSIDE MIRRORS、INCAPACITANTS、SIGH、SUICIDAL 10CC(中原昌也+ジム・オルーク)、GENOCIDE nippon。
● 2MUCH CREW……1stアルバム「BUBBLE YOU」を1月にリリースする2MUCH CREWの「青い部屋」でのライブ。
●HIKO〈GAUZE〉+BIKE SESSION at 向島洋らんセンター……河村康輔が企画したふくやま美術館(穏やかな登り坂)のAFTER PARTY。GAUZEのHIKO(Dr.)と元暴走族のバイク3台によるセッション!
●MAGNITUDE3……伝説のガレードバンド「MAGNITUDE3」。伝説の90年代のライブと、恐怖と感動の2008年再結成ライブ。

 現在、下記のオンラインショップでも予約取扱中。ちなみにAmazonでは1500円以上で送料無料になるので、ついでに500円DVDとかマンガ本の1冊でも買っていただければお得です。前号に増して詰め込みすぎな内容となってますので、売り切れる前にぜひ!

《「TRASH-UP!! Vol.2」予約取扱中のオンラインショップ》
Amazon.co.jp
@TOWER.JP
BRIDGE INC.

※追記:今日(12月30日)、刷り上がったばかりの見本誌をもらったので読んでますが……メチャクチャ面白いよ、コレ! 狂ってる!!!!

『陽もまた昇る』(2007)

『陽もまた昇る』
原題:太陽照常升起(2007)
英語題:The Sun Also Rises

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 傑作。『太陽の少年』(1994)、『鬼が来た!』(2000)のジァン・ウェン監督が、前作から7年ぶりに手がけた長編第3作。今年の東京国際映画祭で観て、一昨年の映画祭で上映された『父子』(2006)を観た時と同じくらいの興奮を覚えた。間違いなくジァン・ウェンの最高傑作だと思う。

 映画は中国雲南省の山深い村落から始まる。見た目はまるで少女のような母親と、その息子が織り成す不思議な物語だ。変わり者の母は、大木の上に登ったり、その下に大きな穴を掘ったり、見知らぬロシア人の名を叫んだりと、突飛な言動を繰り返す。息子はいつも元気いっぱい・狂気いっぱいの母に手を焼きながら、献身的に尽くし続ける。その美しさゆえ、いつか近親相姦へともつれこみそうな危うさも漂わせながら……。

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 シネマスコープの大画面に描かれる、風変わりな親子のファンタジックでスリリングな日常は、いつまでも終わってほしくないほど魅力的だ。しかし、別れは突然にやって来る。人生の必然である通過儀礼のように。

 奔放すぎる母親に扮する若手女優ツォウ・ユンが非常に魅力的で、芝居も堂々たるもの。無邪気さと大らかな母性を見事に体現している。あまりに魅力的だったせいか、撮影中に監督の子供を身籠ってしまったとか(おいおい)。ひたすら翻弄される健気な息子を演じるのは、ジャッキー・チェンの実息ジェイシー・チャン。本作では「こんなにいい役者だったのか!」と驚いてしまうほど、純情素朴な青年を活き活きと演じている。

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 中華的マジックリアリズムが横溢する物語を、ジァン・ウェンはひたすらテンポよくエネルギッシュな演出で活写する。力強く流麗なカメラワーク、瑞々しい役者の演技、シャープな編集、久石譲の素晴らしい音楽によって観客を魅了し続けるのだ。例えば、樹の上に登り続ける母親と、梯子を持って山道を駆け回る息子というシーンを何度も反復させながら、ダイナミックかつスピーディーな場面運びで見せきってしまう。凡庸な監督なら、すぐに観客を飽きさせてしまうだろう。

 “快音”を随所に配した演出も秀逸で、机や床にドンッ!と何かを叩きつける音、あるいは顔面を思いきりひっぱたくバチン!という打撃音を積み重ね、絶えず覚醒を促しながら快調なリズムを作っていく。この気持ちよさはなるべく音響のいい劇場で体感してもらいたい。エイドリアン・ライン監督のリメイク版『ロリータ』(1997)も思い出した。

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 気が付くと、物語は次の章へと移っている。え? と戸惑う間もなく、2人の中年男と1人の情熱的な女の、おかしくも切ない恋のさやあてが綴られていく。舞台となるのは、さっきの山村よりはまだ文化的な匂いがする片田舎の村。主人公アンソニー・ウォンはギターを抱えた学校教師で、おそろしくセクシーな保健医ジョアン・チェンに言い寄られたり、軽佻浮薄な同僚ジァン・ウェンと友情を紡いだり、映画の野外上映で痴漢の汚名を着せられたりする。

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 フレッシュな若手俳優たちの魅力で見せた第1章とは打って変わって、ここではベテラン俳優たちの演じる「イイ歳した子供たち」の恋模様が、華やいだ映像美でコミカルに描かれる。渋さのなかに少年性を秘めたアンソニー・ウォンが何しろ素晴らしい。全身からフェロモンを発散する色ボケ女医、ジョアン・チェンのエロさときたら爆笑ものだ。いかに『ラスト、コーション』(2007)での彼女の扱いが勿体なかったか分かろうというもの。脇に回っておいしいポジションをもっていくジァン・ウェンも、相変わらず巧い。

 この話がさっきの母子のエピソードと繋がるのかどうか、観ている間はまったく分からない。ただ、呆気にとられるほど美しくショッキングな結末によって、どうやらこれが様々な「人生の別れ」を描く物語であるらしいと気付かされる。

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 そして、舞台は再び山奥の村へ。友を失ったジァン・ウェンは、夫婦で下放(文化大革命の政策のひとつで、要は島流し)され、そこで母を失ったばかりの青年ジェイシー・チャンと知り合う。青年は男の美しい妻に惹かれ、肉体関係を持つ。それを知った男は……。無垢なるゆえの罪、綻び始める愛情の官能的なゆらめきが、幽玄な大自然をバックにしっとりと描かれる。山間に満たされた夜の冷気を、そのまま伝えるような映像があまりに美しい。都会的な妻を演じるコン・ウェイの美貌も、若者を惑わす魅力十分。

 ラストには、やはり残酷で切ない“ことの終わり”が待っている。観客を残らず悲しませる意地の悪い結末だが、どこか「しょうがねえなー」と思えるようなユーモラスな味わいも滲む。

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 いよいよ、映画は最終章へ。物語は大きく過去へとさかのぼり、それまで登場してきたキャラクターたちが再び画面に現れ、意外な関わりが明らかになる。ここでは、のちに痛切な「別れ」を経験することになる、それぞれの「出会い」が描かれていくのだ。

 人生は出会いと別れの繰り返し──というありきたりな文句を、ジァン・ウェンは映画的技巧に富んだアクロバティックかつ骨太な演出で、見事に人生の本質として描ききった。全体を時系列順に見れば、なんとも物悲しい余韻を残すストーリーではある。しかし、映画のラストを締めくくるのは、爆発的な歓喜の波だ。その美しく雄大な光景を前に、観客は喜びも悲しみもひっくるめた、えも言われぬ感動に包まれてしまう。

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 ジァン・ウェンはこの作品で、中国南西部独特の世界観を描きたかったのだそうだ。ぼくがこの映画を観ながら真っ先に連想したのは、エミール・クストリッツァ監督の作品だった。特に第1章・第4章にはその色が濃く、『アンダーグラウンド』(1995)のラストそっくりの場面まで登場する。土俗的マジックリアリズムと民族的バイタリティをもって、人間の喜びも悲しみもないまぜに描くパワフルなストーリーテリングも共通している。ちょっと似すぎじゃないかとも思ったが、元々、作家的素質からしてかなり近いのだろう。

 両者とも、作品の根底には常に戦争や国家によって抑圧される民衆というモチーフがあり、本作でも『大陽の少年』同様、文化大革命の時代に物語がセッティングされている。第2章に出演したジョアン・チェンが監督を手がけた『シュウシュウの季節』(1998)は、下放政策の生んだ最悪の悲劇を描いた問題作だったが、ジァン・ウェンが変わっているのは、その時代設定を作品の中心に置かず、むしろ逆手に取ってファンタジックな状況を構築してしまうところだ。文革のおかげで不良天国と化した北京を描いた『太陽の少年』は言うに及ばず。本作では、下放された男が子供相手に狩猟を教えながらのんきに暮らしているという、そのいたってフマジメな描写にジァン・ウェンらしい反骨の態度が表れていると思う。そのあたりに薫る「憎めない不良少年っぽさ」が、この人の最大の魅力ではないかと個人的には思うのだが、そこでもやはりエミール・クストリッツァとの類似性を感じた。

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 前作『鬼が来た!』の内容をめぐり、中国政府から活動停止処分を受けてから7年。今回の『陽もまた昇る』は細心の注意と入念な下準備のもとに制作されたという。度重なるシナリオ審査にも応じ、撮影中に脚本を何度も書き変えるような無茶もせず、キャスティングにも実力ある有名俳優を多く起用した。ひとことで言って「大人になった」変化のうかがえる作品だ。しかし、それでもなお“怪物”ジァン・ウェンの奔る才能、破天荒な作家性は健在だった。それが何より嬉しい。

・Yesasia.com
DVD『陽もまた昇る』(香港盤)

【“『陽もまた昇る』(2007)”の続きを読む】

欲しいDVDリスト・国内編[2009.1+α]

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 トラッシュカルチャーマガジン「TRASH-UP!! Vol.2」は年明け1月11日発売! と何気に告知してみる、1月の欲しいものリスト・国内編のお時間です。ページ数も記事の濃さも内容のバラバラさ加減もさらにパワーアップしてますので、お年玉は少しだけとっておいてください(近々詳細アップします)。さて、2009年は年明け早々から『シークレット・サンシャイン』『屋敷女』『12人の怒れる男』『劇場版 空の境界 ─矛盾螺旋─』と、ささくれ立ったハートに火をつける傑作・秀作が続々登場。オーウェン・ウィルソン主演の『Mr.ボディガード/学園生活は命がけ!』や、マイク・マイヤーズ主演の『愛の伝道師 ラブ・グル』といったコメディの大物タイトルが相変わらずDVDスルーされるなか、ジーン・ワイルダー主演作の一挙リリースという嬉しいサプライズも(タイミング的に謎ですが)。石井輝男監督の比較的レアな作品群も、ドドッとDVD化されます。各商品タイトルのリンク先は、Amazon.co.jp


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●2009.1.1発売
『シークレット・サンシャイン』特別版(2007)
イ・チャンドン監督5年ぶりの復帰作にして、その鬼っぷりが遺憾なく発揮された力作。感想文はこちら。成瀬や小津にも通じる庶民のドラマとして、神と人間の距離、信仰の意味を問うた意欲作でもある。DVDは2枚組の特別版。ロケ地探訪やインタビュー、音声解説などを特典として収録。(エスピーオー)

『クライマーズ・ハイ』デラックス・コレクターズ・エディション(2008)
日航機墜落事故をいち早く伝えようと奔走した新聞記者たちの姿を描いた、横山秀夫原作の社会派ドラマ。近年とみに作品選びが無節操になっている原田眞人監督の、久々の良心作という呼び声も高い。主演は前作『魍魎の匣』でも原田監督と組んだ堤真一。(ソニーピクチャーズ)


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●2009.1.7発売
『屋敷女』アンレイテッド版(2007)
交通事故で夫を失った身重の女性のもとに現れる、謎の女。その目的はお腹の胎児を奪うことだった……。エクストリームな残酷描写満載のフレンチ・スプラッターホラー。鼻につく部分もあるけど、ここまで徹底的にやってくれたらいっそ清々しい。狂気にとり憑かれた女を演じるベアトリス・ダルが素晴らしすぎる。劇場公開時には修正が入ったが、DVDは無修正・無審査バージョンで発売。(キングレコード)

『告発のとき』(2007)
派兵先のイラクから帰国後、惨殺体となって発見された若き兵士。父親はその死を究明しようと独自に捜査を始めるが……。実際に起こった事件をもとに、現代アメリカの戦争の闇を浮き彫りにした社会派ドラマ。監督・脚本は『父親たちの星条旗』のポール・ハギス。『ノーカントリー』に続き、悩めるアメリカを象徴するような役柄をトミー・リー・ジョーンズが好演。(ポニーキャニオン)

『ターミネーター/サラ・コナー・クロニクルズ《ファースト・シーズン》』Vol.1(2008)
ジェームズ・キャメロンの生んだ大ヒット作『ターミネーター』をTVシリーズ化。『2』の続編というかたちで、人類存亡の鍵を握るコナー母子が再び未来からの刺客と壮絶なバトルを繰り広げる。来年公開の映画『ターミネーター4』ともリンクしていく内容だとか。1月21日には、Vol.2?5までを収録したDVD-BOXと、全話収録のBlu-ray BOXが発売。(ワーナーホームビデオ)

『レールズ&タイズ』(2007)
クリント・イーストウッドの実娘、アリソン・イーストウッドの初監督作品。病床の妻と向き合えない鉄道技師、彼の家に引き取られた孤児の少年らが織り成すドラマを繊細に描く。主演は『ミスティック・リバー』でも共演したケヴィン・ベーコン、マーシャ・ゲイ・ハーデン。(ワーナーホームビデオ)

『独白するユニバーサル横メルカトル Egg Man』(2008)
国内最強のホラー小説家・平山夢明の傑作短編集『独白するユニバーサル横メルカトル』の中から「卵男」を3DCGアニメで映像化。独房に収監された天才猟奇殺人犯エッグマンは、隣室の囚人を次なる犯罪のために利用しようと画策するが……。原作者インタビューも収録。(ポニーキャニオン)

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『ヒーロー・オブ・クンフー 裸足の洪家拳』(1975)
甘いマスクで人気を博しながら若くして世を去った香港アクションスター、アレクサンダー・フーシェンの代表作の一本。靴も履いていない貧相な青年クアンは紡績工場で働き始めるが、彼は洪家拳の使い手だった……。監督は巨匠チャン・チェ。のちにジョニー・トー監督の『裸足のクンフーファイター』としてリメイクされた。(キングレコード)

『新・嵐を呼ぶドラゴン』(1974)
チャン・チェ監督、チェン・クァンタイ&アレクサンダー・フーシェン共演の『嵐を呼ぶドラゴン』シリーズ第3弾。将軍の裏切りに揺れる明朝を復興させるため、少林寺は子弟を下山させて信者たちに武術を指南する。(キングレコード)

『洪家拳対詠春拳』(1974)
南派少林拳の二大流派、洪家拳と詠春拳の描写を丹念に映像化して注目を集めた、チャン・チェ監督の少林クンフーアクション。出演はアレクサンダー・フーシェン、チー・クアンチュン、リュー・チャーフィーほか。武術指導は『少林寺三十六房』のラウ・カーリョンが担当。(キングレコード)

『冷血十三鷹』(1978)
ティ・ロンとアレクサンダー・フーシェンが共演した武侠アクションの傑作。偶然に出会った2人の男が、それぞれに背負った因縁から“十三鷹”と呼ばれる殺し屋集団と激闘を繰り広げる。一人一人が違う武器を持つ殺し屋たちとのバトルが見どころ。(キングレコード)


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●2009.1.9発売
『ハプニング』特別編(2008)
いつの間にか問題作監督になってしまったM・ナイト・シャマラン之介の最新作。人間を死へと駆り立てる奇怪な現象がアメリカを襲い、人々は原因不明のまま逃げ惑うが……。主役がミスキャストだとか、膨らませるべき場面を簡単にスルーしたりとか、欠点も目立つけれど意欲は買える佳作。(20世紀フォックス)

『悲しみが乾くまで』スペシャル・エディション(2007)
夫を亡くして悲嘆に暮れる二児の母オードリー。彼女は生前の夫が親身にしていた破滅型の男ジェリーを葬儀に招き、しばらく一緒に暮らしてほしいと懇願する……。ハル・ベリーとベニチオ・デル・トロが共演した、痛切な愛のドラマ。監督はデンマーク出身の俊英、スサンネ・ビア。同監督の旧作『アフター・ウェディング』(2006)『ある愛の風景』(2004)もスペシャル・エディションで同時発売。(角川エンタテインメント)

『シティ・オブ・メン』スペシャル・エディション(2007)
世界に衝撃を与えた『シティ・オブ・ゴッド』の姉妹編的作品。暴力と犯罪に支配されたブラジルのスラム街・ファヴェーラを舞台に、兄弟のように育った2人の少年たちの絆と葛藤を描く。2作セットのDVD-BOXも同時発売。(ポニーキャニオン)


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●2009.1.21発売
「ミッキーマウス B&Wエピソード VOL.2」限定保存版
ミッキーマウスの白黒時代の短編を集めた限定版コレクターズDVDの第2弾。今回は「バーン・ダンス」「ミッキーのオペラ見学」「ネコの居ぬ間のタップダンス」など、1928年から1935年にかけて製作された40編と、貴重な特典映像を収録。柳生すみまろの書き下ろしカラーブックレットつき。(ウォルト・ディズニー)

『敵こそ、我が友 ?戦犯クラウス・バルビーの3つの人生?』(2007)
ナチスドイツの親衛隊中尉として多くのユダヤ人を殺害し、“リヨンの虐殺者”と呼ばれた男、クラウス・バルビー。戦後、彼はCIC(アメリカ陸軍情報部隊)の工作員として暗躍し、さらに南米では武器商人、ボリビアの歴代軍事政権の保安アドバイザーまで務めていた……。第2次大戦の戦犯が辿った数奇な人生に迫る驚愕のドキュメンタリー。監督は『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』のケヴィン・マクドナルド。(VAP)

『花と嵐とギャング』(1961)
鬼才・石井輝男監督が新東宝から移籍して撮り上げた第1回東映作品。高倉健、江原真二郎、曾根晴美、清川虹子、鶴田浩二などの主要キャスト全てが悪人に扮した、藤原審爾原作のピカレスクアクション。銀行強盗を企てた悪党一家が辿る運命とは?(東映)

『顔役(石井輝男)』(1965)
関東の暴力団組織が産業地帯整備の利権獲得に奔走するが、そこへ関西の組織も東京進出を画策して激突。両者の組員たちが火花を散らす中で、友情や仁義の契りを交わす者の姿もあった……。鶴田浩二、高倉健、アイ・ジョージ、長門裕之、天知茂など、豪華キャストと大スケールで描くギャング映画大作。佐久間良子、三田佳子、藤純子が花を添える。監督は石井輝男。(東映)

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『異常性愛記録 ハレンチ』(1969)
石井輝男が監督・脚本を手がけた、現代の京都を舞台に繰り広げられるエログロ愛憎劇。変態社長・深畑の愛人になっていたバーのママ・典子は、デザイナーの吉岡に惹かれて助けを求める。だが、それを知った深畑の責めはエスカレートし……。出演は橘ますみ、賀川雪絵、小池朝雄、吉田輝雄ほか。(東映)

『実録三億円事件 時効成立』(1975)
昭和43年12月10日、日本中を震撼させた“三億円事件”の謎に東映捜査陣が迫る! 石井輝男監督の実録犯罪エクスプロイテーション映画の快作がついに初DVD化。犯人カップルと彼らを追うベテラン刑事など、事件に関わった人々の群像劇をテンポよく活写。現東映社長にして岡本喜八監督の傑作『吶喊』での好演も忘れ難い岡田裕介を犯人役に、小川真由美、金子信雄、田中邦衛らの演技派が顔を揃える。(東映)

『大脱獄(石井輝男)』(1975)
濡れ衣を着せられ、死刑囚となった梢一郎。癌で苦しむ母を安楽死させ、服役した国岩邦造。ふたりは極寒の網走刑務所を脱獄し、梢を陥れたかつての極道仲間への復讐を果たそうとする……。高倉健、渡哲也、菅原文太のビッグスリーが初共演を果たしたサスペンスアクション。ベテラン石井輝男が監督・脚本を手がけ、脱獄囚同士の友情、旅のダンサーとの束の間の恋、雪原での真犯人との死闘などがドラマチックに展開する。共演は木の実ナナ、三谷昇、室田日出男、加藤嘉、田中邦衛ほか。(東映)

『暴力戦士』(1979)
石井輝男監督による日本版『ウォリアーズ』+『ウエストサイド物語』。六甲山で行われたロックイベントで、東京のストリート・ファイターズと神戸のドーベルマン・キッドの間で抗争が勃発。ファイターズのリーダーであるケンは、ドーベルマンのリーダーの妹マリアを連れて東京へ逃げるが……。主演は田中健と岡田奈々。本作の後、石井監督は活動の場をTVに移し、14年ぶりの映画復帰作となった『ゲンセンカン主人』で再び岡田奈々を起用した。(東映)

『歩いても 歩いても』(2008)
夏の終わり、老夫婦のもとへ息子一家が帰郷。その日は15年前に死んだ長男の命日だった……。是枝裕和監督がある家族の一日を通して描くホームドラマの秀作。原田芳雄、樹木希林、阿部寛、夏川結衣、YOUらの豪華共演が見どころ。(バンダイビジュアル)


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●2009.1.23発売
『国際諜報局』プレミアム・エディション(1964)
マイケル・ケインが英国諜報員を演じたスパイスリラー“ハリー・パーマー”シリーズの第1弾が、待望の初DVD化。監督は『エンティティー/霊体』のシドニー・J・フューリー。貴重な日本語吹き替え音声、マイケル・ケインのインタビュー、ケインがコメディ番組に出演した際のコント映像、別バージョンOP・EDなど特典満載の2枚組。(ジェネオン)

『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』デラックス版(2007)
アルツハイマー症を患い施設に入った妻は、いつしか夫のことを忘れ去り、そこで出会った別の男性と恋に落ちた。その時、残された夫は……。『ドーン・オブ・ザ・デッド』の女優サラ・ポーリーが初メガホンをとった長編監督デビュー作。夫の存在を忘れてしまう妻を、イギリスの名女優ジュリー・クリスティが演じ、絶賛を集めた。(ジェネオン)

『ディクシー・チックス シャラップ・アンド・シング』(2006)
イラク戦争開戦前夜にブッシュ大統領を批判し、全米を敵に回した反骨の女性カントリーグループ“ディクシー・チックス”の活動を記録した音楽ドキュメンタリー。タイトルどおり保守派の民衆から「黙って歌ってろ」と罵声を浴び、ボイコット運動に遭い、殺人予告まで受けながら、信念を曲げずに戦い続けた彼女たちは2006年のグラミー賞5部門を制覇する。監督は『MY GENERATION』のバーバラ・コップル。(ジェネオン)

『ヒッチハイク』ヘア無修正ニューマスター版(1976)
夫の目の前で暴漢に陵辱される若妻……。コリンヌ・クレリーの大胆な演技と衝撃的なストーリー展開で、カルトな人気を博すエロティック・スリラーが再リリース。共演はフランコ・ネロ、デイヴィッド・ヘス。監督は『SEX発電』のパスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ(なんかめでたそうな名前)。ニューマスター・低価格版での再登場。(ジェネオン)

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『Mr.ボディガード/学園生活は命がけ!』(2008)
ツキに見放され、ホームレス生活を送る元陸軍特殊部隊の自称“武術の達人”ドリルビットは、イジメに悩む冴えない高校生3人組のボディガードとして雇われる。憎めないボンクラを演じさせたら右に出る者のないオーウェン・ウィルソン主演の学園コメディ。監督は『リトル・ニッキー』のスティーブン・ブリル。DVDには音声解説のほか、削除シーンやNG集など約39分に及ぶ映像特典を収録。(パラマウント)

『愛の伝道師 ラブ・グル』(2008)
マイク・マイヤーズが『オースティン・パワーズ』に続くヒットを狙って放った、5年ぶりの実写主演作。インドからやってきた愛の伝道師グル・ピトカが、新天地アメリカで繰り広げる騒動を描く。共演はジェシカ・アルバ、ジャスティン・ティンバーレイクなど。DVDにはメイキングやNG集など豊富な映像特典を収録。(パラマウント)

『BUG/バグ』(2007)
暴力的な元夫から逃れるため、モーテルの一室に身を潜める女。そこで彼女は同じように辛い過去を持つ男と出会い、心を通わせ始めるが、閉ざされた空間のなかで彼らの精神は次第に崩壊していく……。ウィリアム・フリードキン監督が舞台劇を映像化したサイコスリラー。主演はアシュレイ・ジャッド。(AMUSE)

『12人の怒れる男』(2007)
シドニー・ルメット監督の名作『十二人の怒れる男』を、ロシアの巨匠ニキータ・ミハルコフ監督が新たに翻案。単なるリメイクではなく、チェチェン紛争を始め現代ロシアの抱える問題を巧みに盛り込み、堂々たる社会派エンタテインメントに仕上げている。やっぱすげえや、ミハルコフ。見事なカメラワークと芸達者揃いの俳優陣の熱演、おそろしくカッコいいオープニングタイトルも見どころ。(東宝)

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『邪 ゴースト・オーメン』(1980)
金目当ての悪人と結婚してしまった資産家の娘・秀英。夫のひどい仕打ちで辞めさせられた使用人に代わり、やってきたのは綺華という若い女。病弱な秀英を親身に世話する彼女は、ある日、秀英と一緒に夫を殺害。それ以来、罪の意識に苛まれた秀英はついに死の床に臥してしまうが、それは夫と綺華が仕組んだ罠だった……。『悪魔のような女』の翻案から幽霊ホラーへ、さらに驚愕のクライマックスへと雪崩れ込むショウ・ブラザーズ末期のカルトホラー。監督は怪作監督として名高いカイ・チーホン。(角川エンタテインメント)

『魔 デビルズ・オーメン』(1983)
キックボクシングのトレーナー兼選手の陳雄は、ある日、試合のトラブルで殺されそうになったところを、光り輝く謎の仏僧に助けられる。その日を境に不思議なことが次々と周囲に起こり、導かれるまま寺院に向かった陳雄を待っていたものは……。“香港の石井輝男”と謳われるカルト監督カイ・チーホンの代表作。黒魔術の呪いに立ち向かうため、僧侶となって戦いを挑むキックボクサーの活躍を、なんでもありのストーリー展開とエログロ描写で描く。(角川エンタテインメント)

『オーディション』(1999)
海外ではジャパニーズ・ホラーの代名詞的作品として知られる、三池崇史監督の傑作が待望の再リリース。現実の足場を完全に失う中盤の展開が衝撃的で、東京ファンタで初めて観た時の興奮は忘れられない。その後は激痛ホラーみたいな物言いばかりされてしまったけど……。主人公・石橋凌を追いつめていく恐怖のヒロインを演じるのは『東京残酷警察』の椎名英姫。(角川エンタテインメント)


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●2009.1.28発売
『劇場版 空の境界 ─矛盾螺旋─』【通常版】(2008)
何度でも言うけど、本当に本当にものすごい傑作。原作をいかに映画として面白く見せるか徹底的に考え抜かれている映画だし、なおかつ野心的で若々しい刺激に満ちた「才気喚発」という言葉がぴったりの作品。感想文はこちら。同時発売の【完全生産限定版】には、縮刷パンフレット、サントラCD、特製ブックレットなどを封入。(アニプレックス)

『レッドベルト 傷だらけのファイター』コレクターズ・エディション(2008)
妻と共に小さな道場を営む柔術マスターのマイク。彼は賞金稼ぎのための大会には出場しない主義を貫いていたが、ある事件に巻き込まれて多額の借金を背負い、信義を曲げてリングに立つことを決意する……。演劇界と映画界を股にかける鬼才、デイヴィッド・マメットがシビアに描く、格闘家の葛藤とプライドの物語。主演は『インサイド・マン』のキウェテル・イジョフォー。(ソニーピクチャーズ)

『俺たちステップ・ブラザーズ〈義兄弟〉』コレクターズ・エディション(2008)
ひょんなことから義兄弟の関係になってしまった2人のボンクラ中年男が巻き起こす騒動を描いたドタバタコメディ。人気喜劇俳優のウィル・フェレル(本作では共同脚本も兼任)と、シリアスからコメディまで幅広くこなす個性派ジョン・C・ライリーが、ケンカに明け暮れるブサイク義兄弟を熱演する。ヒットメイカーのジャド・アパトウが製作を手がけ、『タラデガ・ナイト オーバルの狼』のアダム・マッケイが監督・共同脚本を担当。(ソニーピクチャーズ)

『江戸川乱歩の陰獣』(1978)
推理作家の寒川のもとを訪れた美しい人妻・静子。彼女は怪奇作家の大江春泥に脅迫されているといい、寒川に助けを求めるが……。淫靡なムード漂う江戸川乱歩の同名ミステリー小説を、名匠・加藤泰監督が映画化。主演はあおい輝彦、香山美子。(松竹)


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●2009.1.30発売
『新シャーロック・ホームズ/おかしな弟の大冒険』(1975)
英国女王の文書が何者かに盗まれる事件が発生! 名探偵ホームズは海外旅行に出かけており、仕方なく留守を任されていた弟・シガーソンが事件解決に乗り出すが……。メル・ブルックス作品でおなじみ、ジーン・ワイルダーが監督・脚本・主演を務めた「シャーロック・ホームズ」のパロディコメディ。『ヤング・フランケンシュタイン』で共演したマデリーン・カーン、マーティ・フェルドマンらが脇を固める。初ソフト化となる今回のDVDには、広川太一郎の吹き替え音声も収録。(20世紀フォックス)

『大陸横断超特急』(1976)
ジーン・ワイルダー主演のアクションコメディが初DVD化。L.A.からシカゴへ向かう大陸横断特急“シルバーストリーク”に乗り込んだ主人公が、国際的犯罪組織の陰謀に巻き込まれる。共演はジル・クレイバーグ、リチャード・プライヤー。監督は『ある愛の詩』のアーサー・ヒラー。広川太一郎の吹き替え音声も収録。ただしモンダイのある箇所は信号音で消されているとか……なんだそりゃ。(20世紀フォックス)

『爆笑! 世紀のスター誕生』(1977)
1920年代のハリウッドを舞台に、映画スターを夢みてハリウッドにやってきた男の奮闘を描いたドタバタコメディ。ジーン・ワイルダーが製作・監督・脚本・主演を務め、当時一世を風靡した美男スター、ルドルフ・バレンチノと張り合う元ケーキ職人を熱演。共演はキャロル・ケイン、ドム・デルイーズ。初ソフト化。(20世紀フォックス)

『ビッグ・ボス』(1975)
伝説的ギャングスター、アル・カポネの半生を実録タッチで描いたギャング映画。ブルックリンのチンピラ時代からシカゴの暗黒街を牛耳っていくまでを、『ビッグ・バッド・ママ』のスティーヴ・カーヴァー監督が手際よく綴っていく。主演は『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』のベン・ギャザラ。共演はスーザン・ブレイクリー、無名時代のシルヴェスター・スタローンほか。初ソフト化。(20世紀フォックス)

『ブラック・シーザー』(1973)
B級映画大将ラリー・コーエンが製作・監督・脚本を手がけた、ブラックスプロイテーション・フィルムのヒット作が再リリース。犯罪映画の傑作『犯罪王リコ』をべースに、ハーレム街のドンとしてのし上がろうとする黒人ギャングスター・トミーの物語を描く。主演はNFLのスーパースターとして活躍したフレッド・ウィリアムソン。DVDにはラリー・コーエンの音声解説、予告編を収録。(20世紀フォックス)


●2009.1.31発売
『不貞の女』(1968)
フランスの鬼才クロード・シャブロル監督が、当時の妻ステファーヌ・オードラン主演で撮り上げた傑作スリラーの1本。妻の不倫を知った男のとった行動とは……? のちにダイアン・レイン主演で『運命の女』としてリメイクされた。(紀伊國屋書店)


<2009年2月以降リリースの注目タイトル>

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●2009.2.4発売
『残酷復讐拳』(キングレコード)
『仮面復讐拳』(キングレコード)
『空とぶギロチン』(キングレコード)
『続・空とぶギロチン ?戦慄のダブル・ギロチン?』(キングレコード)

●2009.2.6発売
『フロンティア』スペシャル・エディション(角川エンタテインメント)
『無ケーカクの命中男/ノックト・アップ』(ジェネオン)
『寝取られ男のラブ・バカンス』(ジェネオン)

●2009.2.11発売
『ザ・フォール/落下の王国』特別版(ワーナーホームビデオ)
『ザ・フォール/落下の王国』Blu-ray(ワーナーホームビデオ)

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●2009.2.13発売
『赤い影』(ユニバーサル)
『アイドルを探せ』(ユニバーサル)
『その木戸を通って』(ポニーキャニオン)
『エリザベート/ロミー・シュナイダーのプリンセス・シシー』(東宝)
『デビルズ・ビレッジ 魔神のいけにえ』(J.V.D.)

●2009.2.20発売
『アキレスと亀』(BANDAI)

●2009.2.21発売
『ランボー 最後の戦場』コレクターズ・エディション(ポニーキャニオン)

●2009.2.22発売
『女番長ゲリラ』(東映)
『女番長』(東映)
『女番長 感化院脱走』(東映)
『女番長 タイマン勝負』(東映)
『女番長 玉突き遊び』(東映)

●2009.2.25発売
『ぐるりのこと。』(VAP)
『接吻』デラックス版(ジェネオン)
『スモーキング・ハイ』(ソニー・ピクチャーズ)
スネークマンショー「楽しいテレビ」(BMG JAPAN)
『丑三つの村』(松竹)
『凶弾』(松竹)

●2009.2.27発売
『アイズ』(ポニーキャニオン)
『イントゥ・ザ・ワイルド』(ハピネット)
『ニンゲン合格』(角川エンタテインメント)
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(CCRE)
『赤軍 -P.F.L.P. 世界戦争宣言』(CCRE)

●2009.2.28発売
『女鹿』(紀伊國屋書店)
『抵抗 死刑囚は逃げた』(紀伊國屋書店)
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー DVD-BOX3(紀伊國屋書店)

●2009.3.4発売
『モール・フランダース ?偽りと欲望の航海?』(アットエンタテインメント)

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●2009.3.6発売
『北国の帝王』(20世紀フォックス)
『アメリカン・ティーン』(パラマウント)
『高校大パニック』+『1/880000の孤独』(トランスフォーマー)
『突撃!博多愚連隊』(トランスフォーマー)
『狂い咲きサンダーロード』コレクターズ・エディション(トランスフォーマー)
『狂い咲きサンダーロード』スタンダード・エディション(トランスフォーマー)
『シャッフル』(トランスフォーマー)
『アジアの逆襲 REMIX LIVE VERSION』+『THE MASTER OF SHIATSU/指圧王者』(トランスフォーマー)
『水の中の八月』(トランスフォーマー)

●2009.3.11発売
『ヘアピン・サーカス』(キングレコード)
『液体人間オイルマン』(キングレコード)
『蛇姦』(キングレコード)
『蛇王子』(キングレコード)
『実録ブルース・リーの死』(キングレコード)

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●2009.3.12発売
『アイアンマン』デラックス・コレクターズ・エディション(ソニーピクチャーズ)
『アイアンマン』Blu-ray(ソニーピクチャーズ)
『プレステージ(アラン・ドロン主演)』(ユニバーサル)
『アントニー・ジマー』(ユニバーサル)

●2009.3.20発売
『Genius Party Beyond』(東宝)
『Genius Party Beyond』初回限定生産BOX(東宝)

●2009.3.21発売
『おろち』(東映)
『野獣刑事』(東映)

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●2009.3.27発売
『マスターズ・オブ・ホラー/悪夢の狂宴』スペシャル・エディション(BANDAI)
『トラウマ/鮮血の叫び』スペシャル・エディション(BANDAI)
『ゴッド・アーミー/悪の天使』日本公開版&全米公開版(BANDAI)

『シークレット・サンシャイン』(2007)

『シークレット・サンシャイン』
原題:密陽(2007)

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 夫を事故で亡くし、一人息子の命まで立て続けに奪われた悲運な女性・シネ(チョン・ドヨン)。地獄のような苦悶の果て、彼女は宗教に救いを見出だす。神の存在を信じることで、再び生きる希望を取り戻し、大いなる慈愛の心で全てを許せる境地に達したシネ。だが、それも束の間、神はある瞬間から彼女にとって、最も許しがたい敵となった……というコメディ。こんなヘヴィーな内容を、ユーモアに溢れた人情ドラマとして描いてしまうのが、イ・チャンドン監督の恐ろしさだ。

 エイベル・フェラーラなら幻想シーン込みで暑苦しく描きそうな物語を、イ監督はつとめて穏やかに、力まず、淡々と映し出す。決して大袈裟な演出はしない。いくらでもセンセーショナルな問題作にできそうな題材を、小さな町で起きる小さなドラマとして、あくまで小品として撮った。深遠で重厚なテーマに比して、これほど「傑作」とか「問題作」とかいう形容の似合わない映画もないだろう。ただ、どこにでもいる普通のシングルマザーが、4tトラック級の悲劇と苦悩に押し潰され、生きながらえてもがき続ける姿を、優しい陽射しのごとく見守るだけだ。何もしない神のように。

(以下、ややネタバレ)

【“『シークレット・サンシャイン』(2007)”の続きを読む】

『劇場版 空の境界 ―矛盾螺旋―』(2008)

『劇場版 空の境界 ―矛盾螺旋―』(2008)

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 ものすごい傑作。びっくりした。ちょっと胃もたれするくらい面白かった。

 『劇場版 空の境界』は、ゲーム『月姫』シリーズや『Fate/stay night』などのシナリオライターとして知られる奈須きのこの小説をアニメ化した、全7部作のシリーズ。生まれながらに分裂した人格と殺人衝動、そして全てのものに宿る「死の線・死の点」を見ることができる“直死の魔眼”を持つヒロイン・両儀式が、暴走する邪悪な力と戦い続ける姿を、猟奇ミステリやオカルトホラー、青春ドラマなどの要素を交えて描いた作品である。

 アニメーション制作を手がけたのは、TVアニメ『フタコイ オルタナティブ』『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』などで注目されてきたスタジオ、ufotable。長大で複雑怪奇な物語を、独立した7本の劇場作品として制作し、なおかつ原作同様に時系列をシャッフルした順序で連続公開するという意欲的な試みが話題を呼んだ。昨年12月に公開された第一章『俯瞰風景』から始まり、第二章『殺人考察(前)』、第三章『痛覚残留』、第四章『伽藍の洞』、そして本作『矛盾螺旋』と封切られ、12月20日からは第六章『忘却録音』が公開される。最終作は『殺人考察(後)』。タイムラインとしては最も過去にさかのぼる話だった第二章『殺人考察(前)』、その後編である。

 こんな思いきった構成ができるのも、すでに原作小説を読んでいるコアなファンが主なターゲットであり、多少の混乱もアトラクションのひとつとして作られているからだ。ゆえに原作未読者には手が出にくい作品だろうし、ファンでもないのに繋がりがバラバラのアニメを約2年ぐらいかけて観通そうという根気や覚悟を持てる人も少ないだろう。僕も最近になって仕事絡みで5本いっぺんに観なければ、正直しばらくノータッチだったと思う。そして『矛盾螺旋』を観て、愕然とした。こんな傑作を見逃すところだったのか、と。

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 第五章『矛盾螺旋』は、それまでの1時間枠で作られた中編4本と違い、初の2時間近い長編作品である。映画としての見応えも、演出的な面白さも、格段にアップしている。開巻から数分も経たないうちに、作り手の「映画にしてやる!」という意欲も気迫もケタ違いであることがハッキリと分かるのである。監督・絵コンテを手がけたのは、『まなびストレート!』でテクニカルディレクターを務めた平尾隆之。

 物語はタイトルが示すとおり、複雑にねじくれている。主人公は、両親を殺して逃げている少年・臙条巴。彼はある夜、不良たちに絡まれているところを両儀式に救われ、しばらく彼女の家に身を寄せることに。だが、親殺しを報じるニュースや警察からの追手はなく、いつまで経っても何の音沙汰もない。ただ不安な日々を悶々と過ごしていた巴は決心を固め、式とともに両親の死骸が待つ自宅マンションへと向かう。その時、式はその建物が発する異様な気配を察知した……。そこからさらに、死を蒐集する魔術師・荒耶宗蓮の野望、式の雇い主である人形師・蒼崎橙子の過去、奇怪な構造を持つマンションに隠された秘密などが、異なる視点から描かれていく。やがてそれらの断片が、ひとつの悲しく残酷な真実と、凄絶な対決のクライマックスへと収斂される。

 これが初の劇場長編となる平尾監督は、カット単位でめまぐるしく時制が入り乱れるトリッキーな演出を全編に駆使し、なおかつ映画の途中で物語の視点が劇的に変わるという凝った構成をとっている。冒頭から終盤に至るまで、暴力的なまでに行きつ戻りつをたたみかけ、現実認識を揺さぶるパワフルな演出は、いつまでも夢から覚めない男の悪夢をスピーディーに描いたフランスの傑作短編『朝の日課』(2005)を思い出させた。その手法が、単に奇をてらったテクニック自慢ではなく、ストーリーやテーマに密接に関わる重要な演出であるところが素晴らしい。しかもカッティングのセンスが抜群にいいので、最初は意味が分からなくても映像のドライブ感だけでグイグイ引き込まれていくのだ。

 こまやかな映像トリックの積み重ねが大きなうねりを生み、物語のテーマや仕掛けられた謎を徐々に明らかにしていく、そのダイナミズムはまさしく映画の醍醐味。なおかつ、そのエキセントリックな語り口がエモーショナルな高揚へと導かれていくプロセスも巧みだ。家族の温もりを求めながら悲劇的な運命をたどる少年・巴の、痛切な孤独にひしと寄り添った演出家の視点が胸を打つ。ストーリー上の細かい不自然さも感じられなくはないが、濃密なドラマの昂りがそれらを補って余りある。

 アニメならではの映像的快感、超現実的なアクションのもたらすカタルシスにも溢れている。冒頭の式と巴の出会いに絡めたチンピラたちとの格闘シーンの呼吸、マンションの廊下で式が集団相手に繰り広げる『オールド・ボーイ』(2003)ばりの長回しアクション、終盤のエモーショナルなクライマックスなど、いいところを挙げるとキリがない。何よりヒロインが本当にカッコよく描けている時点で合格だ。

 先に「アニメならではの」と書いたが、一方でアニメーションとしてはかなり意欲的な(つまり普通の演出なら避けて通るような)アングルや芝居も多い。殺人現場の一部始終を引きのワンシーン・ワンカットで延々見せきるという黒沢清ライクな演出を、わざわざ手描きのアニメで表現してしまうケレン味と粘り強さには、半ば呆れつつ胸打たれてしまった。原画マンは死ぬ思いだったろうけど。

 おそろしいほどスピーディーに展開する部分もありつつ、動きのないワンカットを一枚画のレイアウトや美術的な面白さだけで、長々と見せきってしまう骨太さもある。強烈なスプラッターシーンやバイオレンスも、逃げずに堂々と描ききる(苦手な方はご用心)。観客を置いてけぼりにしかねないアクロバティックな編集も、ある種の度胸と野心あってこその試みだろう。それも含めて「才気」だと思う。粗さもあるが、『矛盾螺旋』には間違いなく作家の若々しく過剰な才気が奔っているのだ。今年公開された巨匠たちの大作を軽く蹴散らす、映画的興奮が。

 もちろん、これ1本だけ観ても一目瞭然の傑作なのだけれど、できれば前4作をクリアしたあとで本作を観てほしい。正直、全てが傑作というわけではないし、原作ファンではない人が観ると抵抗感を覚える部分も多々あるだろう(それだけ原作を大切にして作られているということでもある)。しかし、物語の基本設定や、独特のストーリーテリング、複雑怪奇なドラマを背負ったキャラクターたちに慣れ親しんでから観れば、よりいっそう楽しめるはずだし、何より『矛盾螺旋』開巻直後から襲いかかる「えっ、今までと全然違うじゃん!」という強烈なカタルシスの波は、前4作を観ていないと絶対に味わえない感覚だ。この快感は何物にも代えがたい。

 誤解のないように書くと、他の作品もそれぞれにクオリティは高く、見どころはある。個人的には、第四章『伽藍の洞』のシンプルな作りはとても好ましかったし、第一章『俯瞰風景』は背景美術の見応えが凄まじい。面倒かもしれないが、レンタルなどで4本消化してから本作を観てもらえば、最高に楽しい2時間が待っていると約束できる。

 とにかく、こんな傑作はもっと多くの映画ファンの目に触れられて然るべきだ。公開時はデジタル素材上映だったらしいが、これはぜひフィルムで観てみたいと思った。

・Amazon.co.jp
DVD『劇場版 空の境界 ─矛盾螺旋─』【通常版】
DVD『劇場版 空の境界 ─矛盾螺旋─』【完全生産限定版】
本「劇場版 空の境界 第五章『矛盾螺旋』画コンテ集」

(参考リンク)

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『聖女はロック・シンガー』(1989)

『聖女はロック・シンガー』
原題:Glory! Glory!(1989)

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 リンゼイ・アンダーソン監督が晩年にアメリカで撮り上げたTVムービー(製作はイギリス)。ショービジネス化した現代の宗教を痛烈に皮肉ったブラックコメディで、アンダーソンへのトリビュートフィルム『Never Apologize』(2007)でも取り上げられていない、いわば幻の作品だ。元々はミニシリーズだったのか、2時間半を越える長尺だが、観ている間ほとんど時間を感じさせないくらい、ムチャクチャ面白かった。

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〈おはなし〉
 CCCことコンパニオン・オブ・クライスト教会は、主宰者のスタッキー牧師による熱烈な説教で人気を集めるマンモス教団。だが、ある日スタッキー師は脳卒中で倒れ再起不能に。新たに息子のボビー・ジョー(リチャード・トーマス)が跡を継ぐが、あまりにクソ真面目な説教のおかげで、信者の支持も寄付金の額も激減。このままでは教団が潰れてしまう! 答えを求めて夜の町をさまようボビー・ジョーは、たまたま入った酒場でロック歌手のルース(エレン・グリーン)と出会い、そのパフォーマンスに釘付けになる。聴衆を引き付け、熱狂させるパワフルな魅力、これだ!

 ボビー・ジョーは渋るルースを口説き落とし、教団のテレビ番組に出てもらうことに。たちまちカリスマ的な人気を獲得していくルース。教団の経営を長年支えてきたレスター(ジェームズ・ホイットモア)は思わぬ救世主の登場に大喜び。彼の采配で、ルースはライブやPVのみならず、信者に癒しの奇跡を施すヒーリングショーにまで才能を発揮し、ついに全国放送のトーク番組にまで招かれる。だが、これまで麻薬・姦淫・堕胎と数々の罪を重ねてきた彼女は、なぜ自分が“神の御使い”に選ばれたのか迷い始めていた……。

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 アメリカのいわゆる“バイブルベルト”で繰り広げられる宗教ビジネスの狂騒を、英国人リンゼイ・アンダーソンは毒気たっぷりに見つめ、徹底的にこきおろす。熱心な信者が見たら激怒しそうなバカ騒ぎをラジカルに描きながら、その描写はどこかユーモラスで愛がある。神の使徒の名をかたる人々が、欺滿に満ちた俗物であればあるほど、アンダーソンの人間愛はより深まっていくのだ。自分の信義を裏切り、あらゆるものに嘘をつき、利益を求めて突っ走る人々を映し出す時の、水を得た魚のごとく活き活きとした演出ときたらどうだろう。やがて標的は気まぐれで利己主義的なメディアへと移行し、その下劣さを暴いていく。

 宗教と資本主義、神と人間の距離というテーマを中心に据えた長大なサタイアを、アンダーソンは『オー・ラッキーマン!』(1973)にも通じるファンタジックで寓話的な展開も織り込みながら、いたって軽妙なタッチで語りきる。その手腕が実に見事だ。優れた現代アメリカ論・宗教論でありつつ、コメディ映画としてもムチャクチャおかしい。音楽のクオリティも高く、ヒロインが歌うナンバーはCD化してもいいくらいだし、劇中で流れるPVなんて安っぽさも含めて本当に80年代にMTVで流れていそうな絶妙な出来(さすが、ワム!のコンサートフィルムを撮ったこともあるアンダーソン監督)。やっぱりここまで本気でやってこそサタイアは本物の命を得るのだ、と思った。

 ただ、本作で描かれた「ロックンロールで宗教ビジネス!?」というプロットに関しては、現在のアメリカでは当たり前のことになってしまって、特にツイストにも風刺にもなっていない。敬虔なクリスチャンのロックバンドやパンクバンドなどはざらにいて、果てはギャングスタラッパーまでいる始末(そのあたりのことは町山智浩さんの著書「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」に詳しい)。だから別の言い方をすれば、本作は「時代を先取りしていた」とも言える。さすがに教団側が歌手にコカインを渡したり、堕胎の手配をしたりするところまでは現実化していない……と思うが。

 なんといっても本作の目玉は、主演のエレン・グリーン。まさに神がかり的な迫力でカリスマ性に溢れたアバズレ女・ルースを熱演し、リアルに観る者のハートを「もっていく」のである。酒焼けしたようなハスキーボイス、本物のロック歌手といっても通用する確かな歌唱力、四文字言葉を連発する下品でパワフルな台詞回し、全てが圧倒的だ。この人どこかで見たような……と思ったら『レオン』(1994)の序盤でいきなりゲイリー・オールドマンに撃ち殺されるアバズレ母ちゃん役の人だった。というか、ミュージカルリメイク版『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(1986)のセクシーで薄幸なヒロイン、オードリーじゃないか! 不覚!! 慌てて『リトルショップ?』を見直したが、あちらでは完全に声をハイキーに作っているので、『聖女はロック・シンガー』の方が素に近い彼女の実力が出ていると思う。実際、ブロードウェイなどで活躍するミュージカル女優であるらしく、舞台版『リトルショップ?』の初演やミュージカル版『ヤング・フランケンシュタイン』にも出演しているとか。

 そして、教団運営を陰で支えるレスター役のジェームズ・ホイットモアが、あまりに素晴らしすぎる。組織の維持と金儲けと保身のためならどんな汚い手でも使う老法律家を、ちょっと怖くなるぐらいコミカルに、可愛らしく、嬉々として怪演しているのだ。クスリの世話に堕胎の手配、盗聴・恐喝・横領と次々に罪を重ねながら、罪悪感をまるで抱かないキャラクターがいっそ清々しい。近年ではフランク・ダラボン監督の『ショーシャンクの空に』(1994)などで味のある老優ぶりを見せていたが、こんなに楽しい芝居をする人だとは知らなかった。

 この2人に挟まれて、今にも消え入りそうな存在感でつまらない主人公ボビー・ジョーを演じているのが、リチャード・トーマス。『宇宙の七人』(1981)や『IT/イット』(1990)に主演していたと聞いても「え、誰?」と思ってしまうような影の薄さが、本作ではとても効果的に活かされている。終盤では本当に出番が激減するのだが、きっちりクライマックスはもっていくのが素晴らしい。

 後半、ヒロインが中年の魅力ぷんぷんのTVジャーナリストと恋に落ちるくだりになると、それまでの勢いが失速してしまう感はある。が、ドラマ的にはクライマックスに繋がる重要な部分なので、最終的には気にならない。アンダーソンの風刺精神が炸裂したアイロニカルな大団円が強烈だ(ある意味ベタとも言えるくらい、誰が見ても額面どおりに受け取れないようになっている)。アンダーソン作品のファンなら思わず『オー・ラッキーマン!』のラストを思い出すだろう。

 僕の好きな英国人監督マイク・ホッジスも、やはり80年代にアメリカのバイブルベルトを舞台にした作品をいくつか撮っている。人気ラジオ伝道師の血塗られた過去を描くTVムービー『新ヒッチハイカー/トーク・レディオ』(1985)と、霊媒ショーを行う孤独な美女が企業の陰謀に巻き込まれていく傑作『ブラック・レインボウ』(1989)だ。どちらも宗教ビジネスと「本物と偽物」が重要なモチーフとなっている。生まれも作家性も違う2人だが、本作を観た後ではどこか共通点を感じずにいられなかった。

 「映画はエピックでなければならない」というアンダーソンの信条にもとづき、この映画もまた、ある組織とそれに翻弄される個人の興亡史(?)をたゆたう流れのように描いた、見応えある傑作になっている。日本ではRCAコロンビアからビデオが出たきりで、もちろん現在は廃盤。英米でもDVD化されておらず、VHSテープがプレミア価格で取引されている。できるだけ多くの人の目に触れてほしい秀作だけに、残念な状況だ(とりあえず渋谷のTSUTAYAにはレンタルVHSが置いてある)。

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『WALL・E/ウォーリー』(2008)

『WALL・E/ウォーリー』
原題:WALL・E(2008)

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 信頼のブランド、ピクサーによる最新作は、やはり掛け値なしの傑作だった。こんなにもシンプルでありながら、寓意に富み、全方位的なエンタテインメントとしてもよく出来ているとなると、もう文句のつけようがない。まあ、途中で一瞬「それはムキミで宇宙空間に出しちゃダメ!」と突っ込みたくなる場面もあるけど、そういう些末な欠点が映画の完成度にほとんど影響しないのが凄い。当然のことながら泣いた(前半のサッチモでまず決壊、終盤ダダモレ)。

 映像全体の質感は、実写と見紛うような緻密さと、アニメらしい記号的なシンプリシティを行ったり来たりする印象で、なかなか新鮮。特にミニチュアワークのようにしか見えない都市の廃墟や、ガレージの小物類のチェコアニメみたいな質感には驚いた。こういう新しいビジュアルを毎回見せてくれるのが、ピクサーのエラいところだ。

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 驚いたのは、かなり直球のラブストーリーだったこと。そして相変わらずヒロインの描き方がうまい。『カーズ』(2006)では推定30代の自立したキャリアウーマン、前作『レミーのおいしいレストラン』(2007)では勝気なツンデレ娘、そして今回に至っては……なんでこう毎回オタクのツボをうまいことグイグイ押してくるのか。恥も外聞もなく言わせてもらうと、もうホントやんなっちゃうぐらい可愛い。劇場で身悶えする一部観客層の姿が目に浮かぶようである。

 ウォーリーとイヴとの間に情熱的な恋が盛り上がっていくプロセスの描写は、心憎いまでにうまい。だが、それと平行して、彼らの影響で始まったもうひとつの恋を映し、数百年を経て再び人間が人間らしさを取り戻していく過程を同時に描くというシナリオの構造は、もっとうまい。しかも、それを本当にさりげなく、最低限の描写でやるのだ。心の底から「うめえなー」と感嘆し、打ちのめされた。

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 未来SFの基本的使命のひとつである「現代社会への警鐘」を、監督のアンドリュー・スタントンは声高に叫ぶでもなく、グロテスクなビジュアルで提示するでもなく、ユーモラスな風刺画としてさらりと見せる。そこが素晴らしい。ゴミの山と化した29世紀の地球を映し出す前半も、最新鋭の宇宙船で暮らし続けてすっかり退化した人類が登場する後半も、問題意識や危機感をことさら押し付けたりせず、実に軽妙なタッチで「なんとかしないとこうなっちゃうぜ」と教えてくれる。明るく朗らかな皮肉と諦観に満ちたデストピア造形というのは、描写的にもセンス的にも、マイク・ジャッジ監督の秀作『26世紀青年』(2006)と共通するものを感じた。

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 この映画には台詞がほとんどない。金属製のロボットたちが見せる動作やまなざし、そして二言三言のごく限られた台詞のニュアンスで全てを伝える。こういう映画を観ることは、観客にとってもすごく健全なことだと思うのだ。頭の体操ではないけれど、シンプリシティとは「簡単」と同義語ではない。観客のイマジネーションを刺激し、伸ばす役割もある。この映画の美徳は「分かりやすさ」ではなく、その簡潔な表現にこめられた多くの意味を、観客が自然と考えることができるからこそ優れているのだ。作品の内容自体、人間の感性の退化に警鐘を鳴らすものでもある。そういうところも、いちいちよく出来ているなあ、と思った。

 アニメーションとしての出来栄えは言うまでもなく素晴らしい。無機物の表現に長けたCG技術を存分に活かして作り出された、主人公ウォーリーの豊かな“表情”は言わずもがな。切なくキュートな眼差しには、思わず『ザ・フライ』(1986)に出てくるブランドル・フライを重ね合わせてしまう(もちろん最大限にいい意味で)。むしろ、その“表情”が失われる瞬間の描写の巧さに息をのんだ。ベン・バートによる音響デザインも、魅力的なキャラクター作りに大いに貢献している。対するイヴもまた、クリオネを思わせるシンプルなデザインのボディ(Mac風)で縦横無尽に飛び回る姿が美しく、後半のアクションをほとんど担う予想外の活躍ぶりが楽しい。そこに「目」というマンガ的な感情表現を与え、むしろウォーリーよりも喜怒哀楽がダイレクトに伝わるキャラクターにしたバランスにも感心させられた。声もシンセサイザーで加工された音なのだけど、ムチャクチャ人間的で愛らしい。さすがベン・バート。他のキャラクターたちもいちいち魅力的で、個人的にはパンチドランク・ロボ(?)が好きだった。

 声優はあまり登場しないが、印象が薄いわけではない。人間側代表といえる艦長役ジェフ・ガーリンの熱演は後半のキモだし、ピクサー作品の常連声優ジョン・ラッツェンバーガー、そしてマイク・ジャッジの代表作『キング・オブ・ザ・ヒル』でおなじみのキャシー・ナジミーも、抑えた演技がとても効果的だ。『Futurama』第4シリーズに特別出演したシガーニー・ウィーヴァーを、ほとんど似たような役で起用するあたりも洒落が利いている。

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 もうひとつ特筆すべきは、トーマス・ニューマンの音楽。キャラクターの感情・心情の大部分を台詞以外の要素で表現しなければならない本作において、エモーショナルかつ柔軟な広がりを持つオーケストラ・スコアで見事にドラマを補完しきったニューマンの仕事は、ジマー&ニュートン=ハワードの『ダークナイト』(2008)と並んで今年最高レベルだと思う。いつもはテーマ曲のアレンジを反復して印象を作っていくミニマリストというイメージがあり、正直、観る前は不安要素のひとつだったくらい。もちろん、その持ち味も随所に出ているけど、こんなにも音楽的な広がりを見せてくれるとは思わなかった。一瞬、ジョン・ウィリアムズかと思うような瞬間もあって、本当に嬉しい驚きだった。

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『Futurama:Bender's Game』(2008)

『Futurama:Bender's Game』(2008)

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 31世紀の未来を舞台にしたSFコメディアニメ『Futurama』の長編OVAシリーズ第3弾。突然のTVシリーズ打ち切りから数年を経て、ファンの熱い要望に応えて再開された長編4部作も、ついに後半戦に突入。今回は世界最初のRPGであり、現在も数多くのファンを持つ卓上アドベンチャーゲームの古典『Dungeons and Dragons(以下、D&D)』にオマージュを捧げた内容で、主人公フライを始めおなじみの面々がファンタジー世界にトリップしてしまう。もちろん『Futurama』らしい本格SFのテイストも加味されたトリッキーなプロットが楽しい一編だ。タイトルはネビュラ賞・ヒューゴー賞をダブル受賞したオースン・スコット・カードのSF小説『エンダーのゲーム』のもじり。

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〈おはなし〉
 31世紀になってもポピュラーなゲーム『D&D』。夢中になって遊ぶ子供たちから「想像力がない」とバカにされたベンダーは、仲間に入れてもらってすっかり『D&D』にハマってしまう。しかし、初めてイマジネーションを酷使したせいでファンタジーと現実の区別がつかなくなり、普段に増して異常な言動を繰り返すように。ついには精神病院に送られてしまった……。

 一方、高純度燃料ダークマター(宇宙人ニブロニアンのフン)の価格が高騰し、プラネット・エクスプレス社は火の車状態。市場は実業家ママの率いる「マムビル(Mombil)」に牛耳られていた。実は、最初にダークマターからパワー増幅源となるクリスタルを生成し、その威力を引き出したのはPE社の社長であるファーンズワース教授だったのだ。同時に、その力を無効化するアンチクリスタルも生まれていたのだが、今では子供たちが『D&D』のサイコロとして使っていた。

 色々あってアンチクリスタルを見つけた教授たちは、ママの横暴を食い止めるべく、アラスカのダークマター生産工場に乗り込む。様々な妨害をくぐり抜け、厳重に管理されたクリスタルとアンチクリスタルを近付けた時、病院でロボトミー手術を受けていたベンダーが感応(腹にダークマターを溜め込んでいたのだ)。世界に亀裂が入り、気が付くとその場にいた全員がファンタジーゲームの世界にトリップしていた!

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 個人的にゲームは全くやらないので、予告編を観た時には正直「ノらないなあ……」と思っていたのだけど、予想以上に面白かった。この話とあの話がどう繋がってその展開になるんだ? という捻り方では、前作『Futurama:The Beast with A Billion Backs』(2008)よりも驚きがあり、流れもスムースだった気がする。今回はパートごとにシナリオライターを完全に分けているらしく、それが功を奏したのか(長編シリーズはのちに4エピソードに分けてTV放映することを念頭において作られている)。後半のファンタジーパートに入るまで時間をかけすぎている感はあるが、それだけに説得力が増し、ゲームに興味のない人にも楽しめる内容になっているのがいい。アニメーションとしても長編ならではの見応えがあり、特に3Dと2Dの巧みなミックスで描かれたアラスカでのアクションシーンは一見の価値あり。

 荒っぽい行動のせいで暴力衝動を抑えるため電撃首輪をされてしまうリーラ、ゲーム脳になってしまい現実を見失うベンダーの混乱を描くサイドストーリーでは、メンタル面でブレーキの利かない現代社会への風刺も匂わせる。相性の悪いリーラとゾイドバーグ、ファーンズワース教授とイグナー(ママのバカ息子たちの末弟)という、これまであまり絡まなかったキャラ同士の組み合わせでドラマが紡がれるのも、新鮮で魅力的。シリーズも結構な年月で続いているのに、ゾイドバーグの傍若無人なのにキュートなキャラが新作ごとにどんどん輝きを増していくのは何故?(笑) ジョン・ディマジオが演じる気弱な末っ子イグナーは、今まで影は薄いながらも何気にいい味を出していたので、今回やっとドラマが与えられたのが個人的には嬉しかった。

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 後半の見どころはやはり、ファンタジー世界の住人になったキャラクターたちの変身ぶり。ベンダーは中世の騎士に、リーラとハーミーズはケンタウロスに、ファーンズワース教授は魔法使いに、ゾイドバーグは巨大ロブスターのような怪物に、エイミーはセイレーンになってしまう。当然、本格的ファンタジーへのオマージュということで『ロード・オブ・ザ・リング』のパロディも満載。特にアンチクリスタルの魔力に魅入られ、ゴクリ化するフライが最高(笑)。ファンタジーが暴力と欲望に満ちたハードな世界であることもきっちり描かれている。やりすぎなくらいのバイオレンス描写がなかなか強烈だ(ちゃんと物語としての意味もある)。

 小ネタも随所にちりばめられ、マニアックなところではドキュメンタリー映画『悪魔とダニエル・ジョンストン』(2006)でも知られるテキサス在住のミュージシャン、ダニエル・ジョンストンの「Rocket Ship」がカバー・ヴァージョンで唐突にフィーチャーされたりする。オープニングの『ザ・ビートルズ/イエロー・サブマリン』(1968)へのオマージュも素晴らしい出来で、似たようなことをしていた『ウォーク・ハード/ロックへの階段』(2007)なんかとはパロディの質も完成度も大違い(こっちはプロの作品だから当たり前なんだけど)。地下に住むリーラの両親、狂人ロボットのロベルト、ロボット界のスター・カルキュロンなど、ファンにはおなじみのサブキャラクターたちの登場も楽しい。

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 何より、クリエイター陣の『D&D』に対する愛情がひしひしと伝わってくるのが微笑ましい。ちょっと衒いがなさ過ぎて鬱陶しいくらいだが、オタクなのでしょうがない。今回の『Bender’s Game』自体、2008年3月に逝去した『D&D』の作者の一人、ゲイリー・ガイギャックスに捧げられている。彼は『Futurama』第2シリーズのハロウィン・エピソード「Anthology of Interest I」に本人役でカメオ出演したこともある。DVDのオーディオコメンタリーでは、『D&D』プレイヤーの製作総指揮デイヴィッド・コーエン、ベンダー役の声優ジョン・ディマジオらが、他のメンバーそっちのけでゲーム談議に花を咲かせる一幕も。

 2009年2月リリース予定の第4弾『Futurama:Into the Wild Green Yonder』をもって、『Futurama』長編シリーズもひとまず終了。今回は登場しなかったザップ・ブラナガン艦長やキフも顔を揃えるオールスター総進撃な内容になりそうなので、終わってしまう寂しさはありつつも、発売が待ち遠しい。

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『グーグーだって猫である』(2008)

『グーグーだって猫である』(2008)

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 原作ファンでこの映画を観て喜ぶ人は、あまりいないんじゃないだろうか。『デトロイト・メタル・シティ』(2008)のように原作を読んでいない観客にも広くアピールする作品を目指したようにも見えるが、監督・脚本を務めた犬童一心は、原作者の大島弓子への過剰な思い入れと自主映画まがいのファンシーな演出をフィルムにぶちまけ、シンプルな生活エッセイを余計なオリジナル脚色でゴテゴテと厚塗りし、散漫でこっぱずかしい人情喜劇にしてしまった。この映画を観て喜ぶ人がいるとすれば、誰よりもまず犬童監督自身で、次に監督のファン、小泉今日子ファンと、上野樹里ファンだけだろう。

 原作の『グーグーだって猫である』は、マンガ家・大島弓子と飼い猫たちの生活を綴るエッセイマンガだ。絵本のように簡潔なスタイルの絵によって、淡々とシンプルに、瓢々とユーモラスに、何もなさげでいろんなことが起きる小さなドラマが紡がれていく。いい意味でさばさばした語り口が小気味良く、飾らない率直さは「少女マンガの巨匠」らしからぬ親しみを感じさせてくれる。そして、なにげない日々の生活のヒトコマも、癌を患った作者の闘病記も、等しく冷静かつ穏やかな筆致で描かれる。全ては日常である、というように。

 時に読者の胸を深々とえぐり、痛ましい心の闇や残酷な真実に辿り着きながら、最後には一筋の光明が投げかけられる。当たり前の感情表現を突き抜けたエモーションへと読者を導く物語を、大島弓子はシンプルに、軽やかに、優しいユーモアをこめて描いてきた。それは感情のままに展開を走らせず、抑制を保ちながら巧みに感動へ導くということだ。そのスタンスは自身の生活記録マンガでも変わらない。僕は『毎日が夏休み』や『ダイエット』からのファンだけど、やっぱり最初に惹かれたのは、ストーリーの深さはもちろん、その絵柄と語り口のシンプリシティ、そして軽やかな抑制のセンスにあった気がする。それは少女マンガを見慣れない中学生男子にもスッと馴染んだ。

 恥ずかしさに身悶えしつつ映画版『グーグー』を観ながら、長年の大島弓子ファンとして知られている犬童監督と、自分の抱く大島さんへの思い入れに、ものすごい落差があることを改めて思い知った。80年代に入ってから大島作品の絵柄は劇的に変わり、ストーリーや感情表現とも併せて、よりシンプルでクールなかたちに削ぎ落とされていった。風通しのいい世界、とでもいうか。僕が主に好きになったのはそのあたりの作品群で、犬童監督はきっと『綿の国星』とか『四月怪談』とか、70年代の作品に影響を受けているのだろう(それらもまた名作であることに異存はない)。そして『グーグー』は、さらにまた新しい大島弓子の誕生とも言える、もっと肩の力を抜いて、より日常の地平に近付いた作品だった。しかし、犬童監督は今回の映画で、大島弓子への愛や憧れをぶつけるのに一所懸命になって、原作のよさを完全に見誤ってしまった感がある。

 小泉今日子が演じるマンガ家・小島麻子は、いつまでも美しく、シャイでナイーヴで浮世離れしていて、慈愛と優しさに溢れた癒し系の女性として描かれる。どうも、美化されすぎている気がしてならない。少なくとも僕の思う大島弓子像とは一致しない。ともあれ、シナリオの要求に応えるという意味では、小泉今日子も上野樹里も完璧である。森三中も悪くない。だが、時代錯誤な変わり者の青年に扮する加瀬亮のおかしな演技、『檸檬のころ』(2007)からひとつも進歩していない林直次郎の大根芝居はいただけない。

 演出家としては精神年齢までタイムスリップしてしまったらしく、80年代前半の学生映画のようなスラップスティック・ギャグを大っぴらに展開させてしまう。今時そんなことをやっていいのは大林宣彦だけだし、それを映画表現として成立させられる怪力の持ち主も大林宣彦だけだ。上野樹里が赤面必至の大演説を繰り広げるシーンは、いくら眠くても目が覚めるだろう。こんなの大島弓子作品じゃないやい、と言いたくなる。大島さんが前に飼っていた猫のサバも、マンガと同じく擬人化されて登場するのだが、なんでそれがミンストレルなのか?(常に顔が影で覆われているという設定なのだが、撮り方がうまくないのでアル・ジョルスンにしか見えない)。僕、サバの出てくる生活マンガ、大好きなのに……。

 そんな一方的なテンションとスクリューボール的演出で語られる大島弓子愛を、黙って見せられるこちらとしては、ただ所在なく、眉間にシワを寄せ続けるしかなかった。まあ、大島さんの名前を外して観れば、多彩なキャストの顔ぶれと吉祥寺の名所案内を眺めているだけで飽きない映画ではある。猫も可愛いし。

 だけど、これはリスペクトではない。原作を私物化したラブレターだ。正直「この監督、本当に大島弓子のファンなんだろうか?」と思わずにいられなかった。

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原作本『グーグーだって猫である』 by 大島弓子

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『フロンティア』(2007)

『フロンティア』
原題:Frontiere(s)(2007)

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 真っ赤。久々にとことんブルータルで、徹底的にしつこいスプラッター描写を観せてもらったなあ、という清々しい感動を覚えた。いかにもリュック・ベッソンのプロデュース作らしく、お話や設定に関しては「?」マークが脳裏に絶えず点滅してしまうような内容ではあるけど、それでも刺激に飢えたホラー映画ファンはまず必見の快作といっていい。どこがいいのかと訊かれたら「真っ赤なところ!」と元気に答えたくなってしまう映画だった。

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 何度も言うがストーリー面で期待してはいけない。面倒事を起こして都会から脱出し、国外逃亡を図る移民系の若者グループが、立ち寄ったド田舎の宿屋でキチガイ食人一家に襲われるという、ただそれだけの物語だ。導入部は『憎しみ』(1995)を思わせる暴動シーンから始まり、右傾化していくフランス社会の終末的ビジョンが厭世感たっぷりに描かれるので、「おお、スプラッターホラーに社会派テーマを盛り込むなんて、なかなか意欲的じゃないすか」と思って期待すると、後半しれっとスルーされる。その後にも面白そうな趣向や設定は次々と出てくるのだが、どれも出オチみたいなもので、それらが巧みに結び付いて鮮烈なテーマを浮かび上がらせたりはしない。ただ「これとこれを組み合わせたら、なんとなく意味ありげで面白そうだから」という気分だけ。もっと言うと「敵が元ナチスで人食いだったら最強じゃね?」ぐらいの浅はかさで、思いつきっぱなしのまま突っ走るシナリオなのだ。

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 監督・脚本を手がけたのは新鋭ザヴィエ・ジャン。とりあえず論理的にホンを組み立てる能力に乏しいことは分かった。しかし、演出面ではそんなチョンボを補って余りある力量を発揮している。主人公たちが極限状況に追い込まれていく緊迫感の凄まじさ、仮借なきバイオレンス描写のつるべ打ちには、観客をねじふせてしまうだけの馬鹿力がある。人食い一家に捕まったヒロインが、豚小屋の泥と糞にまみれながら脱出を図るシーンを筆頭に、徹底的に女優をいたぶることでただならぬ切迫感を生んでいる。ダリオ・アルジェント伝来の「美女いじめ」の伝統を本作では今時珍しいほど実直に、エクストリームに踏襲しているのだ。加虐描写もいちいち痛く、なおかつバラエティに富んでいる。それだけにヒロインが凄絶な反撃を開始する終盤のカタルシスは素晴らしい。盛大な血飛沫・銃弾・爆炎の祭典と化すクライマックスに至ると、もはや話がアレなことなんてすっかり忘れて画面に没頭してしまう。『MINDGAME』ではないが、頭の中に浮かぶのは「楽しい!」の一言。ハードコアなスプラッターホラーを観に来て、まさかアンディ・シダリス映画のような展開に出会えるとは! という驚きも手伝って、なんとも愉快な気持ちにさせてくれる。

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 とにかく全編ヒドイ目にしか遭わないヒロインを熱演するのは、カリーナ・テスタ。過酷で悲惨な状況に追い込まれるほどに、映画前半の地味な印象からは打って変わって、メキメキと美しく魅力的に変化していくのが面白い。終盤でついにキチガイ一家を向こうに回し、全身に真っ赤な血を浴びて奮戦する彼女の姿には、不思議な神々しさまで宿る。『悪魔のいけにえ』(1974)のマリリン・バーンズにも匹敵する迫真の演技と言ったら大袈裟だろうか。対するフロンティアーズ御一同の面構えもいちいち素晴らしく、特に親父役のジャン=ピエール・ジョリスは、登場した瞬間から強烈な悪の存在感を漲らせていて圧巻。スキンヘッドの筋肉バカ息子に扮するのが、『ジェヴォーダンの獣』(2001)でイケメン主人公を演じていたサミュエル・ル・ビアンであるというのにも驚く。もう後戻り不能かと思うくらいの変貌ぶりだが、新作『パブリック・エナミー・ナンバー1』(2008)では元の優男に戻っていた。タイプの違う3姉妹を演じる女優たちも、それぞれ魅力的に病んでいる。

 個人的には、同じく田舎を舞台にしたスラッシャーであり、フランスでのホラー映画ブームの火付け役になった『ハイテンション』(2003)なんかよりずっと好印象だった。両作ともヨーロッパコープ製作で、話が破綻しているという点でも共通しているが、「ホンには穴を作っとけ!」みたいな社訓でもあるんだろうか? ともあれ、最後にいらんツイストでガッカリさせる『ハイテンション』より、ダメな部分は多いものの、中盤以降の真っ向スプラッター勝負でガンガン失点を取り返してくる『フロンティア』の方が、観終わった後の充足度は高かった。都内の劇場公開は終わってしまったが、なるべくなら映画館で、シネマスコープの大画面と5.1chサラウンドの大音響で楽しんでほしい作品だ。

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 フランスの田舎は怖い。本作を観ながら思い出したのは、ジャン・ヴォートランの小説を映画化した『狼獣たちの熱い日』(1983)。そこでも、片田舎に暮らす変態一家の狂った人間模様が、彼らに捕われた異分子=リー・マーヴィン扮する老ギャングの目を通して、この世の地獄のごとく描かれていた。A・D・Gの『病める巨犬たちの夜』など、ノワール小説でもしばしば扱われてきた未開の領域を、ザヴィエ・ジャン監督はついに完全なるバイオレンス・ホラーの舞台にしてしまった。「フランスにもテキサスと同じ悪夢がある」と。

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DVD『フロンティア』スペシャル・エディション

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