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Simply Dead

映画の感想文。

『インディアン狩り』(1967)

『インディアン狩り』
原題:The Scalphunters(1967)

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 先日亡くなったシドニー・ポラック監督の初期作。おかしな成り行きで行動を共にすることになった白人と黒人がいがみ合いながらも友情を築いていく姿を、コミカルな味付けで描いたアクション西部劇。人種差別撤廃を求める運動が米国各地で活発化していた当時の世相を反映した、社会派テーマの作品でもある。

 原作・脚本は『マッケンジー脱出作戦』(1970)や『ビッグ・バッド・ママ』(1974)のシナリオを手がけたウィリアム・ノートン。佳作だが、ポラックの軽快で手堅い演出で最後まで飽きさせない。冒頭のスマートな物語への導入は特に見事だ。

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〈おはなし〉
 一匹狼の狩人ジョー・バス(バート・ランカスター)は、冬の間に苦労して獲った毛皮を知り合いのインディアンたちにカツアゲされてしまい、代わりに元奴隷のインテリ黒人青年ジョゼフ・リー(オシー・デイヴィス)を押し付けられる。ジョーは毛皮を取り返そうと、ジョゼフを連れて追跡を開始。ところがそこに悪党ハウイー(テリー・サヴァラス)率いる無法者一味が現れ、インディアンたちを虐殺し、毛皮も奪ってしまった。彼らは殺した先住民の頭皮を剥ぎ、それを凖州に売る「皮剥ぎ屋」だった。やっかいな連中を敵に回しながらも、決して毛皮を諦めないジョー・バス。渋々、彼についていくしかないジョゼフだったが……。
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 原題の“Scalphunters”とは、インディアンの頭皮を剥いで政府に売っていた白人たちのこと。頭皮剥ぎの風習はインディアンの中でも一部の部族でしか行われておらず、どちらかというと白人の方が盛んに行っていた残虐行為なのだそうだ。それに懸賞金を払う公的システムがあったこともおぞましい(殺せば殺すほど金になるということで、対立する部族同士の殺し合いに拍車をかけ、先住民たちを自滅させる意図もあった)。テレビや映画で植えつけられたイメージで「凶悪なインディアンたちと戦う映画なのか」と思って映画館に行くと、白人の残虐行為を正面から見せつけられ、しかも主軸となるのは黒人と白人の友情を描いた物語であるという、白人優位主義への痛烈な皮肉が込められたタイトルなのである。

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 主演はポラック監督とは『大反撃』(1969)でも組んでいるバート・ランカスター。頑固で変わり者の主人公を軽妙に演じている(最初はキャラクターが掴めなくて困惑するけど)。相手役の黒人青年を演じるのは、若き日のオシー・デイヴィス。慇懃無礼で抜け目ないが、人懐っこさも併せ持つキャラクターを好演し、クセモノ俳優陣とも堂々と渡り合っている。70年代には『ロールスロイスと銀の銃』(1970)で監督・脚本を手がけ、のちにスパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)で名優としての評価を確立した黒人俳優の草分けだ。

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 出演者のなかで最も魅力的なのは、悪役を演じるテリー・サヴァラス。やってることは泥棒だったりインディアンの頭皮剥ぎだったり最低なのだが、それを少し間の抜けた憎めないキャラクターとして瓢々と演じてしまうのがすごい。一緒に旅している愛人役のシェリー・ウィンタースも、貫禄のつき始めたコケティッシュさを振りまき、イイ味を出している。また、荒くれ者の手下どもの中には『赤い靴をはいた男の子』(1984)のダブニー・コールマンの姿も。

 白人・黒人・先住民の異人種同士が、手を組んだり裏切ったり殺し合ったり、めまぐるしく関係性を変化させていくドラマ展開が、つとめて軽いタッチで綴られるのが快い。クライマックスでは主人公たちが泥まみれになって殴り合い、どちらが白人か黒人か分からなくなるという、以降様々な作品でお約束となる描写も登場する。しかし、主人公2人がいがみ合うのは差別意識云々というより、互いの人間性をめぐる対立であって、当時の社会的様相からは解放されたところにある。簡単に言うと『夜の大捜査線』(1967)の緊張感とは違った気楽さを意図的に仕組んであり、逆に言うとそこがインパクトの面で映画史に残らない結果になったのだろう。

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 とことん嫌な人間、芯から差別主義に凝り固まったキャラクターはあまり出てこないあたり、何か「物分かりのよさ」みたいな感覚が漂う(当時としても異色だっただろう)。優等生的なリベラリズムに思えなくもないが、ある意味では屈託のない時代の産物とも言えるのかもしれない。今ならもっと苛烈で生々しい対立のドラマになるだろうし、ジョゼフ・リーの心情吐露はより深刻かつ具体的に語られるだろう。そういった主題をポラックは終盤の短い1シーンに集約させ、くどくど説明しない。エクスキューズだらけの最近のハリウッド映画ではお目にかかれない、昔ながらのシンプリシティが本作の美徳だ。

・Amazon.co.jp
DVD『インディアン狩り』 (米国盤・リージョン1)

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Amazon.co.jpで売っている米国盤の西部劇DVD

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 最近になって気付いたんですが、基本的に映画の海外盤DVDは取り扱っていないAmazon.co.jpで、なぜか西部劇だけは自社販売してるんですね。海外のネットショップなどで買いづらいという人にはいいかもしれません。もちろん大半のディスクは日本語字幕もなく、地域コードも異なります(北米はリージョン1)。とりあえず個人的に気になったタイトルを以下にリストアップしたので、参考までに。

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『インディアン狩り』 Scalphunters(1967)
先日亡くなったシドニー・ポラック監督の初期作。当時の人種問題を絡め、白人と黒人の友情を描くコミカルウエスタン。主演はバート・ランカスターとオシー・デイヴィス。(MGM/UA)

『男の出発』 Culpepper Cattle Co.(1972)
CMディレクターから映画監督に転身したディック・リチャーズのデビュー作。念願かなってカウボーイになった青年が厳しい現実を目のあたりにする姿を、丁寧かつ瑞々しい演出で描く。(FOX)

『3:10 to Yuma』(2007)
グレン・フォード主演の西部劇『決断の3時10分』をジェームズ・マンゴールド監督がリメイクしたヒット作。主演はラッセル・クロウとクリスチャン・ベイル。(Sony Pictures)

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『悪党谷の二人』 The Good Guys & The Bad Guys(1969)
ロバート・ミッチャムとジョージ・ケネディを主演に迎え、バート・ケネディ監督が西部劇への挽歌を謳った作品。文明の波が押し寄せる西部の町で、初老の保安官と腐れ縁のギャングが手を組み、悪人たちと戦う。(Warner)

『四十挺の拳銃』 Forty Guns(1957)
サミュエル・フラー監督の異色西部劇。バーバラ・スタンウィックが40人のガンマンを部下に従えた女ボスを演じる。日本盤は紀伊國屋書店からリリース。(FOX)

『フォート・ブロックの決斗』 These Thousand Hills(1958)
リチャード・フライシャー監督による西部を舞台にしたヒューマンドラマの秀作。一介のカウボーイから立身出世していった男が、成功の過程でひとりの女性を裏切り、後悔にさいなまれる姿を描く。(FOX)

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『夕陽のギャングたち』 Duck You Sucker(1970)
セルジオ・レオーネ監督がメキシコ革命を題材に撮り上げたマカロニ叙事詩。主演はロッド・スタイガーとジェームズ・コバーン。本編と様々な映像特典を収録した2枚組。(MGM/UA)

『地平線から来た男』 Support Your Local Gunfighter(1971)
バート・ケネディ監督&ジェームズ・ガーナー主演のコミカルウエスタン。快作『夕陽に立つ保安官』の姉妹編的作品。(Warner)

『ミネソタ大強盗団』 Great Northfield Minnesota Raid(1972)
西部史に名高いヤンガー兄弟とジェシー・ジェームズの列車強盗団を題材にした、フィリップ・カウフマン監督のデビュー作。撮影はブルース・サーティーズ。『ジェシー・ジェームズの暗殺』と併せて観てみるのも一興かも。(Universal)

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『荒野に生きる』(1971)&『死の追跡』(1973) Man in the Wilderness & Deadly Trackers
英国の演技派リチャード・ハリスが主演した70年代ウエスタンのカップリング盤。リチャード・C・サラフィアン監督の『荒野に生きる』は、ハリス演じる主人公が未開の荒野に置き去りにされ、復讐心を糧にしぶとく生き延びる姿を描いた秀作。バリー・シアー監督の『死の追跡』は、妻子を殺された保安官の復讐劇をサスペンスフルに描く。原作はサミュエル・フラー。(Warner)

『ビッグ・アメリカン』 Buffalo Bill & Indians(1976)
ロバート・アルトマン監督が西部の英雄バッファロー・ビルの実像に迫った異色作。ポール・ニューマンが商売人で派手好きのバッファロー・ビルを演じる。122分のノーカット版。(MGM/UA)

「Classic Western Collection: The Outlaws」
20世紀フォックス製作の西部劇4本をパックにしたDVD-BOX。収録作は、ロバート・ライアン主演の『誇り高き男』、スペンサー・トレイシー主演の『折れた槍』、サミュエル・フラー監督の『四十挺の拳銃』、ディック・リチャーズ監督の『男の出発』。(FOX)

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『夕陽の群盗』 Bad Company(1972)
ロバート・ベントンが監督デビューを果たしたニューシネマ・ウエスタン。南北戦争末期、徴兵から逃れた青年が強盗団の仲間に入り、悪に染まっていく姿をほろ苦いタッチで描いていく。(Paramount)

『群盗荒野を裂く』 Bullet for the General(1967)
ダミアーノ・ダミアーニ監督がメキシコ革命を背景に、粗暴なゲリラ団の首領と切れ者のアメリカ人青年の関係を描いたマカロニウエスタン。『ロング・グッドバイ』顔負けのラストが泣かせる。日本版DVDとは異なる全長版。(Blue Underground)

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『ブルーベリー』 Renegade(2004)
フランスのBD作家ジャン“メビウス”ジローの西部劇コミックを、『ドーベルマン』のヤン・クーネン監督とヴァンサン・カッセル主演で映画化したアクション大作。日本では某配給会社のラインナップに入っていたのに、いまだオクラ入り状態。(Sony Pictures)

『South of Heaven West of Hell』(2000)
ミュージシャンであり、俳優としても『スリング・ブレイド』『バンディダス』などで嫌らしい個性を発揮しているドワイト・ヨーカムが、監督・脚本・主演を務めた力作。出演者にはヴィンス・ヴォーン、ビリー・ボブ・ソーントン、ブリジット・フォンダ&ピーター・フォンダ親娘と、豪華な顔ぶれが揃っている。内容は「ヨーカムのファン以外には耐えられない駄作」らしいけど……。(Trimark)

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『ウエスタン・ロック/ザカライヤ』 Zachariah(1971)
西部劇とロックを無理やり融合させたカルト映画。砂漠や酒場でロックバンドが延々と演奏を繰り広げる怪作。(MGM/UA)

……無学なもんで正統派が1本も入りませんでしたが、ご容赦ください。

『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)

『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』
原題:Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull(2008)

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 面白かったけど、つまらなかった。ひとつひとつの見せ場は遊園地のアトラクション的に楽しくて、さすがスピルバーグという感じなのだけど、全体としては面白みに欠ける。準備段階でさんざん難航した挙げ句、ひたすら軽いコミカルな方向へえいやっ! と振ってしまったことで、前3作にあったドラマ性や、味のあるキャラクター造形なども放棄してしまった。シリーズ4本中ではまず一番の凡作になったと思う。

 前作から19年を経て帰ってきたインディ・ジョーンズ=ハリソン・フォードは、渋みを増すどころか、落ち着きのないアクションと説明台詞にてんてこまいするコメディリリーフになっていた。1作目のヒロイン、カレン・アレンとの意外な再会も、それほどは盛り上がらない。シャイア・ラブーフ、ケイト・ブランシェットはよく頑張っている。ジョン・ハートもいいが、前作のデンホルム・エリオットと比べてしまうと、なんともしどころのない役だ。レイ・ウィンストン演じる新キャラに至っては全く意味不明。ジョン=リス・デイヴィスの存在感が恋しい。

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 とにかく全編ワクワクしないのはなぜだろう。ジョン・ウィリアムズの音楽や、おなじみのパンチ音のSEにはグッとくるが、長続きする感覚ではない。それよりも、イイ歳したおじいちゃんたちが無理して若ぶる悲惨さ、みたいな感じが終始つきまとう。スピルバーグ映画の観客としても『宇宙戦争』や『ミュンヘン』(共に2005年)を経た後では「何を今さらこんな幼稚な……」と思わずにいられない。扱っているネタ自体、わざわざ『インディ・ジョーンズ』の新作でやることとは思えない陳腐なものだからだ。ジョージ・ルーカスのセンスはもう致命的なところまで来てるなあ、と改めて思った。

 脚本はデイヴィッド・コープ。個人的に好きな脚本家/監督ではあるけど、どうも『インディ・ジョーンズ』とは相性が合わない気がした。ねじくれた悪意とシニシズムが前面に立ちすぎているような感がある。冒頭の核実験のシークエンスとか、ちょっとアンマリだと思った。ここはやっぱりローレンス・カスダンとかに王道の冒険活劇を書いてもらいたかった。しかし、昨今の映画界ではトレンドスポットである南米を舞台に選び、『アポカリプト』(2006)ライクなスペクタクルを繰り広げるあたり、さすがの目利きである。そういえばデビュー作の『アパートメント・ゼロ』(1988)もブエノスアイレスが舞台だった。

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 正直、随分と時間のかけられた作品のわりには、肩透かし感は否めない。とはいえ、上映時間中は何をしてでも楽しませるという娯楽職人スピルバーグの矜持は、今回も保たれている。長年の『インディ』ファンは、センチメンタルな期待感いっぱいで観に行くより、思いがけない余禄に出会えたような気楽なノリで観た方がいい。「まあ4本もあれば1本くらいはこういう感じもアリか」ぐらいの気分で帰れるから。

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『イースタン・プロミス』(2007)

『イースタン・プロミス』
原題:Eastern Promises(2007)

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 凄かった。いつの間にかマーティン・スコセッシを飛び越えて「暴力映画の巨匠」になってしまったデイヴィッド・クローネンバーグ監督の新作は、前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005)同様、やはり「凄い」としか言いようのない傑作だった。

 クローネンバーグはこれまで主にSFやホラーといったジャンルで、肉体の内側と外側、あるいは理性と本能の相剋・葛藤を描いてきた。しかし、彼は今回もまた前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に引き続き、より具体的な闘争の場=犯罪社会へと踏み込む。平和な日常と、その隣り合わせに存在する暴力的世界の摩擦と衝突を、さらに過激にエスカレートさせていくのだ。

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 『イースタン・プロミス』は、英国ロンドンのロシアン・コミュニティという、あまり目にしたことのない世界の暗部にメスを入れた強烈な物語である。ナオミ・ワッツ扮する助産婦のアンナは、赤ん坊を産んで死んだロシア人少女の日記を手にしたことから、マフィアが取り仕切る売春ビジネスや人身売買の実態を知ることになる。そして、彼女はひょんなことからマフィアの運転手ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)と奇妙な交流を深めていく。非情さと優しさを併せ持つ、不思議な魅力を湛えた彼の正体とは……。

 『堕天使のパスポート』(2002)の脚本家スティーヴ・ナイトによるシナリオは、ジャンルとしては「社会派バイオレンス・スリラー」になるのかもしれないが、クローネンバーグの演出は単純なジャンル分けを許さない。特に強烈なインパクトを与えるのが、ホラー映画とまるで変わらないどぎつさで、ひたすら明確に映し出される人体破壊描写の数々だ。クローネンバーグにとっては新機軸と云っていい本格ギャング映画である本作でも、暴力の恐怖を伝えるために、グロテスクな破壊の瞬間そのものをしかと見せつけるダイレクトなホラー演出が相変わらず駆使されているのが面白い。同じくホラー・ジャンル出身のステュアート・ゴードン監督による『King of the Ants』(2003)にも通じる感覚だと思った。

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 そんな明確さに反するように、ストーリーはぎりぎりまでシンプルに削ぎ落とされる……クローネンバーグ作品におけるシンプリシティは、往年の職人監督がするように分かりやすさを目的とはしておらず、観客の知性を試す種類のものだ。その無駄のなさを通り越した省略語法は『スキャナーズ』(1981)から変わっていない。

 しかしながら、この映画的成熟はどうしたことか。語り口はいつものクローネンバーグだが、シナリオの新鮮な衝撃性、常連スタッフによる素晴らしい仕事も含めて、とてつもない豊かさと成熟が感じられる。軽いユーモアも交えた深みのある人物描写、ロシア語をマスターした名優たちの見事な演技、リアルな美術セットや風俗のディテールなど、映画の各部がこれまでで最高と云っていいくらいの高みに達している。

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 とにかくもう、ヴィゴ・モーテンセンが素晴らしい。強烈なカリスマ性を放つ謎の男・ニコライに扮し、見事なアクセントで叩き上げのロシアン・マフィアを完璧に演じている。体中に刺青メイクを施した精悍な肉体を披露するほか、公衆浴場での全裸プラス1もとい全裸&タトゥー姿で繰り広げる凄まじい格闘シーンにも、筋金入りの役者魂を感じずにはいられない。役作りのために単身ロシアに渡ってウラル地方の文化風俗を吸収したという役者バカ(というか変人)だ。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズはもとより、前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のイメージさえ払拭し、その演技力と存在感をフルに発揮した過去最高の芝居で圧倒する。

 ナオミ・ワッツとクローネンバーグ映画の相性も、なかなかのものだ。鬼才の作品でも、凛とした女性の強さを最低限の演技で体現できる稀有な女優であり、本作でも幼い命を守るために危険な領域へ足を踏み入れていくヒロインを、説得力たっぷりに演じている。横顔がやはり、美しい。キスシーンが本当に映える女優さんだと思う。

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 自称・元KGBの偏屈な叔父役を演じるのは、ポーランド出身の奇才監督イエジー・スコリモフスキー。ベテラン俳優顔負けのユーモラスで味わい深い演技を披露している。クローネンバーグたっての希望でキャスティングされたらしいが、やはりそれはスコリモフスキーが共産主義政府と相容れず故国を脱した流浪の人であり、過去にロンドンで『早春』(1972)や『Moonlighting』(1982)を撮っているからだろうか。ヒロインの母親役にシニード・キューザックを配しているのも、彼女の夫が『Moonlighting』とクローネンバーグの『戦慄の絆』(1988)に主演したジェレミー・アイアンズだから?

 冷酷なマフィアのボス役に、温厚なイメージで知られる名優アーミン・ミューラー=スタールを起用しているのも、いかにもクローネンバーグらしい捻り技。そのドラ息子役のヴァンサン・カッセルは、『バースデイ・ガール』(2002)で演った役とイメージが被るんじゃないか? という不安があったが、杞憂に終わった。イキがっているわりに弱さを抱えたダメな二世をこれまた絶妙に演じており、複雑なキャラクターを見事に作り上げていて感動。ぜひこのままお父さんのような良い役者になってほしい。

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 本作『イースタン・プロミス』は、クローネンバーグ作品としては珍しくアクチュアルな社会問題を扱った作品だが、そこで見据えられているのはやはりこれまでと不変のテーマだ。つまり肉体の内と外で繰り広げられる闘争(Conflict)、そしてアイデンティティの変容を追う物語である。そのメタファーは刺青であり、血だ。

(以下、ややネタバレ)

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『スキャナーズ』(1981)

『スキャナーズ』
原題:Scanners(1981)

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 最近は昼間に映画を観ることができず、もっぱらレイトショーかオールナイト通い。ここ1ヵ月はそれすら行けないほど忙しくて、家でDVDを観る余裕もなかった。そんな状態になると、今の自分が映画に望むものが研ぎ澄まされてくるのか、どうしても「この1本」が観たくなる。

 今回の場合はなぜかデイヴィッド・クローネンバーグ監督の実験映画『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』(1970)だった。そんなもんが無性に観たくなる精神状態がまずどうかしていると思うけれども、矢も盾もたまらず新宿ビデオマーケットで輸入盤DVDを買ってしまった(ちょっといい画質で観たくて)。別に面白いものじゃないと分かってはいたけど、それなりに堪能した。いつかちゃんと論じてみたい作品であるとも思う。

▼『クライム・オブ・ザ・フューチャー』の一場面より
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 そしたら続けて『スキャナーズ』も観たくなってしまい、これはサクッと近所のレンタル屋でビデオを借りてきて観た。まあ子どもの頃から繰り返し観ている映画なので、言うまでもなく、やっぱり面白かった。前振り的な説明が全然ないから変な映画に見えるんだなーとか、マイケル・アイアンサイドは意外と出番が少ないのに作品の顔として定着したのが凄いなーとか小さく思いながら、とりあえず欲求は満たした。

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 しかし、なんとなく物足りない。思えば10年前のリバイバル上映の時、新宿武蔵野館(当時はシネマ・カリテ)で観たのを除いて、VAPから出ていたビデオ以上のクオリティでは観ていないのではないか。一時期バンダイビジュアルから発売されていたビデオ・LDに至っては論外。あんな酷い画質はない。余計な続編2本のついたDVD-BOXは高くて買ってない。まあ、画のクオリティはVAPのビデオでも特に文句はないのだけど、とにかくハワード・ショアーの音楽をもっとガツンとした音で聴きたい!

 そこでアンカーベイUKから出ているPAL盤DVDを買った。こっちは米国盤とも日本盤とも違うステレオリミックス・バージョン。仕事も少し山場を越えた頃にちょうど届いたので、夜中にヘッドフォンをつけて爆音で観てみた。

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 ……素晴らしい。もうまさに期待どおり。すんごい楽しかった。

 別に緻密な音響設計というわけでもなく、元々モノラルの映画をできる限りステレオにしてみましたという大味な作りなのだけど、それでもクリアに聴こえる部分が非常に増えているのは単純に嬉しかった。クライマックスの超能力対決で「血管が浮き出る音」なんて初めて聴いた気がする。わりと上等な音素材が現存している台詞やSEはめっぽうクリアで、音楽はもちろん全てステレオ収録。オープニング曲の強力なパーカッションもちゃんと大迫力で聴こえる。PAL盤なので、ちょっとピッチ高め・スピード速めになっているのも派手な効果を高めていて逆によかった。画質も申し分なし。

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 個人的にはサラウンド万歳という立場ではなく、モノラルにはモノラルの美しさや調和があり、見事なモノラルはヘタなステレオにいくらでも勝ると思っている。『風の谷のナウシカ』(1984)だってモノラルなのだ。しかし一方で、嘘でもいいから派手な音で観たい映画というのもある。『スキャナーズ』はその筆頭だった。それを言うなら音の実験に満ちた『クライム・オブ・ザ・フューチャー』だって絶対にステレオで観たい作品である。

 ちなみに僕がステレオ洗礼を受けたのは『未来世紀ブラジル』(1985)の東北新社版ビデオで、次に大好きだったのは『スペースバンパイア』(1985)の過剰な音響設計だった。それ以降はビデオを借りるときも「まずはHi?Fi」とインプットされ、ワーナーの旧版『悪魔の赤ちゃん』の音質の悪さに落胆したりしたものだ(ヤな子どもだ……)。

 あの頃、もっとカッコいい音で観たいなあと何気に思っていた映画って、そういえばたくさんあった。そういう意味で『スキャナーズ』UK盤は、子どもの頃からの夢をバッチリ叶えてくれた。いい買い物したなあ、と思った。

・Amazon.co.uk
DVD『スキャナーズ』(英国盤)※PAL

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