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Simply Dead

映画の感想文。

『Futurama』 Third Series(2001?2002)

『Futurama』 Third Series(2001?2002)

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 メチャクチャ面白いのに日本では放映もソフト化もされていない、マット・グレーニング製作のSFコメディアニメ『Futurama』の第3シリーズ(全22話)。第1シリーズ第2シリーズに比べて、胸にしみる感動的なエピソードや秀逸なストーリーが多く、個人的には『Futurama』全体を通していちばん好きかも。どの作品も素晴らしいけど、特にオススメの16エピソードを紹介。

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「Amazon Women in the Mood」
ブラニガン船長と副官のキフ、そしてリーラとエイミーは、ダブルデートの最中にアマゾネスの惑星へ墜落。救出に来たフライたち共々、男たちは檻に幽閉されてしまう……。エイミーとキフの恋模様を軸に、いつも無神経な言動で女性陣を怒らせている男性キャラたちが酷い目に遭うエピソード。今回もブラニガン船長のバカっぷりが弾けている(作画もムダに気合いが入ってて呆れる)。タイトルはコメディ映画『アメリカン・パロディ・シアター(Amazon Women in the Moon)』から。アマゾネス村のスピーカーに“Sonya”って書いてあって吹いた。

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「Parasites Lost」
トイレの自販機で買った怪しげなタマゴサンドを食べて以来、フライの調子がおかしい。実はタマゴサンドに潜んでいた寄生虫が、体内で都市を築いていたのだ! ファーンズワース教授たちは寄生虫を退治するため、自分たちをコピーしたナノロボットを使って体内に潜入。一方、寄生虫によって身も心も改善されたフライは、リーラに愛を告白する……。切ないラブストーリー要素を絡めた『ミクロの決死圏』のパロディ編。自分の脳神経をビシバシ切断しながら寄生虫と戦うフライの姿は爆笑必至! リーラとのロマンティックなラブシーンも秀逸。題名はもちろんミルトンの『失楽園(Paradise Lost)』から。

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「The Luck of the Fryrish」
自分の運のなさを嘆くフライは、少年時代に持っていた幸運のお守り“七つ葉のクローバー”を探しに、地下の旧ニューヨークにある自宅跡地へ。そこで彼が見たものは、英雄として称えられる兄ヤンシーの銅像だった。その銘板にはフライの名前が! ひょっとして兄はクローバーを奪った上に、自分と取って代わったのか……!? 1970?90年代にわたるフライの過去と、30世紀の現在をスイッチバックで描き、見事なオチで号泣させる傑作エピソード。ギャグ少なめの演出も異色。

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「The Birdbot of Ice-Catraz」
輸送していた高密度燃料が、ベンダーのヘマで冥王星の氷の海にダダモレ。真っ黒に汚染された冥王ペンギンたちを救おうと、リーラはボランティアに参加する。一方、ベンダーはペンギンの群れに紛れて逃げ出そうとするが……。湾岸戦争時の原油にまみれた海鳥たちをモチーフにした、動物保護テーマの一編。燕尾服を着てペンギンになりすますベンダーが可愛い。タイトルはジョン・フランケンハイマー監督の映画『終身犯(Birdman of Alcatraz)』から。

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「The Day the Earth Stood Stupid」
高度な知能を持った脳型エイリアン軍団が地球を急襲! 催眠状態にかかった人類は残らずバカになってしまうが、リーラだけはペットのニブラーに助けられ、からくも脱出。侵略者に対抗しうる唯一の希望は、なぜか催眠を免れたフライだけだった……。『顔のない悪魔』みたいな脳型エイリアンと、地上最強のボンクラ・フライが繰り広げる頭脳戦(!)が見どころの侵略SF編。タイトルはSF映画のクラシック『地球の静止する日(The Day the Earth Stood Still)』から。二ブラーを演じる動物声優のエキスパート、フランク・ウィルカーの地声の芝居も聞けるレアな作品だ。本筋とは関係ないが、冒頭に出てくる催眠ガエルのキャラクターが最高におかしい。

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「Where the Buggalo Roam」
エイミーの両親が営む火星の牧場にやってきたフライたち。そこに火星人たちの操る竜巻が現れ、エイミーがさらわれてしまった! 気弱なキフはなんとか恋人を救おうとするが……。『捜索者』+『ゴースト・オブ・マーズ』といった感じの一編。タイトルは「峠の我が家」の歌詞“Where the Buffalo Roam”から。なぜかエイミーの両親に対して異常に馴れ馴れしいドクター・ゾイドバーグがすごく面白い。

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「The Cyber House Rules」
リーラは孤児院の同窓会で、憧れの同級生アドレーと再会。エリート医師になっていた彼に2つめの目をプレゼントされる。晴れて他の人間と同じになった彼女は、知的でハンサムなアドレーに夢中になるが、フライだけは「1つ目の君の方がよかった」と言う……。リーラが2つ目となり、幼馴染みと婚約するエピソード。ベンダーが政府の援助金めあてに孤児たちを育てるサブストーリーも楽しい。タイトルはジョン・アーヴィングの小説『サイダー・ハウス・ルール』から。

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「Insane in the Mainframe」
銀行強盗の濡れ衣を着せられたフライとベンダーは、2人まとめてロボット専門の精神医療刑務所へ送られてしまう。ノイローゼに陥るフライの前に、強盗の真犯人ロベルトが出現! 精神病院で文字通り「ロボット化(ロボトミー)」されてしまうフライの悪夢を描いた『カッコーの巣の上で』風エピソード。シュモクザメみたいな形の極悪サイコパス・ロボ、ロベルト役をデイヴィッド・ハーマンが怪演。本気で怖い。ハーマンは『Idiocracy』(2006)などの実写作品にも出演している。

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「The Route of All Evil」
ファーンズワース教授と会計士ハーミーズの息子たちは、理解のないオトナたちに認められようと新聞配達でひと儲け。だが、その繁盛ぶりには裏があって……という本筋よりも、フライとリーラとベンダーが自分たちのオリジナル銘柄ビールを作ろうとするサブストーリーの方が面白い。歩く醸造工場と化し、妊婦のようにお腹を膨らませたベンダーがキュート。タイトルは『カンタベリー物語』の一節“The love of money is the root of all evil.”から。

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「Bendin' in the Wind」
ベンダーが巨大缶切りに巻き込まれ、全身麻痺に! 落ち込む彼は、たまたまベックの保存生首と出会い、一緒にライブツアーへ出ることになる。自分の壊れたボディを楽器代わりにして、スクラップになってもステージで活躍するベンダーは、ロボットたちのヒーローとなるが……。ゲストにベックを迎えた音楽ロードムービー編。タイトルはボブ・ディランの名曲「風に吹かれて(Blowin' in the Wind)」から。

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「Time Keeps on Slippin'」
宇宙人バブルガム率いる銀河バスケチームが、地球を賭けた勝負を挑んできた。ファーンズワース教授は彼らに対抗すべく、宇宙に漂うエネルギー物質クロニトンを使い、最強ミュータントチームを作り出す。ところがクロニトンを採取した“穴”から時空に歪みが生じ、時間がジャンプしてしまう現象が発生。気が付くとフライとリーラは理由も分からず結婚していた!? 理論SFとラブストーリーを絡めた秀作エピソード。リーラへの想いに破れるフライの切ない心情と、まるで『トップをねらえ!』のようなラストシーンが泣かせる。バブルガム役のフィル・ラマーの演技も最高。脚本のケン・キーラーは、カルトSF作家ハリー・スティーヴン・キーラーの作品をもとにストーリーを考えたとか(2人に血縁関係はなし)。

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「I Dated a Robot」
インターネットでルーシー・リューの模造人格をダウンロードしたフライは、ルーシー・ロボとのデートに夢中。だがそれは、悪徳業者がルーシー本人の保存生首から違法コピーしたデータだった。真相を知ったリーラたちは、業者に捕まっていた彼女の生首を連れて逃げ出す。が、そこに100人のルーシー・ロボ軍団が現れた! ルーシー・リューが本人役で出演したスペシャル・エピソード。声だけの芝居も結構達者でビックリする。さほど美人に描かれてないけど、怒らなかったんだろうか? ドクター・ゾイドバーグの物真似がクール!

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「A Leela of Her Own」
ひょんなことから野球選手になったリーラは、その投球センスのヒドさから「ビーンボール・スター」として有名になってしまう。彼女は汚名を挽回すべく、史上最低の打者ハンク・アーロン24世と共に、特訓を開始した! 伝説のホームランバッター、ハンク・アーロンをゲストに迎え、最悪の野球選手を演じさせたバチ当たりなエピソード。『メジャー・リーグ』の解説者役でお馴染み、ボブ・ユッカーも本人役で特別出演。タイトルは映画『プリティ・リーグ(A League of Their Own)』から。

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「Anthology of Interest II」
もしもマシンを通して映し出される3つの奇妙な世界……『ザ・シンプソンズ』のハロウィン・エピソードのようなオムニバス編。第1話ではベンダーが人間化。暴飲暴食を繰り返した挙げ句に、『AKIRA』のような肉の塊になってしまう。ベンダーが酒場やストリップクラブで享楽の限りを尽くすシーンの作画が凄い。第2話はテレビゲーム化した世界でフライが地球の救世主となる『デビルゾーン』みたいな話。パックマン将軍が可愛い。そして第3話は、みなしごのリーラが案山子のフライやブリキのベンダーらと共に「おうち」に帰ろうとする、『オズの魔法使』の秀逸なパロディ編。

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「Roswell That Ends Well」
ふとしたことでタイムスリップしてしまったフライ一行。辿り着いた先は、1947年のロズウェルだった! 軍に捕えられたベンダーとゾイドバーグを救うべく、教授は策を練るが……。タイムパラドックスをテーマに、SFファンと「ムー」読者なら誰でも知っているロズウェル事件を絡めた、エミー賞受賞作。従来のSFセオリーをひっくり返す思いきったプロットに、20世紀の歴史的要素と、ギャグとアクションをふんだんに加え、バランス良くまとめた一編。さすがエミー賞。

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「Godfellas」
宇宙海賊と交戦中、船外に放り出されてしまったベンダー。広大な宇宙を漂っていると、故郷を失った異星人たちが体に付着していた。ベンダーは彼らの居住を許す代わりに“神”として崇められる。だが、やがて内戦が勃発し……。宇宙の果てで神となり、神として挫折し、ついには神と出会ってしまうベンダーの旅を描いた傑作エピソード。終盤の展開もよくできてる。元ネタはスウィフトの『ガリバー旅行記』だが、今なら『電脳コイル』14話の先取り? タイトルはもちろん『グッドフェローズ(The Goodfellas)』から。

▼『Futurama』のスタッフたち。左がマット・グレーニング、右がベンダーとデイヴィッド・コーエン
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 上に挙げなかったエピソードも十分面白い。第2シリーズの凶悪ロボサンタが再登場する「A Tale of Two Santas」や、80年代バブル野郎に会社を潰されかかる「Future Stock」は必見。日本人としては、『料理の鉄人』のパロディが登場する「The 30% Iron Chef」も強烈なインパクト。鹿賀丈史の役をデイヴィッド・ハーマンがものすごく熱演してて爆笑する。

 特に何度も繰り返し見てしまうのは、「Parasites Lost」、「The Luck of the Fryrish」、「Time Keeps on Slippin'」、「Roswell That Ends Wel」、「Godfellas」の5本だろうか。ギャグアニメだと思って甘く見ていると、思いがけず胸を揺さぶられ、泣かされてしまう。それが『Futurama』の恐ろしいところだ。

・Amazon.co.jp
DVD『Futurama』Vol 3(4枚組)

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『Futurama』 Second Series(1999?2000)

『Futurama』 Second Series(1999?2000)

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 西暦3000年のニューヨークで、宇宙を駆ける運送屋として働くことになった青年フライ。一つ目美女のリーラ、性格の悪いダメロボットのベンダー、遠い子孫のファーンズワース教授など、いちいちキャラの濃い仲間たちに囲まれて、今日もおかしな物語が幕を開ける。『ザ・シンプソンズ』のマット・グレーニングが原案・製作を手がけたSFコメディアニメ『Futurama』の第2シリーズ。相変わらずアイディア豊富なストーリーの連続で、全19話を一気に見せてくれる。

 パイロット版を含む第1シリーズが好評を博し、本格的にシリーズが始動してからは、メインキャラの過去や背景が少しずつ明るみに。恋愛ドラマ要素も色濃くなり、オトナ向けのきわどい描写も増加。もちろんブラックなギャグやバカバカしい遊びも倍増し、フライの肉体損壊描写もエスカレートする(医療技術の進歩した世界だけあって、復元も簡単なのだ)。甲殻類系エイリアンのドクター・ゾイドバーグや、ジャマイカ人会計士のハーミースといったサブキャラをフィーチャーした話も楽しい。中でも面白かったのは、以下の10本。

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「I Second That Emotion」
リーラの可愛がっているペット、ニブラーをトイレに流してしまったベンダー。お仕置きに人間と同じ“感情”をインストールされた彼は、途端に自責の念に駆られ、危険を顧みず下水道へ。慌てて後を追うリーラとフライの前に、地下に棲む異形のミュータントたちが現れる……。人でなしロボット・ベンダーに感情が芽生えるハートウォーミングなエピソード。個性豊かなミュータントたちのキャラ造形も見もの。タイトルはザ・ミラクルズの同名曲から。第2(Second)シリーズ一発めのエピソードで、感情(Emotion)がテーマの話だから、でもある。

「Brannigan Begin Again」
宇宙一サイテーな英雄ザップ・ブラニガン、ついに艦長資格剥奪! 行く当てもなく、流れ流れてプラネット・エクスプレス社に身を寄せたブラニガンと副官のキフは、宇宙配達屋として第二の人生をスタートさせる。が、仕事のキツさに我慢できず、ブラニガンはフライたちを巻き込んで叛乱を企てる……。ハタ迷惑なヒーローのめでたい失墜と、誰も望まない再起を描くエピソード。ハリー・ニルソンの名曲「Everybody's Talkin」に乗せて、路頭に迷うブラニガンたちを映し出す『真夜中のカーボーイ』モンタージュが最高。

「Xmas Story」
未来のXマスはなぜか夜間外出禁止。フライはリーラにプレゼントするために買ったオウムを逃がしてしまい、捕まえようと夕暮れ近い町をさまよう。そこで彼が遭遇したのは、恐怖の殺人ロボットサンタだった! 『Futurama』のクリスマス・エピソードは、凶悪なロボサンタがニューヨークを破壊しまくるというメチャクチャな内容(ついでに子どもの夢も破壊するという事で、フォックスは放映を拒否)。一方で、身寄りのない者同士であるリーラとフライの絆をしみじみ描く、イイ話でもある。ロボサンタの声はジョン・グッドマン。怖すぎ!

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「Why Must I Be A Crustacean in Love?」
最近、ドクター・ゾイドバーグの様子が(普段に増して)おかしい。実は彼の種族は繁殖期に入っていたのだ。ゾイドバーグはフライたちを連れて母星に帰り、恋人を見つけようとする。が、目をつけていた幼馴染みの女性がフライを見そめてしまった! 2人は闘技場で決闘する羽目に……。「医者なのに貧乏」「キモい」「変な臭いがする」等、いいところなしのヤブ医者ゾイドバーグが、母星でもやっぱりモテない君だったことが分かる爆笑エピソード。フライがかなりヒサンな目に遭う話でもある。アニー賞受賞作。

「Put Your Head on My Shoulder」
よりによってレイ・ミランド主演のB級ホラー映画『Mr.オセロマン/2つの顔を持つ男』にオマージュを捧げた一編。エイミーと付き合うようになったフライは、車でデート中に大事故を起こしてしまう。気が付くと、フライの頭部は応急処置としてエイミーの体に縫い付けられていた! タイトルはポール・アンカの同名曲から。

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「How Hermes Requisitioned His Groove Back」
キャリアアップの懸かった大事な監査を前に意気込む会計士ハーミーズ。が、苦労して整理した仕事がベンダーたちのせいで全てオシャカに。一方、監査官の女性はフライのありえないだらしなさに惚れ、強引にデキてしまう……。ハーミーズ失業の危機と鮮やかな復活が描かれる一編。『未来世紀ブラジル』っぽい役所で繰り広げられる終盤のミュージカルシーンは圧巻。タイトルは映画『ステラが恋に落ちて(How Stella Got Her Groove Back)』より。

「Mother's Day」
30世紀の「母の日」は、世界中のロボットがフレンドリーロボット社の社長“ママ”にプレゼントを贈る日のこと。一堂に会したロボット達に、なんとママは武装蜂起を命令! 自らが女王として君臨する新体制を作り出そうとするママに、かつて恋仲だったファーンズワース教授が説得を試みるが……。高齢者同士による濃厚かつリアルなラブシーンが衝撃的。老人の裸体をここまでしっかり描き込んだテレビアニメもないのではないか(ほとんどイヤガラセに近い)。

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「The Problem with Popplers」
リーラたちはとある星で非常に美味な食べ物を発見。地球に持ち帰って“ポプラー”という名で売り出すと、たちまち大ヒット商品に。だがそれは凶暴なオミクロン星人の幼生だった! 怒った彼らは地球に宣戦布告する。宇宙時代の食物連鎖問題を描く、いかにもSFらしい一編。第1シリーズの「When Aliens Attack」にも出てきたオミクロン星人が再び登場。動物保護を訴えるヒッピーを丸呑みしてしまうギャグが痛快。

「War Is The H-Word」
コンビニの割引カード目当てに宇宙軍に入隊したフライとベンダー。さっさと辞めてカードだけせしめようとしたものの、入隊直後に戦争勃発! ブラニガン指揮官の下、厳しい訓練を受けながら激戦地へと送られるバカ2人。リーラは彼らの身を案じ、変装して隊内に潜り込む。『スターシップ・トゥルーパーズ』や『MASH/マッシュ』など、戦争映画のパロディを満載した第2シリーズの最高傑作。クライマックスはロボット爆弾にされてしまったベンダーを助けるべく、手に汗握る救出劇が展開する。

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「The Honking」
叔父の遺産を受け取ることになったベンダーは、不気味な屋敷で一夜を過ごす。あまりの怖さに思わず外へ飛び出した彼は、謎の車にはねられてしまう。それ以来、ベンダーは夜な夜な邪悪な車に変身する体になってしまった! タイトルは『たたり(The Haunting)』のもじりだが、中身はほとんど『狼男アメリカン』や『ザ・カー』のパロディ。『デスレース2000』ギャグもあり。

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 米盤DVDには各話にオーディオコメンタリーが収録されていて、これがまた楽しい。毎回参加している製作のマット・グレーニングとデイヴィッド・コーエンを始め、各話のスタッフや声優陣など、参加メンバーもみんなリラックスした雰囲気で楽しそう。特に、ベンダー役のジョン・ディマジオ、フライ/ファーンズワース/ゾイドバーグなど何役も演じているビリー・ウェストら、声優たちがはしゃいで脱線する瞬間がたまらなくおかしい。つい本編よりもコメンタリー音声の方を再生しがちだ。

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DVD『Futurama』Vol 2(4枚組)


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映画『狙撃者』と原作『ゲット・カーター』

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 マイク・ホッジス監督の傑作ハードボイルド・スリラー『狙撃者/Get Carter』(1971)の原作小説、テッド・ルイスの『ゲット・カーター』が扶桑社文庫から新訳復刊された(BBSに情報を書き込んでくれた徒歩3分さんに感謝)。元々、小説は『Jack's Return Home』というタイトルだったが、映画のヒットにあやかって小説も『Get Carter』と改題。日本ではその昔『殺しのフーガ』という邦題で書籍化されていたこともある。長らく絶版状態が続いていたが、今回ようやく日本語で読むことができた。

 物語はまさに「dead simple(死ぬほどシンプル)」。ロンドンの暗黒街で一目置かれるギャング、ジャック・カーターが数年ぶりに故郷の地方都市ドンカスターを訪れる。事故死した兄フランクの葬式に出るためだ。不審な事故の真相を突き止めようとする彼の前に、地元のギャングや有力者、ロンドンから追ってきた仲間たちが跋扈する。やがて真実を知ったカーターは怒りに燃え、復讐を遂げていく……。

 有無を言わさぬ主人公カーターの復讐鬼ぶり、クールなアンチヒーローぶりは、リチャード・スタークのピカレスク小説『悪党パーカー』シリーズと並んで魅力的。その映画版『狙撃者』では、マイケル・ケインがジャック・カーターを演じ、英国映画史上に残る名キャラクターとなった。映画については以下に詳しく書いたので、どうぞご参考に。

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▼『狙撃者』撮影中のヒトコマ
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 さて、テッド・ルイスの原作小説について。帯には「ブリティッシュ・ノワール史上最高の作品」と謡われているが、そこまでの内容じゃない(ブリティッシュ・ノワールの平均レベルがどこまでか知らないが)。シーンの状況説明をディテールたっぷりに描写するくせがあり、そのたびに流れが寸断されるきらいがある。まあ、数多あるペーパーバック・スリラーのなかでは上出来の拾い物として読んだ方がいいかもしれない。

 原作のいいところは、映画でもそのまま活かされている。歯切れのいいバイオレンス、個性豊かなキャラクター描写、地方都市の暗黒面を暴くリアリティ、そこはかとなく漂う寂寥感、はたまたお色気要素など。グルーミーなムードはさすが英国小説らしい。スウィンギング60'sにまるっきり背を向けた作者のノワール姿勢にも共感を覚える。たまに当時のカルチャーを反映した描写もあるが、さすがに賞味期限切れだ(『デス・プルーフ』のサントラで再注目されたデイヴ・ディー・グループの名前も登場する)。

 小説は主人公の一人称で書かれており、当然ながら映画とはいくつか違う点がある。最も顕著なのは、カーターが亡き兄フランクのことを回想するシーンが度々出てくることだ。幼い頃に一緒に遊んだ思い出や、兄弟が仲違いした経緯、昔から頑固だった兄の人柄を偲ばせるエピソードなどが断片的に語られる。つまり、この兄は自殺するような人物ではなかったという主人公の確信、彼を復讐へと衝き動かすモチベーションが回想シーンの繰り返しで補強される。これは小説版の要と言える部分だが、映画版の監督・脚本を手がけたマイク・ホッジスは、そういったセンチメンタルな描写をばっさりカット。兄フランクは棺桶に入った死体としてしか映さず、カーターの復讐の動機をくどくど説明しない。より強靭に研ぎ澄まされたシンプリシティで、その行動原理を「落とし前」の一点に絞る。つまり、ジャック・カーターは映画の方が断然かっこいい。

▼グレンダ役のジェラルディン・モファットとマイケル・ケイン
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 他のキャラクターの中で、特に大幅なイメージ変更がなされているのは、ギャングの元締キニアーと、有力者たちの間をふらつく情婦グレンダだろう。原作のキニアーは「信じられないほど太った男」と書かれているが、映画でキニアーを演じたのはスリムで男前の劇作家ジョン・オズボーンだ。グレンダは小説だとブロンドの酔っぱらい女というアンマリな記述だが、映画ではモデル系美女のジェラルディン・モファットが演じ、より知的でイイ女として描かれている。

 また、各シーンの場面設定や段取りも異なる。映画ではドンカスターからニューカッスルに舞台が移され、ホッジスの綿密なロケハンに合わせて場面設定も変えられた。この辺りはさすがドキュメンタリー演出家として鍛えたセンスの賜物で、見事にニューカッスル独特の景観をストーリーに取り込み、置換している。坂道に沿って並ぶ住宅、火葬場、競馬場、立体駐車場、タイン川にかかる橋、キニアーの屋敷、船着き場、そしてクライマックスの海岸など、数々の印象的なロケーションは映画オリジナルの設定だ。

 作中のバイオレンスについても、小説と映画ではボーダーラインの引き方が違う。小説のジャック・カーターは、女を殺さない。少しでも後味をよくしようという作者の心遣いだろう。片や映画のジャック・カーターは2人も殺す。まあ1人はどちらかというと「見殺し」だが、ぞっとする非情さを表すとともに秀逸なギャグになっているという、個人的には映画で最も感銘を受けたシーンだった。小説でも書かれているとしたら、どう記述されているのかと楽しみにしていたが、やっぱりそこはホッジスのオリジナルだった。映画のカーターは関わった女性を全て不幸に巻き込むと言っても過言ではない(もちろん男もだが)。小説ではロンドンに残してきた愛人アンナとの不倫がバレて、友人に救出の手配を頼んだりするが、映画では何もせず見限る。

▼マイケル・ケインとアンナ役のブリット・エクランド
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 中盤の銃撃戦と、クライマックスの展開も、映画版ではオリジナルの段取りで、よりビジュアル的に膨らませている。そして小説には“狙撃者”が登場しない。だから新訳タイトルは『ゲット・カーター』にキマリ、というわけ。もし2000年ごろに復刊されていたら邦題は『追撃者』で表紙はスタローンだったのか、と思うと恐ろしい。

 幾分ウェットな情緒を含む小説『ゲット・カーター』は、「ノワール」と呼んでも差し支えないと思うが、ひたすらドライに徹した映画『狙撃者』は、やはり「ハードボイルド」であると思う。なんにしろ、この復刊を機に映画『狙撃者』とマイク・ホッジス監督に注目が集まってくれると嬉しい。それにしても、イギリスの小説なのだから「フットボール」くらいは「サッカー」と普通に訳してほしかった。

・Amazon.co.jp
本 『ゲット・カーター』by テッド・ルイス(扶桑社ミステリー)

・DVD Fantasium
DVD 『狙撃者/Get Carter』(米国版)

『眠れる野獣』(2001)

『眠れる野獣』
原題:As the Beast Sleeps(2001)

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 ノーザン・アイルランド・フィルム・フェスティバル2008上映作品。停戦協定によってお払い箱となった英領北アイルランド・プロテスタント民兵組織の兵士たちが、行き場のない生活のなかで仲間割れや破綻を来たしていく姿をシビアに描いた傑作だ。BBC北アイルランドで製作されたテレビ映画だが、凡百の劇場作品を遥かに凌駕する見応えと力強さを備えたフィルムである。

 本作で描かれるのは、北アイルランドが英国に帰属し続けることを望んで、IRA(アイルランド共和軍)やカソリック系住民と衝突してきた「ロイヤリスト」と呼ばれる武装集団の物語。プロテスタント地域に生まれ、幼い頃から対立意識を否が応にもすりこまれ、カソリック排斥の闘士として教育された者たちが、停戦合意後どういう状況を迎えたのか。

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 世間はカソリック派に同情的で、自分たちの立場は悪い。昨日までタダ酒を飲めたバーへ行っても、今日からはみんなと同じように金を払えと言われる(店の備品のほとんどは彼らが強奪して手に入れたものなのに)。就職しようにも資格を持っていなければ面接さえしてもらえない。自分たちに命令を与えてくれた上層部は「時代は変わった。今は行動を起こすな」と言うばかり。理想を信じて戦い続けてきた男たちを、待望の「平和」が追いつめる矛盾。彼らにとって全てが丸く収まる方法は、停戦が破られ再びアイルランド紛争が始まることなのだ。

 やがて、金を求めて犯罪に手を染める者が現れ、それを処分するために仲間内で粛清が行われる。やっと昔どおりに戦えると思えば、相手は同胞だったという皮肉。そしてこの映画はフィルム・ノワールでもあるので、主人公は家族同然の親友を手にかけることになる。

 なかなか映画では描かれなかったプロテスタント側の事情を生々しく映し出した本作『眠れる野獣』は、製作から7年が経った今でも新鮮な衝撃を与えてくれる。地元の劇作家ゲリー・ミッチェルによる脚本が見事だ。無駄のないドラマ構成、個性豊かなキャラクター描写、社会問題を冷徹にえぐりとる厳しい視線で、パワフルな悲劇を作り出している。主人公を究極の迷いに叩き込むラストシーンが素晴らしい。

 ハリー・ブラッドビア監督は、暗闇を多く配したリアルなライティングと手持ちカメラを多用し、臨場感に満ちた映像で登場人物たちの生活と苦悩に迫る。76分とは思えない見応えで、悲劇的結末へ向かう重いドラマを一気に見せきり、圧倒的である。

 俳優陣のアンサンブルも見どころ。日本では馴染みのない名前ばかりだが、役者の層の厚さと実力差を思い知らされる。組織の代表を演じたデイヴィッド・ヘイマンだけが唯一名の通った映画俳優ではないだろうか。ヘイマンはカルトムービーになった社会派バイオレンスドラマ『最終監房』(1979)の主演俳優として知られている。

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 この映画が作られた後、現実の北アイルランドは再び迷走を続ける。カソリックとプロテスタントの連立政権は、2002年のスパイ疑惑(英国警察の機密情報などがカソリック派議員によってIRA側に漏洩していたとされる)事件をきっかけに、機能停止。両宗派の居住区はピースウォールと呼ばれる高い壁に仕切られ(現在もなくなったわけではない)、一時は紛争解決のロールモデルだった地域も「早い話がアパルトヘイトだ」と揶揄された。人は困難な相互理解と融和よりも、今の生活や思想を変えずに済む安穏な断絶を選んでしまう。ようやく自治政府が回復したのは、2007年の5月。ついこの間のことである。問題の難しさを理解する上で、本作のような作品は貴重だろう。

 今回の映画祭ではあまりたくさん観られなかったが、この映画を観られただけでもよかった。

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『ハリーに夢中』(2000)

『ハリーに夢中』
原題:Wild About Harry(2000)

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 ノーザン・アイルランド・フィルム・フェスティバル2008上映作品。ツイストのきいたスリラーコメディの快作『ディボーシング・ジャック』(1998)の脚本家コリン・ベイトマンによる、秀逸なヒューマンコメディ。さんざん家族を泣かせてきたサイテー親父が、記憶喪失によって純真だった青年時代の心に退行し、いちから人生をやり直そうとするが……。主演は『28日後…』(2002)、『ベオウルフ 呪われし勇者』(2007)、『ハリー・ポッター』シリーズなどで名脇役として活躍するブレンダン・グリーソン。

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〈おはなし〉
 料理番組の人気司会者ハリー(ブレンダン・グリーソン)は、浮気癖と酒癖がもとで離婚の危機を迎えていた。妻ルース(アマンダ・ドノホー)や息子との仲も修復不可能。そんな時、チンピラに絡まれて頭に大怪我を負った彼は、前後不覚のままショーに出演。放送禁止用語を連発するわ、ゲストの議員夫婦のセックス・スキャンダルを暴露するわ、大失態を繰り広げたあげくに昏倒。目覚めた時、ハリーには18歳までの記憶しかなかった!
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 「見た目は中年だが中身は少年」というギャップ・ネタのコメディだが、ドタバタ色は抑えめ。劇中の台詞でいうところの「誰もが夢見る人生のリセット」を図らずも実現してしまった主人公の成長ドラマに振っているのがいい。料理ショーに出て寒いギャグを飛ばす自分のビデオを見ながら、「こんな大人になってるはずじゃなかったのに……」と落ち込む姿は可笑しくもあるが、大抵のオトナの観客には胸に痛いシーンでもある。さらに彼は18歳にして、扱いにくい子供たちの父親としても奮闘しなければならない(心境的には)。

 そして、妻にとって昨日まで憎むべき敵だった夫が、いま再び18歳の恋する少年の目で自分を見つめている、というシチュエーションがグッドアイディア。ラブストーリーとしても、家族の再生ドラマとしても巧くできている。都合よすぎだい、と思う部分もあるけど、ライトな作りなので観ている間は無理を感じさせない。

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 見どころはなんといってもブレンダン・グリーソンの妙演。あのルックスで18歳の少年になりきる姿は、こそばゆい笑いを誘いつつも、見事に純情そのものの表情を作り出していて素晴らしい。出世作となった『ジェネラル/天国は血の匂い』(1998)以来、イタズラ坊主っぽさを残したオヤジ役を得意としてきたグリーソンだが、本作ではそれとも違った魅力を堪能できる。

 共演陣も魅力的。夫の変身に戸惑いながら再び恋に落ちていく妻ルース役を、『ケン・ラッセルの白蛇伝説』(1988)のアマンダ・ドノホーが好演。映画ではしばらく見かけなかったけど、いい歳の取り方をしていて安心した(といっても8年前の映画だけど)。主人公が勤めるテレビ局のディレクターを演じるのは、『King of the Ants』(2003)の巨漢俳優、ジョージ・ウェント。この人と並ぶとグリーソンがスリムに見える。『ジェネラル』でグリーソンと共演していたエイドリアン・ダンバーもゲイの弁護士役で出演し、台詞回しの巧さで場をさらう。いちばん目立っているのが、主人公に人生を台無しにされて狂気に走る議員を演じたジェームズ・ネズビット。『ブラディ・サンデー』(2002)の名優が見せる、女装も辞さない怪演は必見。

 映画祭では同じくコリン・ベイトマンが脚本を執筆した18分の短編『ジャンパーズ』(1998)を同時上映。クリスマスの夜、おかしなきっかけでデパートの窓縁から飛び降りを図る羽目になった男たちを描いた小品コメディだ。こちらにもジェームズ・ネズビットが出演し、若々しい姿を見せている。

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『28週後…』(2007)

『28週後…』
原題:28 Weeks Later...(2007)

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 傑作。とにかく脚本がよくできてる。緊張感の途切れない演出も素晴らしいし、役者もみんないい。ダニー・ボイル監督のヘタクソな演出に唸った前作『28日後…』(2002)よりも百倍面白い秀作だ。なんなら前作を観ないまま本作から観てもらっても一向に差し支えない。今のところ2008年のベスト1(ちょっと早いけど)。

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 舞台は前作『28日後…』と同じく、強力な伝染性ウィルスによって人々が発狂し、あっという間に壊滅状態に陥ったイギリス。さっきまで普通に生活していた隣人が、血肉に飢えたゾンビまがいの暴徒と化すという、ジェームズ・ハーバートの恐怖小説『霧』を思わせる世界だ。感染者はやがて飢餓で死に絶え、数少ない生存者はロンドン中心部に集まって復興を目指す。だが、沈静化したはずのウィルスが再び発生。人々は狂暴な感染者の群れのみならず、味方であるはずのNATO軍による「理性的措置」にも襲われながら、ロンドン脱出を試みる。

 スケールの大きいパニックシーンや都市破壊、そして凄絶なスプラッタ描写をふんだんに盛り込みながら、『28週後…』は実にストレートかつ計算の行き届いた“悲劇”として作られている。映画の中では数々の悲惨な出来事が起こるが、その前後の組み立てが非常に丹念かつ見事なのだ。オデュッセイア的な一直線の物語に、ドラマティックな不運の連鎖を巧みに配置する構成力の素晴らしさは、近頃ちょっと例を見ない。ホラー映画の見せ場である死や流血を、単なるショックシーンに終わらせていないのだ。

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 もちろん本作は、血反吐をまき散らしながら狂人の群れが襲ってくるホラームービーであり、緊迫感に満ちたサバイバルストーリーである。そんな企画において、監督に抜擢されたフアン・カルロス・フレスナディージョは、ストイックかつシリアスな演出で、家族や人間性といった普遍的なテーマを強固に貫く。念願の再会を果たした一家族が、文字通り血みどろに引き裂かれるエクストリームな崩壊劇を通して。人の善意や正義感といったものが、次の瞬間には無惨に断ち切られ、叩き潰されるさまを容赦なく映しながら。

 それでも人は人らしくあろうとし、みんなが助かるために懸命に努力し、あと一歩のところで血だるま・火だるまになって死んでいく。どんな皮肉な末路が待とうとも……。これこそが“悲劇”である。ヒューマニズムと深い諦観が混然一体となった本作の悲劇性は、うっとりするほど魅力的だ。そのシビアな諦観はまた、かつてなかった新鮮な終末観を提示してもいる。

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 『28週後…』は、もし人類が破滅を迎えるなら、それは「人間性」によって導かれるのではないか、という物語でもある。

 この映画の登場人物たちは、過酷なサバイバルの中で人間らしい愛情や善意を見せた途端、悲運に襲われる。普通なら尊ぶべき行為が地獄絵図の引き金となる。だからといってその行為を愚かだとか迂濶だとかいった分かりやすい悪意でせせら笑うのではなく、「人間だから仕方がない」という穏やかな諦めをもって描いている。そこが新しい。

 狡猾で冷酷な人間だけが生き延びる、という紋切り型の映画にもなっていない。一度は妻を見捨てて生き残った夫も、再会した妻に涙ながらに抱きついて許しを乞うた結果、最悪の事態を招く。NATO軍は一般人も巻き込んだ非情な掃討作戦を強行するものの、結局は誰かの良心が作戦に穴を開ける……。人類はその特質である善意をもって、ひたすらに滅びの道を転がり落ちていくのだ。性善説にもとづいた終末ホラー、というのは珍しいのではないか。

 ゆえに、陰惨な内容であるにもかかわらず、殺伐としたドライな映画にはなっていない。むしろ優しさや愛情や弱さといったヒューマニズムを丹念に描き込んであるからこそ、悲劇性や恐怖はより際立つ。そして罪のない少年少女をドラマの中心に据えることで、視点に瑞々しい純真さも加わっている。ジョン・マーフィの悲哀に満ちた音楽がまたいい具合に無常観を盛り上げてくれる。つくづくよくできた映画だと思う。

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 ホラーとしての満足度も高い。盛大に血が吹き出す残虐描写や、感染者たちのアクション指導も徹底していて、襲撃シーンは前作を遥かに凌ぐ迫力だ。また、前作はビデオ撮りだったが、今回はフィルム感のあるドキュメンタリータッチの映像が効果を上げている。全力疾走する人物にぴったり横付けして追うカメラワークも面白い。『28日後…』で最も魅力的だった、誰もいないロンドン市街のシュールな雰囲気も、今回はよりスケール豊かに映像化されている。

 ゾンビ映画の命題とも言えるアクチュアルな軍批判/大国批判もしっかり盛り込んである。逃げ惑う人々に対してNATO軍が無差別銃撃を行うシーンでは、誰しも一度はニュース映像で見たことのある、敵味方の区別もつかない軍による弾圧のイメージが巧みに再現される。中盤のロンドン市街が火の海と化す爆撃シーンは、中東諸国への無差別攻撃を揶揄しつつ、大戦中のイギリス国民の悪夢を再び蘇らせるようであり、不気味な美しさすら湛えていて素晴らしい。

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 出演者も全員が好演。ロバート・カーライルの頑張りには頭が下がる。『ホワイト・ライズ』(2004)の切ないヒロイン役が印象深いローズ・バーンの好演も嬉しかった(全然イメージ違うけど)。米軍特殊部隊のスナイパー役に扮したジェレミー・レナーもかっこいい。でも個人的にいちばんインパクトが強かったのは、姉タミーを演じたイモージェン・プーツ。あまりに美人すぎてノックアウトされてしまった。顔のパーツがいちいち派手なのでモデル系の人なのかと思ったら、演技もちゃんとできるし、泣き顔も綺麗。この人の顔を見ているだけで飽きなかった。

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 ダニー・ボイルの力量では到底、ここまで力強い映画は撮れなかっただろう。スペイン勢へのバトンタッチは正解だった。英国製ホラーとしては、『ディセント』(2005)に並ぶ傑作だと思う。珍しく劇場で2回も観てしまった。これからもホラー映画のオールナイトなどで繰り返し上映されてほしい、心に残る名作だ。

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DVD『28週後…』特別編

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『聖バレンタインの虐殺/マシンガン・シティ』(1967)

『聖バレンタインの虐殺/マシンガン・シティ』
原題:The St.Valentine's Day Massacre!(1967)

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 禁酒法時代のシカゴで、ギャングたちがマシンガンで一斉に“処刑”された1929年の「聖バレンタイン・デーの大虐殺」事件を題材にした、実録ギャング映画の佳作。監督はBムービーの帝王、ロジャー・コーマン。暗黒街の抗争劇がいかにして血まみれの結末を迎えていったかを、ナレーションを効果的に使ったソリッドな演出できびきびと綴っていく。脚本はSF雑誌「アメージング・ストーリーズ」の元編集者で、テレビドラマの脚本も数多く手がけたハワード・ブラウン。アル・カポネを始め、殺し屋から巻き添えを食って死んだ修理工まで多数のキャラクターを登場させ、それぞれの背景を説明しつつ巧みに交通整理し、クライマックスへと導いていく手腕が見事。

 本作はコーマンが大手映画スタジオの20世紀フォックスに招かれて撮り上げた初めての“Aムービー”でもある。低予算のAIP作品ではなかなか組めないセットをふんだんに使った20年代シカゴのビジュアルも見どころだ。

 刺激的なバイオレンス描写を差し挟みながら、ギャング同士の抗争劇をテンポよく綴る本作を観ながら真っ先に思い出すのは、もちろん『仁義なき戦い』(1973)である。スピーディーな筋運びや実録物スタイルの形式もそうだが、人物やドラマに対する乾いた態度も似ている。深作欣二はきっとこの映画を観ていたに違いない、と思わずにはいられない。ヤクザ者の下卑た人間性や病んだ暴力性を「当然のこと」としてスクリーン上に映し出す現代感覚のリアリズムは、コードに縛られたメジャースタジオの“お上品な”監督には真似のできない、直截的でためらいのない悪意が迸っていて痛快。早撮りの達人らしい「コクのなさ」も小気味いい。

▼アル・カポネ役のジェイソン・ロバーズ
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 マイク・ホッジス監督のファンとしても、この映画は見逃せない。『ブラック・レインボウ』(1989)のジェイソン・ロバーズと、『電子頭脳人間』(1974)のジョージ・シーガルの共演作だからである。アル・カポネを演じるジェイソン・ロバーズは、実物のカポネ本人を意識した強烈なメイキャップを施し、さながらアンソニー・クインとハンフリー・ボガートを足して2で割ったような風貌で、凶暴な熱演を見せている。本物のカポネは丸顔なので似ているわきゃあないんだけど、そんなことはお構いなしの迫力で観る者を圧倒する。瓢々とした味わいのある演技派ロバーズが、こんなにテンションの高い(暑苦しい)芝居をしているのも珍しい。

▼右がピート役のジョージ・シーガル
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 対するジョージ・シーガルは、若さに任せてカポネの組織に喧嘩を売る凶犬ヤクザ・ピートを悠々と快演し、本作で最も鮮烈な印象を残す。この人もまた、しょぼくれた中年を演じさせたら最高という従来のイメージを覆す、爬虫類のような芝居で嬉々としてチンピラになりきっている。そのユーモラスな憎々しさは絶品。金遣いの荒い愛人と延々とケンカを繰り広げるシーンも面白い(こういう場面をちゃんと盛り込むのが偉い)。また、カポネと敵対するボス役を『キッスで殺せ』(1955)に主演したラルフ・ミーカーが演じ、チョイ役でブルース・ダーンも顔を見せる。『血のバケツ』(1959)の常連ディック・ミラーももちろん出演。

 そしてクライマックスは待ってましたの大虐殺!……なのだけど、それまでの展開同様にアッサリてきぱき手際よく処理されてしまうので、今見ると呆気なくも思える。コーマン門下のフランシス・フォード・コッポラ監督が、後に同じ事件をモデルに『ゴッドファーザー』(1971)で描いた、とことんドラマチックなクライマックスほどには当然盛り上がらない。しかし、さんざん無感情な演出を貫いておきながら、映画の幕切れで「暴力の連鎖は今も終わったわけではないのだ! ジャジャーン」みたいな心のこもらない警句でシメるのは、さすがコーマン師匠! という感じで素晴らしかった。

 どうでもいい話だけど、この映画はレーザーディスクの初期にCBS/FOXが発売したLDオンリー商品のひとつだった。他にはジョン・G・アヴィルドセン監督の『ジェネシスを追え!』(1980)とか、リチャード・レスター監督の『ローヤル・フラッシュ』(1975)とかがあった。僕はたまたまブックオフで見つけて、もう寿命ギリギリのディスクで観たけど、わりかし画質もよくてトリミングも気にならなかった。とはいえ今月にはノートリミング版のDVDが発売されるので、なんの価値もなくなってしまうけど。

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DVD『聖バレンタインの虐殺/マシンガン・シティ』

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