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Simply Dead

映画の感想文。

欲しいDVDリスト・海外編[2008.2]

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「字幕はないけど、安いからガマンする」というよく分からない理屈で海外盤を買いあさるダメ人間の欲しいものリストのお時間です。今回は2月リリースの海外盤の中からめぼしいタイトルをピックアップ。前回こぼしていた1月発売の2本も足しておきます。各商品タイトルのリンク先はDVD Fantasium、Amazon.co.ukなど各国の通販サイト。


●発売中
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『Trade』 (2007)
米国盤。ドイツの俊英マルコ・クロイツパイントナー監督が、メキシコの人身売買の実態に迫った社会派スリラー。雑誌記事をもとに『モーターサイクル・ダイアリーズ』のホセ・リベラが脚本を執筆。無名の出演者たちに混じって、娘を売られた過去を持つアメリカ人刑事をケヴィン・クラインが演じている。(Lion's Gate)

『Mandy』(1952)
英国盤(PAL)。聾唖の少女マンディとその家族の心の揺れを描くドラマ。『マダムと泥棒』のアレクサンダー・マッケンドリック監督が、イーリング・スタジオで撮った唯一のシリアス作品。ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞している。(Optimum Home Entertainment)


●2008.2.11発売
『白昼の強奪』 Payroll (1961)
英国盤(PAL)。現金輸送車を襲った強盗団たちのその後の仲間割れと、殺された運転手の妻による復讐を描いた犯罪スリラー。監督は『血臭の森』のシドニー・ヘイヤーズ。復讐を誓うヒロインを演じるのは『Hot Fuzz』でも健在な姿を見せていたビリー・ホワイトロー。(Optimum Home Entertainment)

『The Long Arm』 (1956)
英国盤(PAL)。イーリング・スタジオ製作の刑事サスペンス。ロンドンで起きた強盗事件を追うベテラン刑事がつかんだ手がかりとは……。監督は『南極のスコット』のチャールズ・フレンド。主演は『戦場にかける橋』のジャック・ホーキンス。(Optimum Home Entertainment)

『殴り込み愚連隊』 The Frightened City (1963)
英国盤(PAL)。ハーバート・ロムとショーン・コネリーが共演したギャング映画。ボスの情婦役で『吸血狼男』のイヴォンヌ・ロメインも出演。(Optimum Home Entertainment)


●2008.2.12発売
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『Romance And Cigarettes』 (2005)
米国盤。俳優ジョン・タトゥーロが監督を務めたミュージカル・ラブコメディ。ニューヨークの下町クイーンズに暮らす中年夫婦の悲喜こもごもを描く。出演はジェームズ・ガンドルフィーニ、スーザン・サランドン、ケイト・ウィンスレット、クリストファー・ウォーケン、スティーヴ・ブシェーミなど。(Warner)

『ダルク家の三姉妹』 Some Girls (1988)
米国盤。運命の女性を追って冬のケベックを訪れた若者を出迎えたのは、ダルク家の不思議な女性たち……。ジェニファー・コネリー、パトリック・デンプシー共演の恋愛ドラマ。まあ傑作でもなんでもない小品だけれども、なぜか今までDVD化されていなかった(日本でも未ソフト化)。ジェニファー・コネリーのファンには朗報かと。(MGM/UA)


●2008.2.19発売
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『Rendition』 (2007)
米国盤。CIAが各国で行っているテロ容疑者の拉致監禁・拷問をテーマにした社会派問題作。主演はリース・ウィザースプーン、ジェイク・ギレンホール、メリル・ストリープ。監督は『ツォツィ』のギャヴィン・フッド。(New Line)

『Redacted』 (2007)
米国盤。イラクで米兵によって14歳の少女がレイプされ、その家族も惨殺されたという実際の事件をもとに、ブライアン・デ・パルマ監督が全編ビデオで撮り上げたショッキングな反戦映画。ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を獲得。(Magnolia Home Entertainment)

『Life Is a Bed of Roses』 La Vie Est Un Roman (1983)
米国盤。アラン・レネ監督が80年代に手がけた4作品がKinoから一挙リリース。他に『Love Unto Death (L'Amour A Mort)』(1984)『メロ』(1986)『お家に帰りたい』(1989)も同時発売。(Kino)

『芸術と手術』 TheHands Of Orlac (1924)
米国盤。監督ロベルト・ヴィーネ、主演コンラート・ファイトの『カリガリ博士』コンビによる心理怪奇スリラー。列車事故で両手を失ったピアニストが、殺人鬼の手を移植され、奇妙な幻覚や衝動に悩まされる……。本作と『カリガリ博士』『心の不思議』『Warning Shadows』の4作品をセットにしたDVD-BOX「German Expressionism Collection」も同時発売。(Kino)

『女番長〈スケバン〉』 Girl Boss Revenge: Sukeban (1973)
米国盤。鈴木則文監督、杉本美樹&池玲子主演の「女番長」シリーズ4作目。DVD-BOX「Pinky Violence Collection」からの単品化。(Media Blasters)


●2008.2.26発売
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『ラストエンペラー』 The Last Emperor: Criterion Collection (1987)
米国盤。ベルナルド・ベルトルッチ監督渾身の大作がようやくクライテリオン・コレクションで登場。撮影監督ヴィットリオ・ストラーロ監修によるHDニューマスターの劇場公開版(165分)、218分の全長版、そして音声解説やメイキングドキュメタリー、新撮インタビュー映像など豊富な映像特典を満載した4枚組。(Criterion)

『ベオウルフ 呪われし勇者』 Beowulf: Director's Cut (2007)
米国盤。馬鹿力ダークファンタジーアクションの傑作『ベオウルフ』のディレクターズ・カット版。何がどう違うのか分からないけど、それより立体メガネを付けた3D版も出してくれないと意味がないと思う。2枚組。HD-DVDも同時リリース。(Paramount)

『Goya's Ghosts』 (2007)
米国盤。ミロシュ・フォアマン監督の最新作。異端審問と革命に揺れたスペインを、宮廷画家ゴヤの目を通して見つめた辛口の歴史ドラマ。『ノー・カントリー』も話題のハビエル・バルデムが策略家の修道士を演じる。異端審問官によって凄絶な拷問にかけられる少女をナタリー・ポートマンが熱演。(Sony Pictures)

『天元突破グレンラガン Vol.1』Gurren Lagann Vol.1: Breakout! (2007)
米国盤。ガイナックス×中島かずき(劇団☆新感線)×今石洋之監督のヒットアニメが、アメリカでもリリース開始。Vol.1には第1話から第5話までを収録。(Geneon Entertainment)

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『ザ・クランプス 精神病院ライブ』(1978)

『ザ・クランプス 精神病院ライブ』
原題:The Cramps: Live at Napa State Mental Hospital(1978)

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 ここ最近観た映像の中で、いちばん楽しかった。別に、凝った作りのPVでも『ストップ・メイキング・センス』(1984)ばりの立派なライブフィルムでもない。1978年にカリフォルニア州ナパの精神病院で行われたザ・クランプスのライブを、手持ちの白黒ビデオカメラで撮りっぱなした約20分ほどの記録映像である。それがこんなにも面白いとは! 観ながら思わず「人類の友愛と平和がこんなにもシンプルかつカオティックに実現した瞬間があったんだ!」と感動してしまった。

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 正しく不健全な魅力に満ちたパンクロカビリーバンド、ザ・クランプスのイカした演奏に刺激された患者たちは、やがてステージ上にも自由に出入りし始める。ドラムスの横でフリーキーなリズムマシンと化す者もいれば、バンドメンバーと一緒に踊り狂う者あり、ふらふらステージを徘徊する者あり、あるいは我関せずと新聞を読みふける者もいて、終いにはマイクに割り込んで強引にセッションしてくる女性患者まで出てくる。文字通り“狂気のカオス”が加速度的に展開しながら、そこに不穏な気配はまったくない。なんともピースフルで微笑ましい空気が漂っているのだ。

 同時に、サイコな魔性と不良性みなぎるパフォーマンスが、精神病院内の秩序をハイスピードで無効化していく、アナーキーな高揚感にも溢れている。そのうち暴動になるんじゃないか、というハラハラ感も最高のスパイスだ。これを楽しいと言わずしてなんと言おう!

 ザ・クランプスの面々はフリーマンズの猛攻にもひるむことなく、キレたりもせず、彼らと積極的に“競演”し、その場のグルーヴをひたすら高めていく。ちょっと度が過ぎる時だけさっとステージを立て直す、その手際が実に鮮やかだ。ヴォーカルのラックス・インテリアが、調子に乗った女性患者からマイクを奪い返すあたりのスマートかつジェントルな所作は、ぜひ日常生活でもお手本にしたいと思わせる見事さ(たぶん瞬間的にかなりの腕力を使ってると思うけど)。「ここはいいや」というところでは患者にマイクをポイッと預けてしまうのも格好良かった。

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 どんなフィクションも太刀打ちできない、観る者をたまらなく幸福な気分へと誘ってくれる20分間。世界平和の鍵がここに眠っているとも言える、全人類必見の映像だ。現在、シアターN渋谷大阪PLANET+1で『全身ハードコア/GGアリン』(1994)と2本立てで限定レイトショー公開中。

 『全身ハードコア』もまた、ステージと客席の垣根をぶち壊し、真の自由とは戦いである/ライブとは命がけのスリルであることを教えてくれた偉人・GGアリンの苛烈な生涯を見つめた秀作ドキュメンタリー。監督はのちにハリウッドで快作青春コメディ『ロード・トリップ』(2000)を手がけたトッド・フィリップス。『空飛ぶモンティ・パイソン』のコントを地で行くような人達が大挙登場する爆笑映画でもあるので、これもぜひ劇場で。

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『Halloween』Unrated Director's Cut(2007)

『Halloween』 Unrated Director's Cut(2007)

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 ジョン・カーペンター監督の出世作にしてスラッシャー映画の古典である『ハロウィン』(1978)を、『デビルズ・リジェクト』(2005)のロブ・ゾンビ監督がリメイクした話題作。日本公開はしばらく未定みたいなので、先月アメリカで発売されたアンレイテッド・ディレクターズ・カット版DVDで観てみた。(以下、ネタバレ全開なので楽しみにしてる人はスルーしてください)

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『メルビンとハワード』(1980)

『メルビンとハワード』
原題:Melvin and Howard(1980)

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 ジョナサン・デミ監督が初期に手がけた日本未公開作の1本(WOWOWで放映)。成功や出世とは無縁の平凡な男メルヴィン・デュマーが経験する、数奇な巡り合わせを描いた佳作。実話がもとになっていて、実在するメルヴィン本人も登場する。脚本のボー・ゴールドマンは本作でアカデミー脚本賞を受賞した。

 てっきりハワード・ヒューズと若者の珍道中を描いたロードムービーなのかと思っていたら、全然違った。ハワード・ヒューズは冒頭とラストにしか出てこず、主にはポール・ル・マット演じる主人公とその家族の人生を淡々と追い続けるだけ。だから前半は「このままこいつの冴えない半生を、誠実な演出で見せられるだけで終始してしまうのか……」という不安に陥る。が、終盤でちゃんと事件が起きて、これまで普通の人生を普通に見せていた理由も明らかになり、溜飲が下がる仕掛けになっている。とはいえ、映画としてはやや枯れすぎで、個人的にはイマイチ面白くなかった。秀作ではあるんだろうけど。

 ジョナサン・デミはこなれた語り口でテンポよく映画を走らせながら、突き抜けた映画的ギミックなどは求めず、終盤のドラマチックな展開もことさら盛り上げたりはしない。つとめてオーソドックスな演出を貫く。「どこにでもいる平凡な男が、ハワード・ヒューズの遺産相続者になる」という物語を劇的に描くより、平凡だろうと様々な起伏に富んだ、普遍的だが唯一無二の「個人の人生」をこそ見つめたい、という姿勢を最後まで守りきる。タイトルは単なる引っ掛けに過ぎない。非常に地味な映画と言ってしまえばそれまでだが、一方でコンセプチュアルなレベルでどこか変わったことはやっていて、確かにあまり類を見ない作品ではある。

 本作や『スイング・シフト』(1984)など、ジョナサン・デミの初期作品には何とも評価しづらい、微妙な佳作が多い(そしてほとんどが日本未公開)。どちらかというと『サムシング・ワイルド』(1986)とか『愛されちゃってマフィア』(1988)の分かりやすいエキセントリックさの方が好きなので、『羊たちの沈黙』(1991)以降、劇映画の分野では再び手堅いドラマ作家に回帰してしまったのは残念。かといって今また変わった事をやろうとすると、リメイク版『シャレード』(2002)みたいな大失敗作になってしまうんだろうけど。

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 でも、役者はいい。ジョナサン・デミの映画でいつも感心するのがキャスティングの的確さだ。『メルビンとハワード』でも主演のポール・ル・マットから冴えない感じを巧く引き出しているし、妻役のメアリー・スティーンバージェンもアッパーなキャラクターを熱演。地味な主人公に代わって映画を牽引する役割を見事に果たしている(本作でアカデミー助演女優賞を獲得)。娘役を活き活きと演じるエリザベス・チェシャイアもいい。パメラ・リード、ジャック・キーホー、マイケル・J・ポラード、チャールズ・ネイピアといった脇役陣も印象的。ハワード・ヒューズ役のジェイソン・ロバーズは、ほんの少ししか登場しないのが本当に残念なくらい、強烈なインパクトで“偉大な変人”を演じている。

 ポール・トーマス・アンダーソン監督は、本作に多大な影響を受けたと語っているとか。偶然の出会いが紡ぐ人々の数奇なドラマをフラットな演出ですくいとろうとするスタイルはもちろん、冒頭の主人公たちがラスベガスへ向かう導入部は『ハードエイト』(1996)を連想させるし、タク・フジモト撮影によるエネルギッシュなカメラワークも後のPTA作品に酷似している。

・DVD Fantasium
DVD『メルビンとハワード』(米国盤・Universal)
DVD『メルビンとハワード』(米国盤・Anchor bay)※監督コメンタリーつき


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『Father Brown』(1954)

『Father Brown』(1954)
米国公開題:The Detective

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 ミステリ・ファンにはおなじみのキャラクター、名探偵ブラウン神父をアレック・ギネスが演じた1954年作品。監督は『カインド・ハート』(1949)などでもギネスと組んだロバート・ヘイマー。

 イギリスの作家G・K・チェスタートンが生んだ「ブラウン神父」シリーズは、1934年にハリウッドでもウォルター・コノリー主演で映画化され、70年代にはケネス・モア主演のテレビドラマ版も作られた。ギネス=ヘイマーのコンビによる本作『Father Brown』は、シリーズ第1作の短編「青い十字架」などをもとに、ブラウン神父とのちに同業者となる怪盗フランボウとの出会い、そして彼を改心へと導こうとする神父と犯罪者のかけひきを、軽妙なタッチで品良く描いている。

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〈おはなし〉
 ブラウン神父(アレック・ギネス)は聖職のかたわら、探偵としても活躍している変わり者。警察の手が回る前に犯罪を未然に防ぎ、悪人を更生させることに情熱を傾けている人格者だ。彼はある時、パリへ向かう旅の途中で、変装の名人にして盗みの達人フランボウ(ピーター・フィンチ)と接触。宝石をちりばめた貴重な十字架をエサに捕らえようとするものの、裏の裏をかかれ、まんまと十字架を盗まれた上、逃げられてしまう。フランボウの才能の無駄遣いに心を痛めたブラウン神父は、教会の後援者であり友人のレディ・ウォレン(ジョーン・グリーンウッド)の協力で、再び彼をおびき出そうとするが……。

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 飄々としてチャーミングなブラウン神父のキャラクターが非常に魅力的。官憲の走狗ではなく、あくまで道を踏み外した者の魂を救うために犯罪を防ぐ、という設定が面白い。だから犯人が改心する前に警察に捕まりそうになると、何とか逃がそうと努力したり、犯罪現場に居合わせてしまって誤認逮捕されてしまうこともザラで、元犯罪者からの人望も厚い。教会の庭でいきなり暴漢に襲われたかと思いきや、実は護身術の練習だった、とかいうギャグも可笑しい。

 演じるアレック・ギネスは、さほど年寄りくさい役作りをせず、悪戯っぽい少年性を滲ませ、聖職者としてまだ完成されていない人間的な表情をキャラクターに与えた。それが親近感と共に深みをもたらしている。また、他のコメディ映画では犯罪者やアクの強いキャラクターを演じてきたギネスだからこそ、聖職者でありながら犯罪者に肩入れしてしまう危うさが、無意識のアクセントとして効いているのだ。

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 ロバート・ヘイマー監督は、セルマ・シュニーと共に脚色も担当。誰もが知る有名小説を原作にしながら、気負いなく、実にスマートな1本の物語としてまとめている。演出は『カインド・ハート』ほど澄みきった冷徹さこそないが、語り口の巧さは同作を凌ぐほど。わりとベタなギャグも挟み込んでくるが、品がいいので鼻につかない。ほどよい温かみも備えた、良質のエンターテインメントに仕上げている。

 『カインド・ハート』のヒロイン役でも強い印象を与えたジョーン・グリーンウッドが、美しく知的な未亡人役を魅力的に演じているのも見どころ。怪盗フランボウに扮するのは、『飛べ! フェニックス』(1965)の名優ピーター・フィンチ。個人的にはデニス・プライスに演じてほしかった。

 日本の劇場では未公開、ソフト化もされていない。アメリカでは『The Detective』の公開題でVHSがリリースされていたが、DVDは未発売のもよう。もったいない話だ。

・Amazon.co.jp
VHS 『The Detective (Father Brown)』(米国版ビデオ)
本『ブラウン神父の童心』G・K・チェスタートン

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『Futurama』 First Series(1999)

『Futurama』 First Series(1999)

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 ピザ屋の配達人として冴えない日々を送っていた青年フライ。その年の大晦日、彼は仕事中にふとしたきっかけで人工冬眠マシンに閉じ込められてしまう。そして時は流れ、目覚めるとそこは西暦3000年、千年後の世界だった! フライは飲んだくれの不良ロボット・ベンダーや、腕っぷしの強い一つ目美女のリーラと知り合い、遠い遠い遠い遠い(中略)遠い親戚ファーンズワース教授のもとで、スペースデリバリーボーイとして働き始める。

 『ザ・シンプソンズ』のクリエイターとして知られるマット・グレーニングが手がけた、もうひとつの傑作テレビアニメシリーズ(日本では未放映)。30世紀の未来世界を舞台に、20世紀生まれのダメ青年が銀河を股にかける配達人となって、仲間たちと共に活躍するSFコメディだ。絵柄はまるっきり『ザ・シンプソンズ』まんまながら、またひと味違う面白さのシリーズに仕上がっている。

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 もちろんマット・グレーニング作品らしい皮肉のきいたギャグとパロディが満載で、『銀河ヒッチハイクガイド』や『宇宙船レッド・ドワーフ号』に近いノリの、破天荒かつドライなSFコメディとして楽しめる(アメリカのテレビ番組としては珍しいかもしれない)。その意地悪く突き放した笑いの質は、おかしくもあり、時には切なくもある。優れた未来SFになくてはならない、クールな無常観をしっかり持ち合わせた秀作なのだ。マイク・ジャッジ監督の『Idiocracy』(2006)も、導入部の設定のみならず、本作をかなり意識していると思われる。

 随所に現れるカルチャーギャップの描写は、過去=視聴者にとっての現在である2000年代への痛烈なアイロニーにもなっている。安易な郷愁も抱かせないし、時代の肯定などは絶対にしない。そこがクール。

 映像的には、当時としては目新しかったセルシェーダー3DCGアニメーションがふんだんに採り入れられ、デジタル彩色によるカラフルでポップな未来世界のビジュアルが逆に新鮮。ファンキーで楽しげな音楽と共に、30世紀のニューヨークを映し出すオープニングタイトルは、何度観ても飽きがこない(演出はマイク・スミス)。

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 個性豊かなキャラクターたちも魅力的だ。主人公+ヒロイン+ロボットという王道の主役トリオ設定ながら、少しずつ定石をずらしていくグレーニング式のキャラ造形術が効いている。

 怠け者でテレビ好きの青年フライのどうしようもないダメさ加減は“若きホーマー・シンプソン”といった感じだが、よりオトナ向けに作られた作品だけに突き放し方はより辛辣。親友のロボット、ベンダーの型破りなキャラクターも秀逸だ。主人公よりもだらしない上、アルコール浸けで、性格も悪く、窃盗癖まである厄介者。そんな2人の世話役を務めるヒロインのリーラは、強くて知的で労働者階級出身のセクシーな美女という、いかにもオタク好みのキャラだが、「一つ目」というインパクト絶大のチャームポイントまで持っているのが素晴らしい。発想もいいけど、このビジュアルでちゃんと魅力的に見せているから大したものだと思う。ちなみにリーラ役を演じているケイティ・セーガルは、『地球最後の男/オメガマン』(1971)のボリス・セーガル監督の娘。

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 さて、DVD-BOXの第1巻に収録されている13話の中で、個人的に好きだったエピソードをいくつか紹介してみると……。

Episode 1 「Space Pilot 3000」
シリーズのパイロット版にして記念すべき第1話。タイトルもそこからきている。西暦2999年の大晦日にタイムスリップしてしまった主人公フライが目にする未来世界、リーラやベンダーとの出会い、役人からの逃走劇などがコミカルに描かれる。一見ユートピアのようでありながら、街角に設置された自殺ボックスに長蛇の列ができてたりする皮肉な世界観が楽しい。レナード・ニモイが本人(の保存生首)役でカメオ出演。

Episode 4 「Love's Labours Lost in Space」
消滅寸前の惑星へ希少動物の保護に向かったリーラ、フライ、ベンダー。3人は旅の途中で宇宙的英雄ザップ・ブラニガン艦長の船と遭遇するが、彼の真の姿はとんでもない大馬鹿マッチョ野郎だった。リーラはしつこくモーションをかけられ、弾みで一夜を共にしてしまう……。最低の男と寝てしまった女性の悲喜劇を描いた、『ザ・シンプソンズ』ではまずできない大人向けエピソード。一見タフだが弱さや迂闊さも併せ持つヒロイン・リーラの人間的な面にスポットを当てた秀作だ。タイトルはもちろんシェイクスピアの「恋の骨折り損(Love’s Labour’s Lost)」と、往年のSFファミリードラマ『宇宙家族ロビンソン(Lost in Space)』の合体。無神経でいやらしくて厚かましいブラニガン艦長のキャラがものすごい。『ザ・シンプソンズ』で言うとトロイ・マクルーアと市長の甥を混ぜた感じ。可愛い顔して何でも食べてしまうマスコットキャラのニブラーも初登場。

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Episode 7 「My Three Suns」
液体状の生命体が住む惑星にやってきたフライ一行。ひとりで宮殿へ配達に行ったフライは、喉が乾いて瓶に入っていた水を飲んでしまう。が、それはこの国の王様だった! フライは新国王に選ばれ、優雅な暮らしを満喫するが……。主人公フライの底なしのダメさ加減が楽しめる一編。オーソドックスなSFストーリーの本筋よりも、ベンダーが料理の趣味に目覚める導入部が面白い。タイトルは60年代のTVドラマ『パパ大好き!(My Three Sons)』から。

Episode 8 「A Big Peace of Garbage」
ファーンズワース教授の開発したニオイ望遠鏡で、フライは偶然、宇宙を漂う巨大なゴミの塊を発見。それは21世紀にロケットで無責任に打ち上げられたもので、千年の時を経て再び地球へと戻ってきたのだ。ニューヨークに危機が迫る中、フライとリーラとベンダーは命がけのミッションに旅立つ! 『アルマゲドン』の秀逸なパロディ編。この回は特にギャグが際立っていて、ファーンズワース教授のひどすぎる発明スケッチとか、21世紀のゴミ問題を伝えるドキュメンタリー番組とか、『ザ・シンプソンズ』のセルフパロディとか、メチャクチャおかしい。演出は『ザ・シンプソンズ』でも活躍したスージー・ディーター。エンドクレジットに流れる音楽は某キューブリック作品への素敵なオマージュ。

Episode 9 「Hell is Other Robots」
ビースティ・ボーイズのライブ(ただし保存生首)に行ったフライたち。その楽屋裏でベンダーは電流ショックの味を覚え、タチの悪いエレキ中毒になってしまった。更正のためロボット教会に入った彼は、極端に品行方正な模範ロボ、というより鬱陶しい宗教キチガイに生まれ変わる。フライとリーラは親友を元の性格に戻そうとアトランティック・シティへ連れて行き、なんとかリハビリに成功。しかし、戒律を破ったロボはロボ地獄に落ちなければならなかった! ファーストシリーズの最高傑作。ベンダーの堕落と受難をたたみかけるように描く、歌とギャグ満載の爆笑エピソードだ。タイトルはJ・P・サルトルの言葉「Hell Is Other People.(地獄とは他人のことだ)」から。ビースティ・ボーイズがカメオ出演し、ロボ地獄を司るロボ悪魔の声を『ザ・シンプソンズ』のホーマー役でおなじみダン・カステラネタが怪演。後半の地獄のシーンで繰り広げられるミュージカル・パートは圧巻!

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Episode 10 「A Flight to Remember」
ファーンズワース教授の計らいで、フライたちプラネット・エクスプレス社の面々は、豪華客船型スペースシップで社員旅行に出発。しかし、船長はあの宇宙に名を馳せるアホマッチョのブラニガン艦長で、しかも船の名前はタイタニックだった……。当時、世界的に大ヒットしていた映画『タイタニック』の素晴らしくよくできたパロディ。上流階級の貴婦人ロボットと出逢ったベンダーの切ない恋と別れを主軸に、名場面の数々が再現される。フライとリーラの仲も急接近。タイトルはタイタニック号事件の悲劇を綴った1958年のイギリス映画『SOSタイタニック/忘れえぬ夜(A Night to Remember)』から。

Episode 11 「Mars University」
20世紀には落ちこぼれ学生だったフライは、自分の学力を証明するため火星大学に編入。ルームメイトはファーンズワース教授が育てた天才サルのグンターだ。フライは秀才グンターと火花を散らし、片やベンダーはロボット寮の仲間たちと悪戯三昧を繰り広げ、放校寸前に……。『ナーズの復讐』や『アニマルハウス』といった学園コメディ映画のパロディ満載でおくる、「ホーマー大学へ行く」の姉妹編みたいな最高にバカバカしいエピソード。火星でやる必然性が全くないギャグの乱れ打ちには唖然とする。それにしてもベンダーはベルーシ役にぴったり!

Episode 13 「Fry & The Slurm Factory」
大人気飲料「スラーム」の工場見学ツアーに当選したフライたち。ところがその工場には恐るべき秘密が……。『チャーリーとチョコレート工場』のパロディ編。ウンパルンパもどきもしっかり登場する(もちろん70年代版の方)。『バッド・テイスト』まがいの悪趣味ギャグもてんこ盛り。ナメクジ型宇宙人のデザインがすっごく可愛い。

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 この他のエピソードも十分面白く、小ネタもいちいち楽しい。シリーズ全体に一定のクオリティが保たれているので、安心して観ていられる。『ザ・シンプソンズ』のファンで、SFも好きで、簡単な英語が分かる人にはぜひおすすめ。テレビ番組なので、DVDは日本のAmazonでも購入可能。

・Amazon.co.jp
DVD『Futurama』Vol 1(3枚組)
DVD『Futurama』Vol 2(4枚組)
DVD『Futurama』Vol 3(4枚組)
DVD『Futurama』Vol 4(4枚組)

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