Simply Dead

映画の感想文。

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『ローズ・イン・タイドランド』(2005)

『ローズ・イン・タイドランド』
原題:Tideland(2005)

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 ヤク中の両親を相次いで亡くし、たった一人でテキサスの草原に放り出された少女ジェライザ=ローズが、持ち前の空想力(強靱な防衛機制)でサヴァイヴする物語。

 フィリップ・リドリーは初監督作『柔らかい殻』(1990)で、その空想力ゆえに狂気へと向かう少年の悲劇を端々しく描いたが、やはり齢65になって己の道を貫くギリアムは、若き夢想家の味方だ。世間から隔絶されたド田舎の明るい地獄を舞台に、ジャック・ケッチャム的な惨劇に流れそうな予感も孕みつつ、そうはならない。甘やかしすぎという気はするが、それが今のギリアムなのだと思う。少女の危険な遊戯を諭すでもなく、むしろ圧倒的な共感と共に、現実と幻想のスリリングな綱渡りを紡いでいく。

 とにかく、主人公ジェライザ=ローズを演じるジョデル・ファーランドへのベタ惚れぶりが圧倒的なのだ。カメラは活き活きと空想の世界を跳びはねる彼女の魅力を捉えることに腐心し、近年のギリアム作品にはなかった熱をも全体に取り戻している。

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 一方で、ついにテリー・ギリアムも夢想によって共闘する相手に「少女」を選んでしまったか、という感慨もあり、オタク監督らしい少女幻想や美意識が漂うのは否めない。どこまでもヒロインが傷付かないのは、単純に、監督自身が娘の親であるということも大きいだろう。本作では『未来世紀ブラジル』(1985)にも出演した実娘ホリーが制作助手として参加している。

 演出が三人称になったことで、逆にヒロインのみに視線が集中し(一人称であれば少女の視点からの客観性が加わったはずだ)、映画自体はやや冗漫になった感はある。が、あまりに凡庸だった前作『ブラザーズ・グリム』(2005)なんかよりは百倍面白いし、個人的には『ラスベガスをやっつけろ』(1998)よりも十倍くらい好きだ。つまり、ここ最近のギリアム作品の中ではいちばん面白い映画だった。

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 一瞬グレン・クローズとも見紛う片目の魔女デルを迫力たっぷりに演じたジャネット・マクティアは、『キング・イズ・アライヴ』(2000)以来の好演。ジェニファー・ティリー演じる母親がシーツにくるまれて死んでいる佇まいも素晴らしかった。ニコラ・ペコリーニの撮影、マイケル&ジェフ・ダンナ兄弟の音楽もいい。もしマイケル・ケイメンが生きていたら、どんなスコアをつけていただろう……と、観ながら思ったりした。

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『Nada』(1974)

『Nada』(1974)

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 最近、クロード・シャブロル監督の研究本『Claude Chabrol (French Film Directors) 』を読んでいて、改めて作品本数の多さに愕然。この本が出た時点での最新作『Rien ne va plus』(1997/英語題:Swindle)が50本目ですから、2006年現在ではもう55本撮ってることになります。恐ろしい……。

 日本ではもう発展しない感じですが、欧米ではいまだにシャブロルの人気は現在形で、本人が精力的に新作を撮り続ける一方、旧作のリリースも盛んです。やはり転機となったのは、アメリカのPathfinder社から発売された70年代作品を集めたDVD-BOX「The Claude Chabrol Collection」でしょうね。僕も買いました(まだ全部は観てませんけど)。

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・DVD Fantasium
「クロード・シャブロル コレクション」DVD-BOX(US盤・8枚組)

 収録タイトルは、『女鹿』『不貞の女』『肉屋』『野獣死すべし』『破局』『十日間の不思議』『汚れた手をした無実の人々』『ナーダ』の8本。一応、日本でもかつて特集上映されたらしく邦題はついていますが、正式には『女鹿』を除いて全て劇場未公開です。

 さて『Nada』は1974年の作品で、駐仏アメリカ大使を誘拐した右翼テロ組織「ナーダ」と、警察の非情な追撃を描いたポリティカル・スリラー。原作はロマン・ノワールの代表格、J=P・マンシェットの『地下組織ナーダ』。ハヤカワポケミスで邦訳が出ていましたが、今は絶版。

 『肉屋』や『破局』といった作品で漲っていたシャブロル特有の“悪意”は、この映画でも健在。特に、手柄を立てるためには手段を選ばない警部ゴエモン(本当にこういう名前)のキャラクターが最高です。彼自身、犯罪者たちを人間とも思っていないロクデナシなので、その対立劇には単純な善悪観など存在しません。演じるミシェル・オーモンの孤立した中間職っぽさがまた絶妙(笑)。犯人達のアジトに突入するクライマックスも、単に「虐殺」以外の何ものでもなく、シャブロルの非情な視線が冴え渡っています。

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 逆に、テロリストたちの方はといえば、常に内部崩壊の危機をはらんだ脆弱な連帯として描かれます。その名が“Nada”(=Nothing)というのは分かり易すぎるネーミング。リーダー役ファビオ・テスティを筆頭に、メンバーがルー・カステルやマリアンジェラ・メラートといった顔ぶれなので、もう破綻は約束されたようなもの。途中で組織を抜けたがために警部に利用される気弱な教師を、シャブロル作品常連のミシェル・デュショーソワが演じていて、いい味だしてます。

 葛藤を抱えたテロリスト集団に、その皆殺しをもくろむ悪辣な警察。シャブロルはもちろん、実際に政治運動家でもあったマンシェットさえも、心から描きたかったのは政治的主張より“人道から外れた者たち同士の繰り広げる対立”でしょう。物語の結末で描かれるのは、主人公が政治的意図とは関係なく「落とし前」をつける姿であり、まさにここで観客は溜飲を下げます。

 そうした精神的にフリーキーな対立構図は、当時のロマン・ノワール作家たちが好んで描いています。マンシェットの『狼が来た、城へ逃げろ』など、わりと戯画的でファンタジックな感覚の作品が多い中、題材のアクチュアリティとスキャンダラスな設定を持った『地下組織ナーダ』を原作に選んだのは、シャブロルの計算高いところかもしれません。

 高級娼館での大使誘拐シーンのサスペンス、テロリストたちの微妙な人間関係のタペストリー、田舎を舞台にした警察との攻防など、シンプルな語り口で小気味よく描いていく巧さは、さすがシャブロル。疑心と悪意と暴力に満ちた、紛うかたなきシャブロル作品でありながら、骨太のエンターテインメントとしても成立しています。

・DVD Fantasium
『Nada』DVD(US盤)

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 ちなみに、こちらは今年4月にイギリス・Arrow Films社からリリースされたDVD-BOX。

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 収録本数は変わりませんが、こっちは『女鹿』『不貞の女』『肉屋』『野獣死すべし』『ナーダ』の他、『Juste Avant Le Nuit』『Les Noces Rouges』『ボヴァリー夫人』が入ってます。

・DVD Fantasium
「The Claude Chabrol Collection」DVD-BOX(UK盤・8枚組)

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『The Simpsons』season 6, season 7

『The Simpsons』season 6, season 7

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 こないだやっと『ザ・シンプソンズ』のシーズン6&7のDVDボックスを見終えました。本編(567分+573分)と各話音声解説を合わせて(×2)、計38時間。しかも字幕なしで……結構、充実感あります。

 なんでわざわざ北米盤を購入したかというと、先頃リリースされた日本版にはスタッフによる全エピソードの音声解説が入っていなかったから(泣)。シーズン5まではちゃんと日本語字幕つきで入っていて、特に製作総指揮のデイヴィッド・マーキン(シーズン5&6の製作を担当)のトークが面白くて何度も観てたんですが、待ちに待った新シリーズでは敢えなくカット。何しとんねん!というわけで迷わず本国版に切り替えました。

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『Dillinger è morto』(1969)

『Dillinger è morto』
英語題:Dillinger is Dead(1969)

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 イタリアの奇才、マルコ・フェレーリ監督が1969年に製作した作品(日本未公開)。本国で英語音声つきのDVDが出ていると知り、DVD Fantasiumで注文してみました。キャストはフェレーリ作品ゆかりのメンバーで、『最後の晩餐』(1973)のミシェル・ピコリが主演。初期の名作『猿女』(1963)で主演したアニー・ジラルドが、ここではとても艶っぽく美しく撮られています。主人公の若妻を演じているのは、ローリング・ストーンズのファム・ファタルとして知られる、アニタ・パレンバーグ。

〔おはなし〕
 仕事を終えた男(ミシェル・ピコリ)が帰宅すると、若い妻(アニタ・パレンバーグ)は「疲れた」と言って寝ていた。仕方なく彼は一人で夕食を作り始める。

 調味料を探している途中で、男は戸棚の奥から古い銃を見つけた。中身はそっちのけで、包み紙の古新聞を読み耽る男。アメリカの犯罪王デリンジャーの記録映像がフラッシュバックする。銃はひどく錆びついていたので、分解してオリーブ油に浸けたりする。その間も着々と夕食の準備は進む。

 やがて料理が出来上がり、男は一人優雅にディナーを楽しむ。食べ終わると、今度は映写機でプライベートフィルムを見始める。スペイン旅行の思い出、遊びで撮った手のエロティックなダンス。その間、銃の手入れも着々と進む。やがてフィルムも終了。まだ眠れない。

 寝ている妻にちょっかいを出したり、セクシーなメイド(アニー・ジラルド)のベッドに忍び込んだり、銃を水玉模様にペイントしたり、男の長い一夜は終わらない。弾も見つかった。そんな中、妻は依然ぐっすりと眠ったまま……。

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 万事この調子で、暇を持て余す中年男の姿がだらだらと、不気味な緊張感を漂わせながら描かれていくのみ。真剣みのない状況で、約束された破綻(しかし、それすらドラマにならない)を描かせたら、フェレーリの右に出る者はいません。リアリスト的な目線で、おっさんの一人遊びを余すところなく描いていきますが、全編ラジオやレコードで音楽がひっきりなしに流れているせいか、不思議と退屈しません。手のダンスシーンは圧巻。テオ・ウスエリのサントラ、素晴らしいです(CD出てないのかな?)。もちろんミシェル・ピコリの魅力に因るところも大。不思議な愛嬌と凄味がありますよね、この人。

 銃を手にした男の気まぐれは、誰もが思った通りの展開に帰結し、さらに予想だにしない地獄のように楽天的なエピローグへとなだれ込みます。さすがフェレーリ!って感じのエンディングで、爆笑しました。イメージ的には後年の快作『I LOVE YOU』(1986)と全く一緒だったりします。

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 DVDの特典映像に収録されていたインタビュー集で、撮影監督のマリオ・ヴルピアーニは「フェレーリのベストフィルムの1本だと思う」と語っていますが、それも納得の内容。とんでもない低予算で作ったらしく、ラストの海のシーンではスタッフが3人しかいなくて、主演のミシェル・ピコリが移動撮影を手伝ったとか(笑)。キッチンの場面は常連俳優ウーゴ・トニャッツィの家で撮影したそうです。

・DVD Fantasium
『Dillinger è morto』DVD(イタリア盤)

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『Nina's Tragedies』(2003)

『Nina's Tragedies』(2003)

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 イスラエルで作られた艶笑喜劇タッチの人間ドラマで、アカデミー外国語映画賞にもノミネートされたヒット作。ヒロインのニーナを演じたアイェレット・ゾラーは、この作品の成功がきっかけでスピルバーグ監督作『ミュンヘン』(2005)の主人公の妻役に抜擢。個人的に、『ミュンヘン』での彼女のあまりにイイ女っぷりが気になったので、米国盤のDVDで観てみました。

〔おはなし〕
 少年ナダヴは、若く美しい叔母のニーナに恋している。彼女には、その聡明さに相応しくない(とナダヴは思っている)乱暴者の夫ハイモンがいた。もちろんナダヴにとっては敵である。そんなある日、ハイモンは爆弾テロに巻き込まれて死んでしまう。兵士たちから訃報を受けとり、悲嘆に暮れるニーナ。偶然その場に居会わせたカメラマンのアヴィノームは、密かに彼女に一目惚れしていた……。

 数週間が経ち、心の傷も癒え始めたニーナは、アヴィノームの熱心な求愛にほだされ、彼と一夜を共にする。しかし翌日、彼女は町で、全裸のハイモンが皮肉な笑みを浮かべて佇んでいるのを見てしまう。夫への愛を裏切ってしまったと後悔するニーナは、アヴィノームと会うのをやめ、再び悲しみの殻に閉じ籠る。

 一方、人知れずニーナへの愛と憎しみに引き裂かれていたナダヴ少年は、意外な事実を知ってしまうのだが……?

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 この「意外な事実」というのがプロットの肝で、なかなか面白いと思います。ただし全体的には非常にオーソドックスなドラマ展開で、次々と不幸の波状攻撃が襲いかかってくるカウリスマキみたいな喜劇性はありません。結局は誰にとっても悲劇で終わらないし。

 途中まであまりに普通の映画なので「こりゃ期待外れかな」と思いましたが、後半すっとぼけた味が出てきて持ち直しました。全裸の亡夫の幻影を見るというのも、かのブラジル映画の名作『未亡人ドナ・フロールの理想的再婚生活』(1976)のパクリじゃんか!と思ったら、もう一捻りあって安心。キャラもそれぞれ立っていて、少年と友情を育むデバガメのおっさんが特に可笑しかったです。ふんだんなヌード・シーンも体を張って演じるアイェレット・ゾラーも魅力的。でも、あくまでやり過ぎることのない、ソツのない佳作でした。

 それにしても台詞に下ネタがやたら多いんですが、イスラエルの国民性なんでしょうか。それとも国際市場向けの戦略?(下ネタは全世界共通ですし)

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『ドカベン』(1977)

『ドカベン』(1977)

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 金沢21世紀美術館で開催された「映画の極意Vol.5 ~鈴木則文 エンタテインメントの極意~」に行ってきました。時間の都合で3本しか観れませんでしたが、毎回お客さんがみっちり入っていて素晴らしかったです。金沢の映画ファンは意識が高いのかなー。そして、ゲストで来場されていた鈴木監督ご本人が、全ての上映作品を観客と一緒にご覧になっていたのが感動的でした。

 それぞれ異彩を放つ傑作揃いのラインナップに、満場の観客がハートを撃ち抜かれていましたが、中でも反応が大きかったのがこの実写版『ドカベン』。会場中を衝撃と爆笑の渦に叩き込んでいました。

 主人公ドカベンが本屋の看板から飛び出してくるオープニングからしてすでに感涙ものですが、本編はそれ以上にテンション高く、実写の限界どころか原作マンガさえも逸脱した異空間が繰り広げられます。マンガならではの表現も特撮で果敢にチャレンジ。画面にオプチカル合成がかかる瞬間、これほどワクワクする映画が他にあったでしょうか?(明らかにフィルムの色調が変わるので、何かと思ったらロケットの発射カウントが出て、川谷拓三が窓からブン投げられて空を飛んだりします)

 鈴木作品と言えば、ヒロインへの思い入れ。基本的には男の子たちのドラマである『ドカベン』でも、女の子はみんな可愛く撮られています。夏子はんを演じるマッハ文朱のキュートさは特筆もの。そして、きわめて健全な妹萌え!

 イイ顔すぎる主役3人の初々しさからも目が離せません。みんな全国公募で選ばれたそうですが、中でも岩鬼役の高品正広が素晴らしい! ドカベンを演じる橋本三智弘も、何とも愛らしい素朴さを漂わせています(永島敏行の初演技はこの際不問に……でも、いい味だしてるのは間違いないです)。ここで見逃してはいけないのが、素人にもきっちり「身体で」演技させていること。台詞の言い回しよりも、やはりフォームなのです。ダンス的というか。

 圧巻はラスト。盛り上がり方がハンパないです。酔いどれ徳川監督役で、いきなり原作者の水島新司が登場し、全盛期の神代辰巳を彷彿とさせるルックスで観客ドン引き! そしてグラウンドに乗り込むやいなや、怒濤の勢いでノックを打ち込む水島先生の姿はまさに鬼! そんな鬼ノックを容赦なく食らいながら、素人野球部員たちがだんだん本物のフォームを獲得していく様を、たった1シークェンスの短いカットの積み重ねで見せてしまうのです。そこに実際の高校野球の記録映像がカットバックされ、ドラマティックな感動をもたらします。まだ練習してるだけなのに! これこそ映画史に残る名モンタージュ!

 今回初めてフィルムで観て、「やれることは全てやりきっている」という充足感を、さらに強く感じました。監督曰く、

「東映東京には巨匠がたくさんいて、こっちはお子様ランチ作ってるとか言われないよう、頑張って作ったよ」

 ……グッときました。

・Amazon.co.jp
『ドカベン』DVD

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『真夜中のピアニスト』(2005)

『真夜中のピアニスト』
原題:De battre mon coeur s'est arrêté(2005)

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 昨年の横浜フランス映画祭で観て、打ちのめされた傑作。やっとDVD買いました。
 ジャック・オディアール監督の映画は全部好きです。スタイリッシュに偏りすぎない、ドライな演出スタイルを貫き、タイトにサスペンスを紡ぎ上げながら、必ず何かしらひねったオプティミズムを突っ込んでくる(笑)、あまりないタイプの作家です。そういうのが本当に「カッコイイ」と思うんですけどね。
 作品数は少ないですが、毎回その特異な語り口には呆気に取られます。この作風が、フランス映画界を代表する名脚本家(ミシェル・オディアール)を父親に持つプレッシャーを乗り越えた結果だと思うと、余計に不思議に感じます。

 映画祭のティーチインで初めて見たオディアール本人は、えらくふざけた愉快なおっさんで、自分の中の尊敬ゲージがさらに上がりました。たぶんゲイ。
 DVDには来日時の監督・キャストのインタビューが入ってて、こちらでは監督の真摯な(ちょっと怖い)面が見られます。凶顔なんですよね。出演者のエマニュエル・ドゥヴォスが監督を評して「会ったら分かると思うけど、ほら、あの人ってあんな感じだから、フランス映画界でもちょっと浮いてるのよね」とか言っていたのが可笑しかったです。

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『時をかける少女』(2006)

『時をかける少女』(2006)

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 先日、試写会で観てきました。期待に違わぬ秀作。個々のシーンの演出やテクニックに関して「すげー」とか思う余裕は、少なくとも初見ではありません。というか、そういう見方をする気持ちが湧かないのです。

 何しろ全体がいいから。

 98分間、ただ映画を観る楽しさと幸福感に身を委ねるのみ。監督の理想とする作品の姿が、かなり完璧に近いかたちで叶えられてる気がします。それも、ほどほどの完璧――よく出来すぎて息苦しくならないようにもコントロールされている感じ。肩の凝るような力作ではなく、スケール的にはとても慎ましい、良質のエンタテインメント作品になってます。あと、監督の「ガハハ笑いする女の子好き」がかなり大っぴらに炸裂してました。

 音楽も良くて、劇中、バッハのゴールドベルク変奏曲がとても印象的に使われてました。ゴールドベルクといえば、グレン・グールドのピアノ演奏が有名。グールド演奏のゴールドベルク変奏曲を全編に使ったSF映画といえば……そう!
マイク・ホッジス監督の『電子頭脳人間』!!
(要するにこれが言いたかった)

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『Eroticofollia』(1974)

『Eroticofollia』(1974)
aka: Malocchio, Evil Eye

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 ジャケットの絵がナイスだったので思わず購入してしまった1枚。ローマに暮らすリッチなプレイボーイ(ホルヘ・リヴェロ)が、黒魔術の呪いらしきものに翻弄され、行く先々で死をもたらす恐怖を描いた、いわゆるオカルトジャーロ。監督は戦争アクションとエロティック映画を多く撮っているマリオ・シシリアーノ。

 ミステリかオカルトか、作ってる方もどっちで行ったらいいのか分かってなくて、最初からブン投げてる感バリバリの、要するにやる気のない退屈な作品。次々に起こる殺人事件や超常現象にも、全然フォローないし。
 でも後半、事件を追う刑事(アンソニー・ステファン)まで呪いに巻き込まれるくだりは、ちょっと不気味でいいかも。一応、犯人らしき人(演じるはリチャード・コンテ)は出てきますが、はっきりした犯行理由は曖昧なまま。ラストはホントに取って付けたような「夢か現実か」的オチで、これもそれなりに不思議な余韻を残します。まあ、全体的にはつまんないですけど。

 DVDはドイツのX Rated Kult盤(PAL)で、あちらでのタイトルは『Das Geheimnis Des Magischen Kreises』。音声はドイツ語のみ、英語字幕つき。本編より特典にいっぱい入ってたジャーロ映画の予告編集の方が楽しかったです。
 おまけでシングルサイズのDVDが入ってて、何かと思ったらこっちも予告編ばっかり延々40分ぐらい入ってました。『カリブ・ゾンビ』とか『ビヨンド』とか『Flavia the Heretic』とか『エイリアンズ』とか『鷹爪鐵布衫』とか。ドイツ版なんで貴重といえば貴重かも。

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本サイト更新【06/07/06】

 本サイト「dead simple」マイク・ホッジス監督のフィルモグラフィーに、《未完企画・シナリオ》の項目を加えました(いちばん下の方)。今回は2作品を紹介。

 まず1本目は、
『Say Goodnight, Lilian―Goodnight』
http://deadsimple.web.fc2.com/02_00tvseries.html#lil

 女性スタンダップ・コメディアンを主人公にしたアイロニカルなドラマです。

 そして2本目が、
『Midnight Shakes the Memory』
http://deadsimple.web.fc2.com/02_00tvseries2.html#mid

 ティム・ロビンス監督の『クレイドル・ウィル・ロック』(1999)の元になった、アメリカ演劇史に残る事件の映画化企画。この作品でロビンスは主役のオーソン・ウェルズを演じるはずでした(こっちは前からアップしてたんですけど、フィルモグラフィーからリンクを張るのは初めてです)。

 前者は1978年頃、後者は1988年頃の企画。どっちも実現してほしかったなあ。

 もう1本、ホッジスが長年暖めていた『Mid-Atlantic』というシナリオがあって、そちらの詳細も近日中にアップしたいと思います。

 ハリウッドでも日本でも、長年こねくり回していた企画が流れるなんてことはざらにある話で、いちいち取り上げていてもキリがないのですが、とりあえずこの3作品についてはホッジス本人の思い入れも強いようなので、上げることにします。

『ホロコースト(Amen.)』(2002)

『ホロコースト アドルフ・ヒトラーの洗礼』
原題:Amen.(2002)

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 『ミッシング』(1982)の社会派、コスタ=ガヴラス監督の2002年作品がようやっとDVDリリース。でも、ついこないだ米国盤DVDを買ったばかりだったりして……フランス映画祭で観ておけばよかった……(ちなみに、国際公開を視野に入れて製作された映画なので、台詞は全編英語です)

 第2次大戦下、ドイツ。若く有能な科学者ゲルシュタイン(ウルリヒ・トゥクール)は、家族思いの善良な男である。彼はナチスに引き抜かれ、害虫駆除と浄水装置の研究に励んでいる。あるとき、ポーランドに放置された青酸300缶の用途調査を命じられたゲルシュタインは、それがユダヤ人収容所で「有効利用」されていることを知る。

 くそ。
 おれは人殺しの群れの中にいる。

 害虫とはユダヤ人のことだ。駆除とは虐殺のことだ。ゲルシュタインは訪独中の枢機卿がいるカソリック教会に駆け込み、バチカン教皇からの告発を懇願するが、枢機卿はそれをはねつける。「親衛隊がユダヤを守るとはな!」 バチカンにとって、ヒトラーはスターリンを倒すための必要悪だった。

 絶望するゲルシュタインに、ただひとり、イエズス会の若き神父フォンタナ(マチュー・カソヴィッツ)だけが手を差しのべる……。

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 映画は、2人の人物が世界中の無関心と戦いながら、ひたむきに奔走する姿を綴ります。きびきびとスピーディーに進むガヴラスの演出は、やはりベテランの業。真面目一辺倒でもなく、劇的な人間ドラマとサスペンスを織り交ぜながら、エンタテインメントとしても成立させています。収容所長たちから「処理する死体の数が多すぎるんです!」とか「夢に見るんです!」とかクレームが噴出する場面など、ブラックユーモアも冴えていて、なかなか圧倒的な作品。

 後半の主役といえるマチュー・カソヴィッツの抑えた演技も魅力。彼が教皇の前である“決断”を見せる場面は、非常に感動的です(見せ方がまた巧い)。

 そして、あまりに苦い結末は、紛れもなくガヴラスでした。

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『カーズ』(2006)

『カーズ』
原題:Cars(2006)

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 これも『レイヤー・ケーキ』と同じ日に観ましたが、こっちはものすごい傑作! 「人間の頭部からはこんなに水が噴き出すのか」と思うくらい泣かされました。ほとんど涙のカツアゲ状態。今ちょっと思い出してもヤバイくらい。

 監督のジョン・ラセターは父親がカーディーラーだったそうで、幼い頃から車とアニメが大好きで今に至る、という人。だから車の見せ方にはハンパなくこだわってます。美しく光沢を放つボディ、カーレース・シーンの迫力、自然の中を走り抜ける爽快感……ホント好きなんだなーって感じ。『クリスティーン』とか撮ったらどうなるんだろう? と思いました。
 でも映像的なこだわり以上に、演出の語り口がことごとく巧いです。そもそも脚本を6人がかりで書いてるだけあって(マカロニウエスタンかい)、気合いの入れ方が違います。今回、ピクサーの長編としては初めて余計な人間キャラが出てこない、というのも爽快感の原因のひとつかも。

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 やんちゃで自信過剰で、だけど寂しがり屋で、人を惹きつけずにはおかない主人公マックィーンの声を、オーウェン・ウィルソンが演じるという配役が絶妙! 観てる途中で「あれ?」と気づいたんですが、そこからはオーウェン本人にしか見えませんでした(上写真)。心の師となる市長役、ポール・ニューマンの好演も嬉しい限り。『ロード・トゥ・パーディション』(2002)なんかよりずっと生気に溢れた演技が聴けます。

 「道に迷った主人公が、地図にない町にたどり着く」というあらすじを聞いた時は、思わず『2000人の狂人』(1964)を思い出しましたが、そこで幽霊ネタに振ったりしないのがラセターの誠実さ。スモールタウンの郷愁、どこまでも広がる自然、ヒーローの復活といった「アメリカン・スピリット」へのストレートな想いが随所で謳われ、それだけでもう目が潤みます。
 たとえば“9.11”後に公開されたサム・ライミ監督の『スパイダーマン』(2002)で、「自分たちが愛するもの、守るべきもの」を真摯に省みる眼差しを見た時、やっぱり号泣させられたのと同じように。スパイク・リー監督の『25時』(2002)も同様に、呪詛と共にあったのはやはりホームタウンへの狂おしい愛情でした。
 「私たちの愛するものは、まだ生きている」と伝える映画でもあります。
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 併映の短編『ワンマン・バンド/One Man Band』(2005)も、登場する女の子のムッとした表情が素晴らしく魅力的な逸品です。今までの併映作品でいちばん短い気もする快作。

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『レイヤー・ケーキ』(2004)

『レイヤー・ケーキ』
原題:Layer Cake(2004)

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 初日に観てきました。のっぴきならないトラブルに巻き込まれた若きドラッグディーラーが、事態を収拾しようと立ち回るうち、その裏に隠された陰謀を知るというストーリー。『ロック,ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)や『スナッチ』(2000)をプロデュースしたマシュー・ヴォーンの監督デビュー作。といっても、ガイ・リッチーのような軽さとミュージックビデオ的な映像志向はなく、もっとシリアスでリアリティに寄った裏社会もの。スタイリッシュでお洒落でユーモラスで、といった宣伝イメージとは異なりますが、シャープでオーソドックスな演出は、なかなか見ごたえあり。

 しかし、J・J・コノリーが原作・脚本を手がけたストーリーは、やや詰め込みすぎで、いかにも「先の読めない小説」のバカ正直な映画化といった感じ。かなり削ぎ落としているにしろ、もっとシンプルにスマートにお話を作れないもんかな、と思いながら観てました。

 主演は『ミュンヘン』(2005)での好演も記憶に新しいダニエル・クレイグ(新生「007」に抜擢されたことでも話題を呼んでますが、やっぱり第2のジョージ・レーゼンビー?)。他にコルム・ミーニーやマイケル・ガンボン、マルセル・ユーレスやケネス・クラナムといった錚々たる俳優陣が共演しています。クラナムといえば『ヘルレイザー2』(1988)の変態院長役が最高でしたね。『ロック,ストック?』のジェイソン・フレミングとデクスター・フレッチャーも顔を見せます。ちょっと役者を揃えすぎの感もありますけど。

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 劇中では「時代遅れの向こう見ず野郎」と言われるキレやすいギャングを、マイク・ホッジス監督の『ブラザー・ハート』(2003)でのミクサー役も印象深いジェイミー・フォアマン(上写真)が演じていて、非常にハマっていました。

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