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Simply Dead

映画の感想文。

2019年に面白かったもの

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 2019年は劇場長編アニメーションだけでベストテンが作れてしまうのでは?と思ったので、実写作品は抜きにして年間ベストを選ぶとするなら、以下のとおり。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
『海獣の子供』
『スパイダーマン:スパイダーバース』
『羅小黒戦記』
『チェリー・レイン7番地』(東京国際映画祭にて上映)
『音楽』(2020年1月11日公開)
『都市投影劇画 ホライズンブルー』
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
『きみと、波にのれたら』
『アヴリルと奇妙な世界』

 なんと、これだけ挙げても『トイ・ストーリー4』『ディリリとパリの時間旅行』『プロメア』『天気の子』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』『幸福路のチー』『空の青さを知る人よ』といった見応えある傑作・快作が溢れてしまうのだから、いかに今年はアニメーション豊作の年だったかということ。とはいえ、数が多かったぶん残念な作品もけっこうありましたが……。

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 実写作品でベストテンに入れたいくらい面白かったのは、以下のとおり。2020年1月発売の『映画秘宝』ベスト&トホホ号にて、悩みに悩んで決めた順位を発表しております。ちなみに大晦日に駆け込みで観た『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は入っておりません。

『アイリッシュマン』
『アベンジャーズ/エンドゲーム』
『アマン』(カナザワ映画祭2019「大怪談大会」にて上映)
『アメリカン・アニマルズ』
『We Have Always Lived In The Castle』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『ウトヤ島、7月22日』
『ウルフズ・コール』(フランス映画祭にて上映)
『Extra Ordinary』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『エクストリーム・ジョブ』(2020年1月3日公開)
『エンテベ空港の7日間』
『オーヴァーロード』
『家族を想うとき』
『ガルヴェストン』
『感染家族』
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』
『GANG』(釜山国際映画祭にて上映)
『キング・コーエン』(カナザワ映画祭2019「大怪談大会」にて上映)
『グリーンブック』
『グレタ GRETA』
『コンフェッション・キラー:疑惑の自供』(ドキュメンタリーシリーズ/Netflix)
『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』(ドキュメンタリーシリーズ/Netflix)
『ザ・テキサス・レンジャーズ』
『サバハ』
『ザ・フォーリナー/復讐者』
『Savage』(釜山国際映画祭にて上映)
『さらば愛しきアウトロー』
『The Lodge』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『The Art of Self-defense』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『G殺』(大阪アジアン映画祭にて上映)
『ジャスト6.5』(東京国際映画祭にて上映)
『SHADOW/影武者』
『シュヴァルの理想宮/ある郵便配達員の夢』
『ジュマンジ:ネクスト・レベル』
『少女は夜明けに夢をみる』
『ジョジョ・ラビット』(2020年1月17日公開)
『ジョン・デロリアン』
『スピード・スクワッド/ひき逃げ専門捜査班』
『全裸監督』(ドラマシリーズ/Netflix)
『ダンボ』
『鉄道運転士の花束』
『Dragged Across Concrete』
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2020年1月31日公開)
『なまず』(大阪アジアン映画祭にて上映)
『ニーナ・ウー』(釜山国際映画祭/東京フィルメックスにて上映)
『ネバーランドにさよならを』(ドキュメンタリーシリーズ/Netflix)
『バイス』
『ハイ・フォン』
『ハッピー・デス・デイ』
『ハッピー・デス・デイ2U』
『パドマーワト 女神の誕生』
『パラサイト 半地下の家族』
『バンブルビー』
『羊とオオカミの恋と殺人』
『ヒンディー・ミディアム』
『ひとつの太陽』(2020年1月24日、Netflixにて配信予定)
『フォードvsフェラーリ』(2020年1月10日公開)
『ブラインドスポッティング』
『ブラック・クランズマン』
『フリーソロ』
『フリードキン・アンカット』
『ボーダー 二つの世界』
『ホームステイ ボクと僕の100日間』
『ホテル・ムンバイ』
『Volare』(釜山国際映画祭にて上映)
『マインドハンター《シーズン2》』(ドラマシリーズ/Netflix)
『マーウェン』
『マザーレス・ブルックリン』(2020年1月10日公開)
『マリッジ・ストーリー』
『ミスター・ガラス』
『MOPE』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『ラスト・ムービースター』
『ラ・ヨローナ伝説』(東京国際映画祭にて上映)
『リトル・フォレスト 春夏秋冬』
『淪落の人』(2020年2月1日公開)
『ルチアの恩寵』(イタリア映画祭にて上映)
『ルディ・レイ・ムーア』
『LEGOムービー2』
『レ・ミゼラブル』(2020年2月28日公開)
『Roam Rome Mein』(釜山国際映画祭にて上映)
『ワイルドライフ』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』


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 2019年の『映画秘宝』本誌では『ハイ・フォン』レ・ヴァン・キエ監督、『なまず』イ・オクソプ監督、『天国でまた会おう』アルベール・デュポンテル監督、『海獣の子供』渡辺歩監督、『きみと、波にのれたら』湯浅政明監督、『ホームステイ ボクと僕の100日間』パークプム・ウォンプム監督、『アナと世界の終わり』ジョン・マクフェイル監督、『惡の華』原作・押見修造さん、『エンテベ空港の7日間』ジョゼ・パジーリャ監督、『エクストリーム・ジョブ』イ・ビョンホン監督に取材。「吹替秘宝」では堀内賢雄さん、多田野曜平さん、宮内敦士さん&安原義人さんにインタビューする機会に恵まれました。さらに『CLIMAX クライマックス』ギャスパー・ノエ監督&塚本晋也監督、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督&町山智浩さんの対談まとめも担当。本誌以外にも『別冊映画秘宝 サスペリア マガジン』『別冊映画秘宝 決定版ゾンビ究極読本』に参加できて楽しかったです。

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 また、本ブログで微力ながら応援させていただいた『死霊の罠』Blu-ray化クラウドファンディング企画が実現し、ブックレットの関係者インタビュー(『死霊の罠』特殊メイク・若狭新一さん、『死霊の罠2 ヒデキ』監督・橋本以蔵さん&脚本・小中千昭さん)を担当できたことも嬉しかったです。東宝ステラさんに声をかけてもらった『海獣の子供』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『空の青さを知る人よ』のパンフレットの仕事も、大変でしたが忘れがたい思い出になりました。インタビューを担当した「公式ビジュアルストーリーBook 海獣の子供」も読んでもらえると嬉しいです。

 突然の『映画秘宝』休刊の報に揺れているさなかではありますが、悲しんでばかりもいられないので、とにかくやることはやっていきます(ちなみに休刊になったこと自体は「時代の流れ」とは全然関係ありません)。いろいろありますが、2020年もよろしくお願いいたします!

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おかあさんがいっしょ。『死霊の罠』と『ハサミ男』

『死霊の罠』ブルーレイ化クラウドファンディング
達成記念企画(あとづけ)

おかあさんがいっしょ。
『死霊の罠』と『ハサミ男』


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「この子は、体も病んでいるが心がもっとやられている。火傷のように爛れているんだ」

 あの眼光。鬼気迫る表情。映画ファンなら誰もが『赤ひげ』(65年)の二木てるみに圧倒されたはずだ。狂気に満ちた眼差しで床を磨き続ける天涯孤独の少女、おとよ。上のセリフは、三船敏郎演じる赤ひげが見習いの保本(加山雄三)を担当医として任命し、鼓舞するときの言葉だ。『死霊の罠』(88年)米国盤DVDのオーディオコメンタリーでも、池田敏春監督は二木てるみを紹介するときに『赤ひげ』を代表作として挙げていた。

 もし、おとよが岡場所から救出されず、あのまま狂気を育み続けていたら、どうなっていただろうか?

 『死霊の罠』で二木てるみが演じたのは、謎の殺人者ヒデキの母の声。冒頭とクライマックス近くで聞こえる「ヒデキちゃーん」という呼び声は、どこにでもいる普通の母親のそれだ。子供の秘めた邪気や悪意など、まるで疑っていないような母の声。だからこそ不気味さはいや増す。彼女はヒデキの闇を知らなかったのだろうか?

 そして16年後、二木てるみは再び池田敏春作品で「殺人者の母親」を演じることになる。

【注:映画『ハサミ男』の核心部に触れていますので、未見の方はご注意ください】

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 池田敏春監督が飽くことなく描いてきた「二面性」というモチーフ。『魔性の香り』(85年)の哀しきヒロイン・秋子、『ちぎれた愛の殺人』(93年)の妻と同化する男・村木、そして『死霊の罠』のヒデキと大輔。殊能将之の同名小説を映画化した『ハサミ男』(04年)はそのひとつの到達点と言えよう。それまでの池田作品では謎めく存在として配置してきた多重人格者を、ここではついに堂々の主人公として、語り部として、共感をさそう者として、さらには救われるべき者として描いている。

 原作小説のファンにはあまり評判のよくない映画化であり、その理由もわかる。原作が持つミステリ小説としての醍醐味、巧みなミスリードがもたらす衝撃とカタルシスは、この映画版においては早々に放棄されるからだ(映像化のアイデアとしては秀逸だと思うが、たぶん本当の問題はそこではない。詳しくは後述)。人格が分離していることを明白に可視化した「彼女と彼」を主人公として、物語は展開していく。

 原作では別人格が現れるタイミングにはあるパターンがあるが、映画版は「2人」でいることが常態化しているため、一種のバディものに振っている。自殺願望と殺人衝動に取りつかれた異常に自己評価の低い女性(麻生久美子)と、知的で能弁、飄々として常に偉そうなメンター兼サポーター人格(豊川悦司)の凸凹探偵コンビ。豊川演じる「彼」は、原作における「医師」とはだいぶ人物造形も異なるが、どこにでもくっついてくる“口の悪い探偵助手”として、それはそれで魅力的なサイドキック・キャラになっている。池田監督いわく、喋り方は相米慎二をモデルにしたそうだ。どこへ行くにも常に一緒の2人が、周囲に違和感をまきちらしながら事件を解明していくという、キャラクターものとしての舵の切り方は功を奏していると思う。『死霊の罠』のヒデキと大輔の日常も、こんなふうにポップに描いたらどうなるか?なんて夢想してしまう。

 映画独自のアレンジとして、「彼女」と会話していた者が「彼」の声を耳にして、不気味がるというくだりがある。ここで即座に思い出すのが、『死霊の罠』の終盤、ヒデキと大輔の“会話”を名美(小野みゆき)が盗み聞きするシーンだ。サイコな人物の内面が漏れ出て外部の人間にも影響を及ぼす、ほんの少し条理を超えた映画のマジックも池田作品のトレードマークである。

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 作品全体のタッチは、原作のクールな一人称文体を反映して、池田敏春作品としては珍しいほど温度が低く、淡々として、冷笑的だ。それでいてテンポは速い。捜査に奔走しながら見当違いの方向へ突っ走っていく刑事たちのパートは、監督も「テレビの刑事ものを意識した」とメイキングで語っているが、フィクショナルな感触が強調されるぶん「茶番」感もいや増している。それに拍車をかけるのが、オールアフレコという手法だ。

 池田監督がロマンポルノ時代から親しんできたアフレコという手法は、本作においては単なる経済的事情以上に、作品全体に漂う虚構性、非現実的な作り物っぽさを増強するために機能している(ちなみに『死霊の罠』もオールアフレコだし、『赤ひげ』の岡場所での乱闘シーンも、見事なまでに音が整理されたアフレコ処理で作られている)。ただ本作の場合、その狙いが誤解され、額面どおり「チープでわざとらしい」演出と受け取られているフシはある。

 池田監督は、おそらく音づくりに関しては同録の生々しい音より、夾雑物の少ないフィクショナルな音響設計のほうを好んだのではないか。そういう部分でも『ハサミ男』は池田監督の実験意欲がひときわ強く感じられる作品である。「不自然」であることが、むしろ歓迎されるのだから。

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 メインストーリーの女子高生殺人事件が解決したあと、映画では原作にないオリジナルパート=最終幕が20分近くも続く。ここで登場するのが、二木てるみ演じる「彼女」の母親である。我が子の罪を知らない、のんきな母親。二木は『死霊の罠』、『鍵』(97年)に続いて3本目の池田作品への参加となる。『がんばれ!! タブチくん!!』(79年)などで声優経験もあり、アフレコ慣れしている二木の達者なセリフ回しが、ゾクゾクするほど違和感を際立たせる。

 本作の違和感、不自然さがピークに達するのが、「彼女」のトラウマとなった父親の死の回想シーンだ。バカバカしければバカバカしいほど良い、とでも言いたげな安っぽい合成処理の飛び降り映像。普通に映画を観ていたら終盤で急に投げやりになった……みたいな印象すら抱きかねないだろう。でも、あの描写にこそ池田敏春という人の凄みを感じてしまうのは、気のせいだろうか。父親の死にわざとらしく居合わせる女子高生姿の「彼女」。わざとらしくそこに駆けつける母親。おそらく複数の時制が混濁した、事実と異なる記憶の再生。そこには「人は記憶を改竄する生き物だ」という強い意識を感じるし、もっと言えば「トラウマなるもの」に対する不信感が伝わってくるような冷たさがある。

 そうなると、『死霊の罠』のあのテープの声も怪しく思えてくる。あれは本当に「ヒデキの母」の声なのだろうか? ヒデキ(大輔)の作り上げた記憶のなかにある母のセリフを読まされている、赤の他人の声なのではないだろうか?

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 原作では素早く切り上げられる「彼女」と「父親」のドラマを、池田監督は独自の脚色でたっぷりと掘り下げ、殺人衝動の根源たるコンプレックスからの解放を丹念に描いていく。それは、原作ファンにとっては受け入れがたい部分でもあるだろう。それでも、このエピローグは感動的だ。少女たちを殺して回る殺人鬼よりも、「彼女」に寂しい思いをさせた父親の自殺のほうをこそ、この映画では罪深いものとして描く。希死念慮に憑かれた主人公の内面世界を、そして彼女が救済を得るまでのプロセスをひたすら丹念に真摯に描くことは、もしかしたらセルフセラピー的な意味もあったのかもしれない。

 池田監督は原作者に映画化のオファーをしたとき、『シックス・センス』(99年)を引き合いに出したという。それは終盤のどんでん返しからの連想ではなく、おそらく池田監督のなかで『シックス・センス』が歳の離れた凸凹探偵コンビを描いたバディものであり、なおかつ疑似親子ものであるという認識があったからではないか。池田監督にとって『ハサミ男』は、ずっと「父と娘」のドラマだったのだ。

 ここまでシリアルキラーの心情にやさしく寄り添った映画も、なかなかないだろう。もし「もうひとりの自分(またはイマジナリーフレンド)とお別れする名場面ベストテン」みたいなランキングがあるなら、個人的には『ファイト・クラブ』(99年)や『氷の接吻』(99年)や『キャスト・アウェイ』(00年)などと一緒に、本作の屋上のシーンはけっこう上位に入れたい。真犯人が社会的制裁なしに救いを得て幕を下ろすエンディングを、原作の切れ味とはまた違った繊細さで描いてみせるのも、池田監督らしくて痛快だ。

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 そして、本作にはもうひとりの「母親」が登場する。殺された女子高生、樽宮由紀子の母・とし恵だ。娘とは不仲の冷たい母親というイメージで語られる彼女を演じるのが、『死霊の罠』の名美こと、小野みゆきである。かつてヒデキたちが母の面影を重ねたヒロインの、16年ぶりの池田作品への帰還となった。出番は多くないが、「真実は見たとおりとは限らない」という本作のサブテーマを体現する人物であり、主人公の心を強く揺さぶる重要なキャラクターを好演している。池田監督がこの役を彼女に託したことに、ちょっと感動する。

 監督自ら「持てる技術の集大成」と語った『ハサミ男』には、それまで池田作品を支えてきたキャスト・スタッフが集結。常連俳優の清水宏や広岡由里子、プロデューサーの渡辺敦、共同脚本の香川まさひと、撮影の田口晴久、音楽の本多俊之ほか、池田作品ゆかりの人々が多数、名を連ねている。企画立案から撮影に至るまで、さらに完成から劇場公開されるまでも時間がかかり、都内ではお台場のシネマメディアージュでの単館公開という不遇な扱いを受けた作品だが、改めて再評価されるべきではないだろうか。特に『死霊の罠』とは、セットで(殺人者側から)観直してほしい一作だ。


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MOTION GALLERY
「邦画スプラッター・ホラーの傑作
『死霊の罠』『死霊の罠2 ヒデキ』のブルーレイ化を実現させよう!」
https://motion-gallery.net/projects/cinema_donuts-001

『ハサミ男』 2004/119分/メディアボックス配給/DVD:東宝
製作/東宝、東北新社、広美
企画/藤原正道、瀬崎巌、岡田真澄
エグゼクティブプロデューサー/斎春雄、渡辺英一
プロデューサー/釜秀樹、林哲次、渡辺敦
原作/殊能将之
監督/池田敏春
脚本/池田敏春、香川まさひと
音楽/本多俊之
ラインプロデューサー/大里俊博
撮影/田口晴久
照明/斉藤志伸
美術/西村徹
編集/大畑英亮
録音/神保小四郎
整音/山本逸美
脚本協力/長谷川和彦、山口セツ、相米慎二
出演/豊川悦司、麻生久美子、斉藤歩、樋口浩二、石丸謙二郎、清水宏、永倉大輔、菅原大吉、小池章之、阪田瑞穂、小野みゆき、柄本佑、外波山文明、蛍雪次朗、広岡由里子、三輪明日美、二木てるみ、寺田農、阿部寛

『死霊の罠3』こと『ちぎれた愛の殺人』

『死霊の罠』ブルーレイ化クラウドファンディング
勝手に応援企画その5(番外編)

『死霊の罠3』こと
『ちぎれた愛の殺人』


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 海外でのタイトルは『EVIL DEAD TRAP 3』、つまり『死霊の罠』シリーズの3作目と称されることもある、池田敏春監督×石井隆脚本コンビによるミステリースリラー。製作はパイオニアLDC、プロデューサーは『この世界の片隅に』(16年)の真木太郎。池田監督とは傑作『くれないものがたり』(92年)に続くタッグである。1993年6月にテアトル新宿ほか全国劇場で公開され、その後ビデオとLDが発売されたが、国内ではDVD化されていないので観る機会の少ない1本である。

 池田監督・石井脚本のコンビ作としては『天使のはらわた 赤い淫画』(81年)、『魔性の香り』(85年)、『夜に頬よせ』(86年TV/88年放映)、『死霊の罠』(88年)に続く5作目となる。さらに遡ると、池田敏春は曽根中生監督の『女高生 天使のはらわた』(78年)と『天使のはらわた 赤い教室』(79年)、田中登監督の『天使のはらわた 名美』(79年)でも助監督を担当し、原作者である石井と監督たちとの間で調整役を務めてきた。ゆえに互いに対する敬意と信頼は強く、嗜好も似ていて相性もよかったのだろう。にっかつ時代には西村望の小説『火の蛾』をともに映画化する企画もあったが、これは頓挫し、のちに石井隆監督作品『死んでもいい』(92年)として結実する。

  『ちぎれた愛の殺人』は、90年代に入ってすぐ大ヒットした『羊たちの沈黙』(91年)の向こうを張ったサイコスリラーとして企画されたであろう内容だ。さらにドラマ『ずっとあなたが好きだった』(92年TV)の常軌を逸したマザコン演技でブレイクした佐野史郎に、サイコキラー(的な)役を演じさせるなど、いろいろと「当てに行って」いる作品である。同時に本作は、石井隆が描き続けてきた名美と村木の救われないラブストーリーのひとつであり、池田監督がこだわり続ける人間の「二面性」を掘り下げた作品でもある。

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▲主人公の女性刑事・陽子を演じる横山めぐみ(左)と、その相棒となる食いしん坊刑事役の山田辰夫(右)

 身元不明の女性の切断死体が、出雲の海に打ち上げられる場面で、映画は幕を開ける。首も手足もない、裸の女の白い胴体だけが真っ黒な岸壁に打ち上げられたイメージが鮮烈だ。ほかにも劇中では「冷蔵庫に入りきらないほどみっしり詰め込まれた切断死体」といった、いかにも池田監督の好きそうなビジュアルも登場する。

 死体発見と時同じくして、東京のとある短大で1人の女子大生が投身自殺を図る。彼女の遺書には、剣道部顧問である助教授・村木(佐野史郎)との不倫関係が記されていた。警視庁の女性刑事・陽子(横山めぐみ)は、かつて自分の同級生だった女子大生の失踪事件と、やはりその際に関係者として浮上していた村木の疑惑を改めて洗い出そうと試みる。その背後にちらつく、村木の妻・名美の存在。彼女は精神を病んでおり、夫の故郷である出雲で療養生活を送っているという。だが、その姿を見た者はいなかった。陽子は謎の核心に迫りながら、同時に抗いようもなく村木に惹かれていくのだった……。

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▲終盤に登場するだだっ広い“処理室”はスタイリッシュな『悪魔のいけにえ』といった趣き

 横山めぐみ演じるおきゃんな女性刑事はあんまり有能そうには見えないが、そんな彼女とさながら「レクターとクラリス」のような禁断の関係に陥る村木役の佐野史郎は、『死霊の罠2 ヒデキ』(92年)のサイコパス演技とは打って変わって、妖しくも危うい魅力を放つカッコいい系のキャラクターを、ほんのり“得意技”の怪演をきかせながら生真面目に演じている。そのアンバランスな二枚目ぶりは、『死霊の罠』で本間優二が演じた大輔のニヒルなキャラクターに近い。村木と陽子が惹かれ合う描写はちょっとトレンディドラマっぽい雰囲気もあり、時代を感じさせる。

 終盤では艶やかな女装姿を見せたり、多重人格的な芝居をノリノリで披露したりするものの、実はそれも……というのが本作のツイスト。佐野史郎が当時得意とした変態キャラ的イメージを逆手にとったキャスティングといえる。剣道シーンでのキレのある動きなど、アクション俳優としてのポテンシャルを池田監督が引き出そうとしているかのようだ。

 狂っているのは余貴美子演じる名美である。登場シーンはおそらく10分にも満たないが、そのインパクトは絶大だ。白いデスマスクを被り、巨大な鉄斧を振りかざす雄姿、痙攣する前衛ダンサーのような動作が、なんとも禍々しく魅力的である。

 愛する者のために手を汚し続ける村木の純愛は、すでに腐臭を放っていることに本人だけが気づいていない。愛はすべてを狂わせる。石井隆らしい捻ったロマンティシズムであり、『死霊の罠』のいじらしくも血にまみれた兄弟愛に通じるホラー観である。そう思えば池田監督は、殺人者/復讐者の動機には常に「愛」があることを描いてきた作家であり、『人魚伝説』(84年)も『湯殿山麓呪い村』(84年)も『死霊の罠』も『MISTY/ミスティ』(91年)も『ハサミ男』(04年)も、すべて「ちぎれた愛の殺人」の物語と言える。

 青を基調とした……というより、シーンによっては真っ青に染め上げられた過剰にスタイリッシュな映像美は、『死霊の罠』以上にダリオ・アルジェントの影響を感じさせる。もしかしたら当時の邦画ファンが心酔していた「キタノ・ブルー」への対抗意識か……などと勘ぐってしまうほど、本作の「青」は強烈だ。巨大な換気扇が回る、だだっ広い地下の“処理室”で展開するクライマックスでは、『サスペリア』顔負けの条理を超えた原色照明エフェクトが炸裂! ぜひ高画質で再見したい名場面だ。

 脇を固めるキャストのなかでは、『MISTY/ミスティ』に続いて池田組に参加した山田辰夫の好演も心に残る。四六時中なにかをムシャムシャ食ってばかりいる所轄の刑事・武藤という役で、いいところを見せようと思った矢先に不憫な最期を迎えるのが悲しい。池田監督は、山田辰夫がデビュー間もなく出演したにっかつ作品『鉄騎兵、跳んだ』(80年)の助監督も務めていた。その後、池田監督が手がけたオリジナルビデオ『暴力商売』シリーズ(01~02年)にもレギュラー出演している。

 杖をついた先輩刑事役の清水宏、特殊美術創作として参加した若狭新一、操演の岸浦秀一、音楽の吉良知彦といった『死霊の罠』組もとい池田組の面々はここでも健在。企画は『死霊の罠』も含め、ディレクターズ・カンパニー時代から池田監督を支えてきた渡辺敦。本作も『くれないものがたり』同様、日活出身の半沢浩プロデューサーが立ち上げたフィルム・シティが制作プロダクションを担った。これも本来ならディレカンで撮るはずの企画だったのかもしれない。『死霊の罠』に続いて、この映画も『くれないものがたり』とセットで「池田敏春×パイオニアLDC Blu-ray BOX」みたいなかたちでリリースしてくれないだろうか?

●クラウドファンディング・サイト
MOTION GALLERY
「邦画スプラッター・ホラーの傑作
『死霊の罠』『死霊の罠2 ヒデキ』のブルーレイ化を実現させよう!」
https://motion-gallery.net/projects/cinema_donuts-001

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『ちぎれた愛の殺人』 1993/101分/東京テアトル、パイオニアLDC配給
製作/真木太郎
プロデューサー/半沢浩、山本文夫
監督/池田敏春
脚本/石井隆
撮影/田口晴久
照明/木村誠作
録音/小高勲
整音/神保小四郎
編集/井上治
美術/丸尾知行
特殊美術創作/若狭新一(MONSTERS INC.)
操演/岸浦秀一(ローカスト)
音楽プロデューサー/梶原浩史
音楽/吉良知彦
製作協力/フィルムシティ
製作/パイオニアLDC株式会社
出演/佐野史郎、横山めぐみ、山田辰夫、浜田晃、椎谷建治、清水宏、竹井みどり、中村由真、広岡由里子、今井健二、余貴美子
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