Simply Dead

映画の感想文。

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『ある戦慄』(1967)

『ある戦慄』
原題:The Incident(1967)

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 ある夜、地下鉄に偶然乗り合わせた人々が、粗暴なチンピラ2人組のいやがらせに遭う恐怖を描いた傑作。現代人の脆さ、リアルな不快感を赤裸々に映し出したモダンスリラーであり、都会の縮図と病理をワンシチュエーションで見事に切り取った社会派ドラマでもある。若き日のマーティン・シーンの映画デビュー作としても知られている。

 監督は『さよならコロンバス』(1969)や『パニック・イン・スタジアム』(1976)のラリー・ピアース。80年代以降はあまり目立たない職人監督になっていくが、アメリカン・ニューシネマ前夜に作られた本作には、その才気が全編に溢れている。秀逸なシナリオを手がけたのは、TV脚本家のニコラス・E・ベア。

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〈おはなし〉
 ある日曜の深夜。マンハッタンへ向かう地下鉄の車両に、様々な人々が乗り込んでくる。眠った娘を抱えて家に帰ろうとするサラリーマンの夫婦(エド・マクマホン、ダイアナ・V・D・ブリス)。熱烈にキスを交わし合う若者カップル(ドナ・ミルズ、ヴィクター・アーノルド)。息子に借金を断られ、若い世代への不平を愚痴りながら帰途につく老人とその妻(ジャック・ギルフォード、セルマ・リッター)。休暇中の若い兵士2人組(ボー・ブリッジス、ロバート・バナード)。冴えない高校教師と、甲斐性なしの夫に不満を持つ妻(マイク・ケリン、ジャン・スターリング)。年老いたアル中の男(ゲイリー・メリル)と、彼のあとをついてきた孤独なゲイの青年(ロバート・フィールド)。白人嫌いの短気な黒人男性と、その妻(ブロック・ピーターズ、ルビー・ディー)。

 そこに、今しがた強盗をしてきたばかりのチンピラ2人(トニー・ムサンテ、マーティン・シーン)が乗り込んできて、乗客の一人一人に絡み始めた。それぞれに反抗を試みるものの、弱みにつけこまれたり、強引にねじ伏せられたりして、結局は自分の脆さをさらけ出して萎縮してしまう。誰も助け船など出してはくれない。チンピラたちは図に乗り、次第に態度も暴力的になっていく。ついには、一人の若い兵士が立ち上がるのだが……。

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 電車の中で酔っぱらいが暴れたり、調子に乗ったチーマーや、もしくは不良外国人が他の客に絡んだりする姿を目にすることは、誰しも経験があると思う。大体そういう時のパターンは決まっている。

・「そのうち静かになる」「誰かが注意してくれる」と思って誰も何も言わない。
・思いきって注意すると、大抵の奴は「もっと普通に言えよ」と逆ギレする。まして手など掴んだりすると「口で言えばいいだろう、触ってんじゃねえよ」と絡む。
・注意したはずが言い負かされた人は、屈辱にまみれた使用済みティッシュのように小さくなる。
・他人事のようにニヤニヤ笑いながら、事の推移を見ている奴がいる。

 こういう状況に居合わせると、もうそれだけで心が腐るような気分になる。『ある戦慄』では、そんなシチュエーションであらわになる人間のネガティヴな表情……無力感、敗北感、不甲斐なさ、失望、増長、怒り、無関心などが、容赦なく映し出される。そこに肉薄するモノクロ映像はパワフルかつシャープで、俳優たちの演技も実にリアルで生々しい。細かい台詞や表情まで、人間の反応を実によく観察していて、もはや動物学的ですらある。

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 映画の構成はすごくハッキリしていて、律儀なくらい厳密。上映時間100分のうち、冒頭10分でチンピラ2人組を紹介し、前半40分で列車に乗り込んでくる人々の人間模様を丹念に見せ、後半50分で恐怖の密室劇を映し出していく。全員分のリアクションをきっちり回収していくシナリオが、何しろよくできている。キャラクターそれぞれの造形がしっかりしているので、後半のスリルと緊張感がいや増し、最後まで展開から目が離せない。ラリー・ピアース監督の力強く冷徹な演出、フットワークの軽いモノクロ撮影、リアリティ溢れる地下鉄車両のセットも素晴らしい。開巻10分してようやく出てくるオープニングタイトルが、またえらくカッコイイのだ(テリー・ナイトによる音楽の力も大きい)。

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 凶悪なチンピラを演じる2人の若手俳優、トニー・ムサンテとマーティン・シーンのインパクトが何しろ強烈。次第に凶暴性を剥き出し、歯止めを失っていくジョー役のムサンテは、後に『豹/ジャガー』(1969)や『歓びの毒牙』(1971)に主演し、70年代映画ファンのあいだではお馴染みの顔。アーティ役のマーティン・シーンも、お調子者っぽさと狂気が表裏一体になった、予測のつかない感じが怖い。

 乗客を演じる俳優も芸達者ばかりだ。腕にギブスをはめたオクラホマ出身の兵士を演じるのは、ボー・ブリッジス。ジェフ・ブリッジスの兄としても有名だが、本作では柔和で純朴そうな(悪くいえば田舎くさい)青年を巧演し、クライマックスでは大立ち回りも繰り広げる。チンピラの一人がナイフを取り出した時の「ええ?」みたいな表情が、実にリアルで素晴らしい。

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 『アラバマ物語』(1962)の名演が印象深い黒人俳優ブロック・ピーターズも、屈折したキャラクターを絶妙に演じている。最初は白人同士のなじり合いを楽しんでいたが、「俺はクロも嫌いだ」と侮辱されて激昂し、妻に懇願されて拳をおさめざるを得なくなる時の悔しさに歪む表情が凄い(鼻の穴の大きさにも驚くけど)。夫思いの妻を演じたルビー・ディーは、後にスパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)などで、名脇役として返り咲いた。彼女の繰り返す「It's not worth it」という台詞も印象的。

 最初にいじめの標的となるゲイの青年ロバート・フィールドの憔悴演技も、かなり真に迫っている(今ならウィル・フェレルが演りそう)。『拾った女』(1953)の名女優セルマ・リッターも顔を見せる。

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 狭い車内で2人の男が対決するクライマックスの緊張感とカタルシスも凄いが、決着がついた後、警官が車両に駆け込んでくるところで、さらにもうひとつダメ押しがある。これが凄い。そして、自ら血を流してまで暴虐に立ち向かった者に対して、誰も感謝の一言すら発さない。それが現実なのだ(辿り着いた終着駅は、グラインドハウスでおなじみ42番街)。実に苛烈な傑作である。まあ、日曜の深夜の地下鉄に、こんなにたくさん人が乗ってくるのかな? という疑問はあるけれども。


製作/エドワード・メドウ、モンロー・サクソン
監督/ラリー・ピアース
脚本/ニコラス・E・ベア
撮影/ジェラルド・ハーシュフェルド
美術/マニー・ジェラード
音楽/テリー・ナイト
出演/トニー・ムサンテ、マーティン・シーン、エド・マクマホン、ダイアナ・V・D・ブリス、ブロック・ピーターズ、ルビー・ディー、ドナ・ミルズ、ヴィクター・アーノルド、マイク・ケリン、ジャン・スターリング、ロバート・フィールド、ゲイリー・メリル

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コメント

いざ自分だったら

いざ自分だったら。 その電車車内に乗り合わせたとしたら、、、。どう行動できただろうかと終始自分に問いかけてしまう映画だった。みんなが一致協力してこのこの暴漢を押さえつけることができても、各人各様の思いや感情がエスカレートしこの男を殺してしまうような事になった時、その責任の一端が自分にも、、、。しかし、自分の恋人や妻の前で恥はかきたくない。考えさせられる映画だった。

コメントありがとうございます。
とにかく人物描写が優れていて、個々のキャラクターのどれかに感情移入をさせてしまう映画なので、誰しも「もし自分なら」とリアルに考えてしまう作品ですよね。もう40年以上も前の映画ですけど、いまだに現代性と迫真性を失っていない傑作だと思います。

  • 2010/06/20(日) 05:50:30 |
  • URL |
  • グランバダ #h1buydM2
  • [ 編集]

とても考えさせられます

NHKのテレビで1万羽のフラミンゴがたった1羽のわし?たか?に襲われ1羽のフラミンゴが襲われ、やれ自分でなくて良かったと何事もなく過ごす映像がありました。
圧倒的に多数なのに、動物とはそういうものか、この映画もそういった感があります。

  • 2010/09/19(日) 13:18:31 |
  • URL |
  • もと #0gGcZsiM
  • [ 編集]

本日初鑑賞しました。見応えある映画ですね。ナイトオブザリビングデッドと同時期ですね。NYの地下鉄のレトロ感がよいです。裸電球でした。

  • 2013/07/28(日) 23:29:44 |
  • URL |
  • ソバ #-
  • [ 編集]

意外な俳優陣・・・ 
良くできた作品であり、 
人間ドラマだ
みて、損は無い・・・・・

  • 2016/11/22(火) 19:14:11 |
  • URL |
  • 金無し #-
  • [ 編集]

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